2024.07.31/最終更新日 2024.07.31

エクオール産生菌と腸内フローラの関係、検査方法やサプリメントの選び方

腸内細菌

エクオール(Equol)は複数の腸内フローラが関わり、腸内細菌による反応が段階的に進んで産生される、大豆イソフラボンの代謝産物です。更年期症状に関する話題が印象的な一方で、一部のがん予防や脳血流の改善による認知機能低下の予防、脂質代謝の改善など幅広い分野で期待されています。現代では遺伝子解析技術の進歩により、エクオールと腸内フローラとの関係について飛躍的に研究が進みました。これまでに分かっているエクオールの知識や自分にあったサプリメントの選び方を身に付け、副作用の少ない食品で健康管理に取り組んでみませんか?

エクオールの作用や注目されている理由

エクオール(Equol)は、フラボノイド※で大豆イソフラボンの一種であるダイジンが、腸内細菌によって代謝されることで生成する代謝産物です。フラボノイドと聞くと、茶に含まれるカテキンや蕎麦に含まれるルチン、ブルーベリーに含まれるアントシアニンなどを思い浮かべる人も多いでしょう。植物にとってフラボノイドは、紫外線や乾燥といった様々な環境ストレスへ適応するために必要な物質です。その多彩な生理活性や薬理作用はまだ分かっていないことも多く、幅広い分野に渡り研究が続けられています。

なかでもエクオールは女性ホルモンによく似た分子構造を持つことでエストロゲン活性(女性ホルモン様作用)を示し、乳がんや前立腺がん、更年期症状の予防や改善効果との関連が報告されています。 そのほか、心臓血管疾患の予防効果があることも知られ、基礎研究では脳血流の改善作用に関する報告も。近年では、認知機能低下を予防する効果や脂質代謝の改善、骨粗しょう症の予防についても検討が重ねられているところです。

※フラボノイド:2個のベンゼン環が炭素原子3つで結合した基本構造を持つものの総称で、ポリフェノールの一種。

発見から1世紀、さらに研究は続くエクオール

初めてエクオールが発見されたのは1932年、妊娠中の馬の尿中から発見されたため、ラテン語で“馬のような”という意味のequineが語源です。1940年代には、大豆食品中の主なイソフラボンにおける構造と、これに糖が結合した構造(これを配糖体と呼ぶ)も明らかになりました 。

そして1990年代から2010年にかけ、エクオールを産生する能力をもつ菌(以降、エクオール産生菌)が世界中で確認されるようになります。その多くがヒト由来で、とくにエクオール産生能が高いLactococcus garvieae株は乳酸菌の一種です。現代では生合成に関する研究も進み 、一般で気軽に購入できるエクオール配合のサプリメントも増えてきました。

最近では、エクオールによって発現量が増える未知のマイクロRNA※が、肝硬変や肝がんを引き起こす肝線維化(かんせんいか)を抑制するというような研究報告も 。このような遺伝子解析技術の進歩によって、食品の機能を利用した副作用の少ない治療法の開発にも期待が寄せられています。

※マイクロRNA:遺伝子の発現を抑制することで生体の調節作用をもつ、安定性の高い短鎖RNA。

腸内細菌によるエクオール産生と吸収のしくみ

例えば、豆腐や味噌などに含まれる大豆イソフラボンをとったとき、体内でその量がすべてエクオールに変換される訳ではありません。エクオールに代謝されるのは3種類ある大豆イソフラボンのうち、ダイジンというフラボノイドのみ。ほかの2つから産生されるのは、また別の代謝産物です。

食品中に含まれるイソフラボンのほとんどは配糖体として存在し、ダイジンもその1つです。これが腸内細菌のもつ酵素(β-glucosidase)によって分解されて糖が切り離されたアグリコンと呼ぶ構造のダイゼインになり 、その一部は胃や小腸から吸収されて肝臓に運ばれ、血流を介して全身へ運ばれます 。腸内の善玉菌として知られるビフィズス菌や乳酸菌、大腸菌などがこの酵素反応を担う 腸内細菌です。

そして、残りの大部分が大腸で腸内細菌によってさらに代謝され、段階的にエクオールへ変換されます。加えて、胃や小腸で吸収されたダイゼインの一部も腸肝循環※によって、再び大腸で腸内細菌の代謝を受けることに。これら複数の反応が起こることで、エクオールが産生される のです。

このように、イソフラボンの代謝と吸収には消化管に定着している腸内フローラが、大きな役割を担う舵取り役と言えるでしょう。また、同じアグリコンでもダイゼインよりその代謝産物であるエクオールの方が、抗酸化作用とエストロゲン活性はつよいという特徴があります。したがって、有用性を期待してイソフラボンを摂取するなら腸内フローラを把握し、自分にあった方法で取り組むことが必要です。

※腸肝循環(ちょうかんじゅんかん):消化管から吸収された物質が門脈を通り肝臓へ入ったのち、胆汁に含まれて胆管を通り腸管内で分泌され、再び腸管から吸収されて肝臓に戻るサイクル。

エクオールが作れる「エクオール産生者」とは?

エクオールはマウスや羊、牛やヤギといった動物では個体差なく産生できる一方で、ヒトでは個体差があり、エクオールが産生できる腸内フローラを持つ人をエクオール産生者と呼びます。日本人ではおよそ2人に1人が該当し、日本と同じように大豆の食習慣がある中国や台湾でも同じくらいの割合です。これに対し、日常的に大豆を摂取しない地域(欧米やオーストラリアなど)では約30%と少ないことが疫学研究により分かっています。

カギとなるのは、エクオール産生菌が安定してすみ着く腸内フローラを維持すること。なぜなら、エクオール産生能は食物繊維や魚油などの摂取量と相関することや、抗生剤の使用で腸内フローラが乱れると産生は阻害されるということが分かっているからです。
一方で、日本人でも約2人に1人はエクオール産生菌を保有していません。研究では、無菌状態にした動物や腸内フローラが未完成の乳児では、エクオールを含むイソフラボンの代謝産物がつくられないことも分かっています。このような人では大豆食品を多く食べても、エクオールの作用は期待しにくいでしょう。

エクオール産生菌はアジアを中心としてこれまでに10種類を超える菌株が報告され、これらが形成する腸内フローラは人によって様々です。加えて、エクオールはダイゼインからジヒドロダイゼインという2つの段階を経て産生されるため、これに複数の腸内フローラが関与している可能性も示されています。

検査方法と受診を勧める人

自分がエクオール産生者なのか調べるには、腸内フローラ検査が適しています。最近ではインターネットで検査キットを購入し、自宅で便を採って送付するだけで腸内フローラが分かるというようなサービスも。また、尿からエクオールの産生量を調べる検査キットも市販されています。

そのほか、消化器系の診療科や婦人科、美容診療を掲げる医療機関で腸内フローラ検査を提供しているところも。ただし、市販の検査キットはもちろん、医療機関でも保険適用がない自由診療のため、きちんと説明を受けて納得してから臨むことが大切です。 もし、疲れやすさやイライラ、発汗やめまいなど更年期症状を疑う人や、肌のトラブルやダイエットをしてもなかなか成功しないといった悩みを抱える人は一度、医療機関で相談するとよいでしょう。単にエクオール産生能を調べるだけでなく、その後の改善方法について医師による個別の提案が受けられます。

エクオール配合サプリメントのとり方&選び方

検査によって自分にはエクオール産生能がないと分かった場合も含め、サプリメントでこれを補う方法があります。ただ、大豆イソフラボンは代謝が速く、体内における作用時間が短いため、産生能の有無に関わらず継続してとり続けることが必要です。

エクオール以外の有用成分としては、水素ガスや短鎖脂肪酸の関与で効率よくエクオール産生能が高まるという見方もあるため、これらを腸内細菌がつくり出せるように食物繊維を一緒にとるのもよいでしょう。
そのほか、腸内フローラ検査の結果によって推奨される、プロバイオティクスのサプリメントを併用するのも有用です。そして、プレバイオティクスにはエクオール産生能が高まるという確証はまだないものの、腸内環境を整えるという視点では取り入れるべき選択肢となり得るでしょう。プロバイオティクスとプレバイオティクスの詳細については、既存記事「腸内環境を整える食事、食材の選び方と効果的な組み合わせは?」を参考にしてください。

大切なのは、自分の腸内フローラにあったサプリメントを選び、普段の食生活を整えながら継続してとること。それぞれのサプリメントにおける成分表示や特徴を理解し、安全性や科学的根拠に関する表示※を確認した上で、自分の目的に合わせて取り入れるようにしましょう。不安な人は、腸内フローラ検査を扱う医療機関で医師に相談するのがおすすめです。

※安全性や科学的根拠に関する表示:消費者庁の公式サイト「機能性表示食品の届出情報検索」から調べることが可能。

大豆食品を食べていればサプリメントは不要?

大豆イソフラボンは大豆食品のほとんどに含まれているものの、原料となる大豆の種類や産地、食品としての加工や製造方法によってその含有量が変わってきます。例えば食品100gあたりで見た場合、大豆そのものはもちろん、きな粉や揚げ大豆、凍り豆腐、納豆、煮大豆などでそれは高い傾向です※。その具体的な含有量は納豆1パック(45g)でおよそ33mg、豆腐1丁(350g)で71mgほど。

ここで、国が定める大豆イソフラボンの安全な1日摂取目安量の上限値は70~75mg/日と設定されてはいるものの、サプリメントで追加の摂取をしても問題はありません。また、日常的な大豆食品によって健康へ有害な影響が提起されたことはなく、過剰摂取は心配ないとも発表されています。
そして、錠剤やカプセル剤、粉末剤、液剤のように大豆イソフラボンを濃縮あるいは強めた成分で作られたサプリメントなどの健康食品も、摂取をする上で特に注意すべき表示の決まりはありません。しかし、すべての機能がまだ解明し切れていないこともあって有効性や安全性を満たす上限値が1日30mg(大豆イソフラボンアグリコンの換算値として)以内と設定されています。

言い換えると、日常的に食事から十分量の大豆イソフラボンアグリコンを摂ることが難しい人は、サプリメントで補うのが手っ取り早い対策方法です。もっと言うと、自分にエクオール産生能があって1日摂取目安量を満たしている人は、その日の食事内容によってサプリメントの量を加減できるという自分なりの選択肢も生まれるかもしれません。反対に、エクオール産生能がない人では積極的にこれを取り入れるのが賢い選択です。

※参考:食品安全委員会の評価書による食品100g中の大豆イソフラボン量(アグリコンとして)。

まとめ

今後、エクオールはエストロゲン活性だけでなく、様々な効果についてそのメカニズムとともに解明されていくことでしょう。人によってはサプリメントなどで補いながら普段の食生活も振り返り、便通の維持や適度な運動、ストレスをためない工夫で腸内フローラをより良い状態に整えておくことが大切です。

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