ミトコンドリア病とは指定難病の一種で、ミトコンドリアの機能が障害されることにより、さまざまな症状が現れる病気です。身体の中で多くのエネルギーを必要とする脳や筋肉などに現れやすいといった特徴や、遺伝的素因があるものの、その詳しい原因やメカニズムについてはまだよく分かっていません。また、ミトコンドリア病の診断がつかない人でも、全身どこにでも症状が出る可能性があります。 合計3回にわたる連載のうち第2回の今回は、「自律神経」「女性の健康」「健康寿命」「ウイルス感染」とミトコンドリアとの関連性から、ミトコンドリア病についてまとめました。
ミトコンドリアは身近な健康課題にも密接に関連
「自律神経」「女性の健康」「健康寿命」「ウイルス感染」の4つは、どれも身近な健康課題として、多くの人が一度は考えたことがあるのではないでしょうか。実は、これらに対しミトコンドリアは深く関与しています。
自律神経との関連性
全身に分布し、昼夜を問わず働き続ける自律神経は、その機能と役割によって2つの系統に分けられます。
ひとつ目の系統は、ストレスや緊張、運動、緊急事態のときに優位に働く「交感神経系」です。これが優位になると、心拍数と血圧が上昇し、皮膚以外の筋肉(骨格筋)を中心とした血流が増加します。また、多くの酸素を取り込めるように気道が拡がり、すい臓や肝臓の働きによって血糖値は上昇します。
つまり、ミトコンドリアがATPを産生するために必要な酸素と糖が、十分に供給される環境が整えられるというわけです。こうした交感神経系の興奮が引き起こす各臓器の連携により、エネルギー源となるATPが増え、筋肉で大きな力を要する行動が可能になります。 2つ目の系統は、身体を回復させる役割をもつ「副交感神経系」です。これが優位になると、消化管では食べたものの消化吸収が促進され、蠕動(ぜんどう)運動が活発になって便を排泄します。そのほか、すい臓や肝臓では、血管へ血糖を増やさないように栄養を溜め込みます。また、皮膚では血流が良くなって保湿力を高めたり、育毛を促したり、けがを治すように働く作用も。さらに、脾臓(ひぞう)では、ウイルス感染やがんなどに対する、さまざまな免疫機能を促進します。

自律神経におけるそれぞれの神経線維で情報伝達を担っているのは、主に2つの神経伝達物質(アセチルコリン、ノルアドレナリン)です。神経線維と神経線維とをつなぐ構造の「シナプス」と呼ばれる部分では、これらの神経伝達物質のやり取りによって、多くの生体活動が制御されています。 そして、近年の研究ではATPも、ほとんどの組織や臓器で神経伝達物質として働くことが分かってきました。

これら神経系の構造は、大きく分けて2つの種類があります。
ひとつ目は神経細胞です。これは、核やミトコンドリアなどを含む「細胞体」と、ほかの細胞体に興奮を伝える短い「樹状突起」、そして、樹状突起よりは長めで細胞体から出る1本の「軸索」で構成されています。
もうひとつはグリア細胞で、中枢神経組織において神経細胞の支持と保護に関わる細胞の集まりです。
神経細胞は、複雑に枝分かれした突起を連結しながら神経回路を形成するにあたり、大量のATPを消費します。突起が樹のように成長するには、神経細胞から突起を移動しながら配置されたミトコンドリアによる、随所でのATP産生が欠かせません。
ミトコンドリアがシナプスで不足すると、神経細胞がうまく機能できずに死に至ります。とくに、脳で起こるこうした現象は、アルツハイマー病などの神経変性疾患や脳機能低下につながる可能性が高いと考えられているのです。

また、自律神経とは切っても切れない関係にあるのが慢性ストレスでしょう。ミトコンドリアの機能が障害されると、慢性ストレスのときと同じように、視床下部下垂体系(HPA)※が活性化されることも分かっています。
慢性ストレスが元となって自律神経失調症を引き起こすと、ミトコンドリアでは代謝や融合、修復能力など多くの機能が低下し、ATP産生が減少します。さらに、これが神経系の構築やシナプス機能の低下を招くことも。
単なる疲労やストレスと軽く考えてやり過ごさずに、正面から向き合うことが大切です。
※視床下部下垂体系:HPA軸(視床下部-下垂体-副腎皮質系、Hypothalamic-pituitary-adrenal-axis)については、既存記事【「副腎疲労症候群・HPA軸の機能障害」検査や受診、食生活で副腎をケアする方法】で詳しく解説しています。

女性の健康との関連性
女性の場合、ひと月の中でホルモンの変動が大きいことが誘因となり、体調の変化を実感している人も多いのではないでしょうか。なかでも、大きく変動するホルモンがエストロゲン(女性ホルモン)です。エストロゲンとは総称で、エストロン、エストラジオール、エストリオールを指しています。
その材料となるコレステロールは、細胞質にある小胞体からミトコンドリアの内膜に取り込まれると、酵素によって切断されます。この工程でつくられるのが、すべての性ホルモンの前段階となる前駆体です。この前駆体が再び小胞体に送り戻され、特異的な反応を受けることで各種の性ホルモンが合成されます。
つまり、ミトコンドリアは、性ホルモンの合成でいちばん最初となる反応開始を左右しているのです。

エストロゲンの作用は、月経などの女性に特有な生体調整だけではありません。脳内の栄養因子を調整したり、脳血流を促進したり、神経線維が縮んでしまうのを防いだりするといった、多くの生理機能に関与しています。一般に、女性が男性よりも長生きするのは、エストロゲンのこうした作用が背景にあることが理由の一つなのかもしれません。
閉経後の女性におけるエストラジオールの濃度は、男性のその濃度とほぼ同等です。男女ともに、脳内での前頭葉と海馬のミトコンドリアには、特異的なエストロゲン受容体が存在しています。また、エストロゲンがエネルギー供給を介して、記憶と認知機能を制御していることも確認されています。
したがって、女性で急激にエストロゲンが低下する閉経前後の時期では、ホットフラッシュ(のぼせ)や骨粗しょう症だけでなく、認知機能の低下など脳に関する状態変化についても注意が必要です。
さらに研究では、ミトコンドリアとエストラジオールが相互に作用することも分かってきました。ミトコンドリアに存在するエストロゲン受容体は、細胞内で核に内蔵されている遺伝子と、ミトコンドリアDNAを間接的に結合させる作用をもっています。簡単にいうと、エストロゲンが、ミトコンドリアの代謝や形態を調節しているということです。
このように、ミトコンドリアは女性の健康に対しても密接に関わっています。

健康準用との関連性
健康寿命とは、日常生活に制限のない期間を表す指標です。日本では、個々の生存期間を「健康な期間」と「不健康な期間」の2つに分け、前者の値を用いて集団における平均値を求めます。個々の死亡データだけでなく、生きている状態のデータを組み合わせて把握できることが特徴です。
2012年以降は、3年ごとに実施される国民生活基礎調査で、以下の2つの質問への回答から算出されています。
【健康寿命の算出のために国民生活基礎調査でおこなう質問】
| 質問内容 | 「健康」の回答 | 「不健康」の回答 |
| あなたは現在、健康上の問題で日常生活に何か影響がありますか? | 「ない」 | 「ある」 |
| あなたの現在の健康状態はいかがですか? |
「よい」 「まあよい」 「ふつう」 |
「あまりよくない」 「よくない」 |
2024年12月に厚生労働省から発表された最新の報告(健康寿命の令和4年値)では、女性の健康寿命は75.45年(平均寿命87.09歳)、男性では72.57年(平均寿命81.05歳)でした。どちらも約10年前と比べて大きな変化はありません。依然として、女性の方が男性に比べて平均寿命が長く、「不健康な期間」も3年ほど長いことが報告されています。

そして2025年1月、日本人およそ7,000人を対象におこなわれた20年間の追跡データ※により、生活習慣病と喫煙が65歳における健康寿命に10年もの差が付くという結果が報告されました。「高血圧(血圧160/100以上)」「肥満(BMIで30以上)」「現在の喫煙」「糖尿病」のすべてに該当している人は、これらの因子を持たない人に比べて、女性で10.1年、男性で9.7年短いということが明らかになっています。

健康寿命を延ばすために、日常生活の中では4つのポイントを押さえて取り組みましょう。これらは生活習慣病の予防にもつながります。
1つ目は「食事」です。主食、主菜、副菜、乳製品、果物を組み合わせたバランスの良い食生活を送る人ほど、循環器の病気で死亡するリスクは低いということが報告されています。また、水分摂取で甘い清涼飲料水を毎日飲む人は、糖尿病のリスクが高まるため、お茶や水に変更しましょう。
2つ目は「身体活動」です。座っている時間が長い人ほど、死亡リスクは高いことが報告されています。1日あたりの歩数を無理なく増やし、スマートフォンで記録を付けたりして積み重ねた成果を確認しながら励みましょう。目安は、1日8,000歩(65歳以上では6,000歩)です。
3つ目は「睡眠」です。睡眠時間が適切で、睡眠によって休養がとれていると感じる人ほど、死亡リスクは低いという報告があります。「何時間、寝ればよいか?」ということにこだわらず、起床時のスッキリ感や日中の疲労感を確認しながら、自分にとって適切な睡眠時間を設定しましょう。
4つ目は「喫煙」です。近年では医療機関で禁煙外来の通院により、禁煙を成功させる人が増えています。自分で購入できるニコチンパッチやニコチンガムは、禁煙後の離脱症状を軽くするのに役立ちます。一方、加熱式タバコは、最終的な禁煙の成功率が下がるという報告があるため推奨されません。自力での禁煙に不安な人は、無理せず禁煙外来で相談しましょう。
※NIPPON DATA90:1990年に循環器疾患基礎調査と国民栄養調査に参加した全国300地区の一般国民を対象とし、健康寿命や生活習慣病に影響を与える要因を探るためのコホート研究。

健康寿命の延伸は、世界に先駆けて高齢化が進む日本では急務です。いま日本では、ミトコンドリアの機能調節メカニズムと加齢について一元的に解明することが、健康寿命への糸口になるとして、研究開発の環境整備に力を入れています。その背景にあるのが、これまでの研究報告です。
たとえば、骨格筋におけるミトコンドリアDNAは加齢に伴い、その量は減ることが分かっています。ほかにも、ATP産生を含む多くの機能低下、活性酸素の産生増加、ミトコンドリアDNA変異の蓄積など、加齢に伴って起こる変化はさまざまです。
とくに、生活習慣病に代表される高血糖状態や脂質異常症などがあると、ミトコンドリアの酸化制御のバランスが乱れ、活性酸素が蓄積しやすくなります。活性酸素はミトコンドリアの分裂を誘導し、より強力な酸化ストレスを引き起こさせる主な因子です。なかでも、喫煙によるニコチンへの暴露は、ミトコンドリアの断片化を促すことで、結果的に細胞死を招きます。
逆に、ミトコンドリアの融合(合体)を誘導し、過剰な活性酸素の産生を抑えられれば、細胞死を防げる可能性も。現に、糖尿病性心筋症のモデルマウスを用いた実験では、ミトコンドリアの融合を促進させることでミトコンドリア機能が改善し、心機能は保護されることが発見されました。
日本では世界中の研究報告も交えながら、加齢に伴い生じるミトコンドリア機能低下が引き起こす症状について、簡単な検査での把握と予防対策の提供に取り組んでいます。これにより、100歳まで健康で暮らせる社会を2040年までに創り上げることが目標です。

ウイルス感染との関連性
ウイルス感染などの緊急時に免疫システムが働くためには、大量のATPが必要です。そして、戦ったあとの細胞が正常に代謝されることも欠かせません。このどちらにも、ミトコンドリアの働きは不可欠です。さらに、ミトコンドリアの新たな生理現象として、RNAウイルス※に対する自然免疫※とも密接に関与することが分かってきました。
その免疫メカニズムは、ひと言でいうとシグナル伝達です。
細胞内にウイルスが入り込むと、これを細胞質内に存在するセンサーが認識し、ミトコンドリア外膜のアダプター分子「MAVS(mitochondrial antiviral signaling)」へと伝わります。その後、いくつかの段階を経て、抗ウイルス活性の中心的な役割を担う「Ⅰ型インターフェロン」や「炎症性サイトカイン」を産生誘導します。そして、最終的には、これらの分子が元となって一連の抗ウイルス作用※を発揮するという流れです。
また、ウイルス感染やストレスにさらされたミトコンドリアでは膜電位が低下し、小さく断片化したり、活性酸素を産生したり、「DAMPs(damage-associated molecular patterns)」と呼ばれる損傷関連分子を放出したりします。これにより引き起こされる炎症に伴って誘導される自然免疫反応も、ミトコンドリアに特徴的な感染防御のひとつです。
※RNAウイルス:遺伝情報をDNAではなくRNAとしてもつウイルスの総称で、そのうち1本鎖RNAではインフルエンザウイルス、コロナウイルス、エイズウイルスなどが有名。RNAはDNAよりも格段に遺伝情報の変化(変異)が速く、ヒトゲノムの約100万倍とも言われる。
※自然免疫:生体内に侵入した異物に対し、一番初めに反応する免疫反応のこと。自然免疫によって記憶されたことで起こる免疫反応を獲得免疫といい、それぞれ関わる分子や免疫細胞が異なる。
※一連の抗ウイルス作用:リンパ球や単球の炎症部位への遊走、膜タンパク質分子の発現誘導、樹状細胞の成熟、自然免疫や獲得免疫の活性化など。

難病指定の「ミトコンドリア病」とは?
ミトコンドリア病とは、ミトコンドリアの機能が障害されることで、さまざまな症状が出現する病態の総称です。現状では、そのほとんどが、ATP産生の低下によるエネルギー代謝障害が根底にあると考えられています。また、男女における発症率に差はなく、これといって罹患しやすい人の特徴というのはまだ分かっていません。
症状は、脳や筋肉などエネルギーを多く必要とする部位に現れやすいことが特徴です。しかし、ミトコンドリアは全身にも分布していることから、全身で複数の臓器に症状が併発するケースもあります。
ミトコンドリア病は2015年1月から指定難病の一つとなり、医療費の助成が受けられるようになりました。その診断基準としては、筋肉、中枢神経、心臓、肺、腎臓、血液、肝臓、内分泌、すい臓、眼、耳のいずれかに症状があることが要件です。
検査方法では、遺伝学的検査や生化学検査、病理検査などでミトコンドリアの機能障害を調べるほか、どのような症状が出ているかを調べるための画像検査などが行われます。
【ミトコンドリア病の主な症状】
参考:国立精神・神経医療研究センター病院「ミトコンドリア病ハンドブック」
| 身体の部位 | 主な症状 |
| 脳 | けいれん、脳卒中様症状、精神症状、頭痛 |
| 耳 | 難聴 |
| 眼 | 視力低下、外眼筋まひ、網膜色素変性 |
| 心臓 | 心筋症、不整脈 |
| 肝臓 | 肝機能障害、凝固能低下、脂肪肝 |
| すい臓 | 糖尿病 |
| 腎臓 | 尿細管障害、腎不全 |
| 消化管 | 便秘、下痢 |
| 血液 | 貧血 |
| 内分泌 | 低身長、低カルシウム血症 |
| 筋肉 | 筋力低下、易疲労症 |
| 皮膚 | 発汗低下、多毛 |
原因としては、遺伝子の変異や薬物などによる影響が考えられています。
ただし、一つの細胞につきミトコンドリアは数千個も存在し、さらに一つのミトコンドリアの中には5個から10個ほどのミトコンドリアDNAが存在します。そのため、ほんの一部のミトコンドリアDNAが変異したくらいでは発症に至りません。
一方、変異したミトコンドリアDNAの割合が多いことで病気と診断された人でも、細胞内でこれがなぜ増えるのかについては、まだ解明されていないのが現状です。
現在、国は治療薬の開発研究を積極的に進めています。これには、ミトコンドリア病の患者さんを対象とした「患者登録制度」※があり、患者さんも医師とともに臨床試験や治験に参加し、治療研究や新薬の開発促進を目指す制度です。
こうした登録や医療費の助成を検討したい人は、医療機関で相談してください。また、ミトコンドリア病についての情報は、以下の公式サイトからも得ることができます。
【ミトコンドリア病に関する情報サイト】
参考:国立精神・神経医療研究センター病院「ミトコンドリア病ハンドブック」
| 運営団体 | 得られる情報・サイトのURL |
| 難病情報センター | 病気の解説や研究班の活動など https://www.nanbyou.or.jp/ |
| 日本ミトコンドリア学会 | ドクター相談室や学術活動など http://www.j-mit.org/ |
| ミトコンドリア病 患者・家族の会 | 病気に関する情報共有など http://mcm.sakura.ne.jp/wpnew/ |
※患者登録制度については、以下の公式サイトで情報が得られます。
●Remudy(レムディ):ミトコンドリア病のすべての患者さんが対象:http://www.remudy.jp/mitd/
●J-MO Bank:新生児期や小児期に発症したミトコンドリア病の患者の患者さんが対象:http://mo-bank.com/
まとめ
連載1回目の「機能」と「構造」に続き、今回の連載2回目では、ミトコンドリアと身近な健康課題4つとの関連性やミトコンドリア病について紹介しました。
ミトコンドリアはまだ謎に包まれている部分も多く、日々研究が進められています。今後もさまざまな関連性が明らかになってくることでしょう。現時点で明らかになっている部分を整理しておくことはきっと、自分の健康をより良く保つための力になってくれるはずです。 いよいよ最後の連載3回目では、ここ最近で明らかになった情報やミトコンドリアの質を高める方法について紹介します。「若返り」や「抗酸化」について、ミトコンドリアの関連性も踏まえながら、いつまでも活き活きとしたロングライフを送る知識を身に付けましょう。
