腹部膨満感は、急なガスもれや、苦しさで日常生活に支障をきたす人が多いにもかかわらず、これまで医療による有効なアプローチがほとんどありませんでした。しかし、近年登場した肛門ハイフ(HIFU)は、肛門周囲の組織と筋肉を引き締めることで、ガスのコントロール機能を回復させることができる新しい治療法です。ここでは、腹部膨満感の基礎知識から従来の治療法、肛門ハイフ、検査方法と医療機関の選び方について解説します。
腹部膨満感・お腹の張り・ガスもれの原因
「おなかが張って苦しい」「おならの頻度が多い」「おなかが鳴る」「胃が重い」といった表現の訴えが多い腹部膨満感。この状態は、主に消化管にガスが溜まることと、胃腸の運動機能が低下することの2つに分けられます。腹部膨満感の最も身近な原因は、腸管ガスの蓄積です。根本的な病気が隠れている場合を除き、主な原因には以下の3つが挙げられます。

呑気症(どんきしょう)
唾液(つば)を飲み込むときに、無意識にたくさんの空気も一緒に呑み込んでしまう呑気症(どんきしょう)は、ストレスと密接な関係があると考えられています。通常、寝ている間には行われない動作のため、昼から夜にかけてお腹の張りを感じるのが特徴です。
腸内細菌による発酵
食事をすると、腸内で微生物が食べ物を分解し、ガスが発生します。これを発酵と呼び、通常の発酵であればとくに問題はないものの、過剰な発酵や異常な発酵が起きると、腹部膨満感として現れることも。脂質や一部の糖質における消化不良、また悪玉菌によって生み出される腐敗ガスなどが原因になります。呑気症と異なり、時間帯による頻度の差はなく、食事内容の影響を受けやすいことが特徴です。
運動機能の低下
胃腸の運動機能が低下する原因としては、胃の拡張障害や排出障害、知覚過敏、そして腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)の低下が代表的です。これらは、ストレスや自律神経の乱れ、蠕動運動を促すエネルギー源の不足などによって引き起こされます。
※より詳しい腹部膨満の定義については、既存記事『腹部膨満(感)の原因や検査と治療「市販薬or受診」食物繊維は摂っちゃダメ?』で解説しています。
一般的な治療方法
これまでにも推奨されてきた、一般的な腹部膨満感の治療方法は、次の3つに分類されます。そのほとんどが、医療機関の受診は必須ではなく、日常生活の中で実践できる方法です。

生活習慣の見直し
腹部膨満感は、ガスの産生量と排泄量のバランスが崩れることも大きな原因となるため、ガスを体外に出すタイミングを意識することも大切です。その代表的なタイミングが、おならとゲップ。健康なヒトの一般的なおならの回数は、1日に約13~21回といわれます。これより頻度が多い場合は、ガスの産生につながるような自律神経の乱れやストレス、睡眠不足などがないか振り返ってみましょう。
1日のうちで何回かに分けて休息時間を設けたり、適度な運動やストレッチをおこなったりするのも有効です。服装では、お腹を締め付けすぎるようなデザインを避け、腹部にゆとりのあるものを選びましょう。
食事による改善方法
過剰な発酵を招く可能性の高い食事として、イモ類、豆類、キノコ類、甲殻類、キャベツ、ゴボウなどに豊富な不溶性食物繊維が挙げられます。不溶性食物繊維は、保水性が高いため便のかさを増やし、蠕動運動を促すことで便秘予防や脂肪の排出を助けるという利点が有名です。しかし、お腹が張って苦しいときに便のかさが増えると、より一層苦しくなる可能性も。
一方、異常発酵を防ぐためには、腸内環境を整える食事※を心がけることも大切です。呑気症が疑われる場合は、早食いを避け、一口ずつよく噛んで食べる習慣を身につけましょう。
※腸内環境を整える食事については、既存記事『腸内環境を整える食事、食材の選び方と効果的な組み合わせは?』で詳しく解説しています。
薬やサプリメントによる治療方法
腹部膨満感に対して用いられる薬は、主に消泡剤(しょうほうざい)と呼ばれる薬(一般名:ジメチコン)です。この薬は、腸内にあるガスの泡を壊して体外に排出しやすくします。医師による処方のほか、ドラッグストアやインターネットなどで市販薬として購入することも可能です。ただし、胃腸の運動機能の低下によって生じる腹部膨満感には、消化管の運動を調整する薬を検討したほうがよい場合もあるため、医療機関を受診しましょう。
一方、腸内環境の乱れが原因として疑われる場合は、プロバイオティクスが含まれるサプリメントを試すのも一つの方法です。また、自分の腸内フローラ※を知りたい場合は、自由診療を提供する医療機関でその検査が受けられます。
※腸内フローラ検査を含む、腸管バリア検査については既存記事『「腸管バリア(リーキーガット)検査」で腸の状態を知り、自分にあったケアを!』で詳しく解説しています。
新しい治療方法「肛門ハイフ(HIFU)」
一般的な治療方法で改善が見られない場合は、肛門ハイフ(HIFU;high-intensity focused ultrasound)を試してみるのもよいでしょう。これは、経肛門高密度焦点式超音波療法といって、肛門周囲の組織と筋肉を引き締めることで、ガスのコントロール機能を回復させる治療法です。ガスの排出に対する反射機能を改善し、おならを我慢したいときにも制御しやすくなる効果があります。
具体的には、専用の医療機器を肛門から挿入し、直腸内の筋層に超音波を集中的に照射します。発生した熱エネルギーによって、筋肉や組織の再生を促す方法です。メスを使わないため、組織を傷つける心配がなく、痛みもほとんど伴わないので麻酔も必要ありません。照射後の組織では徐々にコラーゲンが増加し、筋層の収縮力が回復することも特徴の一つです。
検査方法と医療機関の選び方
注意したいのは、腹部膨満感の背後に潜む病気です。例えば、SIBO(小腸内細菌異常増殖)やIBS(過敏性腸症候群)、大腸がん、FD(機能性ディスペプシア)などでよく見られる症状の一つでもあります。さらに、腹水と呼ばれる体液が溜まる病気や、腹腔内に生じる腫瘍によって引き起こされている可能性も。
腹部膨満感には、血液検査項目や決まった検査方法はありません。まずは、症状の程度やその人の状況を考慮した医師による問診が必要です。その上で、必要に応じて腹部エコー(超音波)検査や内視鏡(カメラ)検査、腹部X線(レントゲン)検査などが行われます。また、原因に発酵が疑われる場合は、呼気検査で腸内細菌によるガスの濃度や状態を調べることもあります。
医療機関は、これらの検査を実施できる設備がある消化器科を受診しましょう。また、「肛門ハイフ」は日本では保険適用外の治療方法のため、自由診療としてこの機器を備える医療機関を選ぶ必要があります。

まとめ
腹部膨満感は、臓器や組織について異常が見られないにもかかわらず、お腹の張りや意図しないガスもれを伴うつらい状態です。とくに、日常生活での治療法で改善が見られない人や、すぐに改善を希望する人にとっては、肛門ハイフが有効な選択肢となるでしょう。
専門の医療機関では、最新の情報を含め、その人にあった解決策をあらゆる角度から提案してくれます。一人で悩まずに、まずは一度、医療機関で相談してみてはいかがでしょうか?