「SSL(無茎性鋸歯状病変:むけいせいきょしじょうびょうへん)」は、従来の大腸がん発生経路とは異なるルートでがん化することが分かり、近年注目を集めています。この記事では、知っておきたい大腸ポリープの基礎知識をはじめ、比較的見つけやすい「腺腫」と見つけにくい「鋸歯状病変」の違い、それぞれの発がん経路やがん化するスピードについて分かりやすく解説します。
あわせて、AI技術の導入で見落とすリスクが低下した大腸カメラ(内視鏡検査)事情や、検査を受けるべき頻度、専門医療機関の探し方も紹介します。いざというとき、過度な不安に陥らないための知識整理にお役立てください。
そもそも「ポリープ」とは?
「ポリープ」とは、特定の病名ではありません。医学的には、皮膚や粘膜などの面から突出した、茎をもつ卵球状の「腫瘤(しゅりゅう:できもの)」の総称です。簡単に言い換えると、粘膜などの表面から丸く出っ張っている突起物のことを広く「ポリープ」と呼びます。
その形状は、きのこのように茎を持つものから、半球状のもの、わずかに盛り上っているだけの平坦なものまで様々です。胃や鼻、子宮、膀胱などにできることもあり、このうち大腸の粘膜にできたものをまとめて「大腸ポリープ」と呼びます。
大腸ポリープには、将来的にがん化する可能性のあるものと、そうでないものがあります。なかでも、がん化するリスクを抱えている代表的なポリープが、この記事で解説する「腺腫(adenoma)」と「SSL(sessile serrated lesion:無茎性鋸歯状病変、むけいせいきょしじょうびょうへん)」です。
健康診断や大腸カメラで「ポリープがある」と説明されたとき、過度に怖がらず冷静に対応するためにも、まずはこうした基本的な知識を身に付けておきましょう。

検査で大腸ポリープが見つかったら
けではありません。なぜなら、がん化するリスクの低いポリープは、出血などの症状を引き起こしている場合を除き、そのままにしておいても健康を損なうことがほとんどないからです。たとえば、がん化リスクが低いタイプとして知られる「過形成性(かけいせいせい)ポリープ」は、無理に切除する必要はありません。
一方で、がん化する可能性のある「腺腫」や「SSL(無茎性鋸歯状病変)」は、ポリープの段階では目立った症状をほとんど引き起こさないと言われています。なかでも「腺腫」は、大腸カメラの検査時に最も多く見つかる腫瘍の一種です。放置すると大きくなってがんを引き起こすことが知られているため、ポリープの段階で予防的に切除することが推奨されています。
もう一つの「SSL」は、見た目ががん化リスクの低い「過形成性ポリープ」とよく似ていて、大腸カメラの観察だけでは見分けるのが困難なケースも少なくありません。しかし、SSLも腺腫と同様に、がん化するリスクを秘めています。これらを早い段階できちんと切除することで、将来の大腸がんの発生や、大腸がんによる死亡を大幅に減らせるという研究報告も。
実際に切除するタイミングは、ポリープの大きさや数だけでなく、患者さんが抱える合併症などの背景によっても変わってきます。医師から提案される検査や治療を先延ばしにせず、今後の計画(治療または経過観察など)に対して主体的に向き合っていきましょう。

「腺腫」と「鋸歯状病変」の違い
「腺腫」とSSL(無茎性鋸歯状病変)などを含む「鋸歯状病変」は、どちらも大腸がんに進行するリスクをもつため、「前がん病変(びょうへん)」と呼ばれます。これまでの研究で、この2つには大腸カメラでの「見え方」や「できやすい場所」といった見た目の違いだけでなく、「発がん経路」の仕組みにまで大きな差があることが分かってきました。

見つけやすいけど放っておけない「腺腫」
「腺腫」は、大腸カメラ(内視鏡)で最も頻繁に見つかるポリープの代表格です。その見た目は、粘膜から丸く突き出た「隆起型(りゅうきがた)」が主流。きのこのようにくっきりとした茎を持つものや、茎のない半球状のものなどがあり、大腸カメラで比較的発見しやすいのが特徴です。できやすい場所としては、便の通り道として刺激を受けやすく、肛門に近い左側の大腸(S状結腸や直腸)に多く発生することが知られています。
腺腫ががん化するルートは「古典的経路」と呼ばれ、何段階ものステップを経てゆっくりと大腸がんへと進行します。大まかなメカニズムとしては、まず正常な粘膜に遺伝子の「APC変異」が起こることで腺腫が発生。その後、「KRAS変異」などが加わってサイズが大きくなり、その後「TP53変異」などが関与して「がん」へと発展していく、という流れが通説です。
実際、がん化の引き金となる「APC変異」は、実に80%以上の腺腫に認められています。このように腺腫は10~15年くらいかけて、がんへと変化していくのです。
腺腫は、自覚症状がないまま大きくなることがあるため、多くの場合は大きくなる前に予防的な切除が行われます。一般的に、がん化のリスクを左右する最大の要因は、「大きさ」です。具体的には、6mm以上ならすぐに切除することが強く推奨されています。
一方で、サイズが5mm以下で、かつ「へこんだ形状(平坦・陥凹型)」でなければ、現時点でがん化している可能性は高くありません。そのため、見つかった腺腫を今すぐ切除するか、あるいは経過観察にするかは、患者さんの状態※に合わせた慎重な判断が必要です。
※判断材料となる患者さんの状態:年齢、全身状態、合併症、本人の希望など。
「鋸歯状病変」の主な3種類
かつて「鋸歯状病変」は、がん化するリスクの低い「過形成性ポリープ」の一部とみなされ、治療の必要はないとされてきました。
しかし、1990年に過形成性ポリープの中で鋸歯状構造をもつ大腸粘膜に「細胞異形(細胞の形が乱れた状態)」が見られ、すでにがん化しているケースも報告されたのです。その後1996年には、細胞異形のない鋸歯状病変でも、一部にがんが発生していたという報告も。2002年には、これらを総称して「鋸歯状ポリープ」と呼ぶ新しい概念が提唱されました。
なお、「鋸歯状」とは、のこぎりの刃のようにギザギザしている状態を指します。ただし、大腸カメラで粘膜の表面がそのように見えるわけではありません。大腸の粘膜にある、粘液を分泌する無数の「腺管(せんかん)」を顕微鏡で観察したときに、その内側の輪郭がギザギザして見えることに由来しています。
現在、鋸歯状病変はWHO(世界保健機関)によって以下の3つに分類されており、それぞれ性質が異なります。
【鋸歯状病変の3種類】
・無茎性鋸歯状病変(SSL;Sessile Serrated Lesion)
・鋸歯状腺腫(TSA;Traditional Serrated Adenoma)
・過形成性ポリープ(HP;Hyperplastic Polyp)
「SSL(無茎性鋸歯状病変)」の特徴
これら3つのなかで、近年とくに注目を集めているのが「SSL(無茎性鋸歯状病変)」です。治療が不要とされていた従来の常識を覆し、腺腫の発がんルート「古典的経路」とは異なる「主要な大腸がんの発がん経路」をたどることが分かってきたためです(後述)。
欧米の研究では、SSLと診断された患者さんの4.4%が10年以内にがんを発症したと報告されています。一方、日本におけるSSLのがん化率は2~5%前後と見積もられており、国内外のデータを比較するときには注意が必要です。
なお、SSLは以前「SSA/P(無茎性鋸歯状腺腫/無茎性鋸歯状ポリープ」と呼ばれていました。現在、国内の「大腸ポリープ診療ガイドライン2020」(日本消化器病学会)ではSSA/Pが用いられていますが、これらは同じ状態を指しています。
SSLは大腸の右側にあたる盲腸や上行結腸にできやすく、平坦な形で10mmを超えるような比較的広い範囲に広がります。周囲の正常な粘膜と色の差がほとんどなく、境界もぼんやりしていることに加え、キラキラと光る粘液で覆われているため、大腸カメラで発見する難易度が高い点も特徴です。
「TSA(鋸歯状腺腫)」の特徴
「TSA(伝統的鋸歯状腺腫、または古典的鋸歯状腺腫)」は、主に大腸の左側に多く見られますが、大腸のどの部位にも発生する可能性があります。茎のある隆起型が多く、血管が豊富なために赤みがあり、見た目が「松ぼっくり」のように見えるのが特徴的です。
TSAはHPのような鋸歯状の腺管構造を持ちながら、腺腫に似た細胞異形を併せ持っているため、サイズにかかわらずがん化のリスクを考慮しなければなりません。そのため、基本的には腺腫と同様に、5mm以上のものは見つかり次第、切除することが推奨されています。
「HP(過形成性ポリープ)」の特徴
「HP(過形成性ポリープ)」は、サイズが5mm以下であれば、がん化のリスクは極めて低いとされています。主に大腸の左側にあたる直腸やS状結腸で「平坦隆起型」(平べったい盛り上がり)として発生し、切除せずに経過観察となることもあります。
しかし、右側の結腸にできた10mm以上の大きなHPは、がん化のリスクがあるSSLと見分けがつきにくいため、切除することがほとんどです。
注目されるSSLの発がんルート「鋸歯状経路」

大腸がんが発生するルートにはいくつか種類があり、腺腫がたどるルートは「古典的経路」、SSLがたどるルートは「鋸歯状経路」が一般的です。大腸がんにおける発生頻度は、前者が80%以上、後者がおよそ20~30%と推測されており、この割合からもSSLが決して軽視できない存在であることが分かります。
「古典的経路」は前述のとおり、基本的には正常な粘膜に遺伝子の「APC変異」が起こることで腺腫が発生し、そこに何段階もの変化が加わって規則的にゆっくりとがん化するルートです。つまり、「腺腫」という腫瘍がベースとなり、遺伝子の異常を段階的に重ねながら組織が変化し、がんへと至ります。
これに対し、「鋸歯状経路」では「APC変異」はほとんど見られません。引き金となるのは主に「BRAF変異」です。この遺伝子の変異が起こると、細胞を増殖させるスイッチが入り続けたような状態になり、細胞の増殖や分化を正常にコントロールできなくなります。
さらに、種々の分子異常※が積み重なることで、DNAのコピーミスを修復する働きが失われ、遺伝子の異常がどんどん蓄積し、がんへと一気に突き進んでしまうのです。
※現時点でSSLに関して重要視されている3つの分子異常:BRAF変異、CIMP(CpGアイランドメチレーター表現型)、MSI(マイクロサテライト不安定性)
SSL「がん化」を早めるライフスタイル
SSLをはじめとする「鋸歯状病変」の発症頻度は、近年増加傾向にあることが研究で示されています。なかでも女性や高齢者に多く見られ、SSLについては白人に多いといった人種差もあることも分かってきました。
さらに注目したいのは、鋸歯状病変に影響を与える日常生活(ライフスタイル)です。具体的には、喫煙や飲酒、肥満などが、鋸歯状病変の発生や悪化に関わっている可能性が指摘されています。
これら3つは、以前から大腸がん全体の確実なリスク因子として広く知られてきました。一方で、中等度から強度の身体活動(運動)は、大腸がんのリスクをほぼ確実に下げることも分かっています。
なお、国際的に指摘されている「加工肉や赤肉の摂取による発がんリスク増加」については、国内における日本人を対象とした確固たるデータはまだ十分に揃っていません。同様に、全粒穀類や食物繊維、乳製品などがリスクを下げるというデータも、国内においてはまだ限定的です。
現時点では、禁煙を心がける、適度な運動習慣を身に付けること、そして暴飲暴食を控えて適正な体重を維持するといった「基本の生活習慣」を整えることが、SSLを含む大腸がんのリスクを減らす第一歩だといえるでしょう。

AIや内視鏡技術の進歩により発見率が向上
実は、従来の大腸カメラにおいてポリープを見落とす割合は、およそ25~28%にのぼると報告されてきました。なかでもSSLは、見た目が平坦で色調も正常な粘膜とほとんど変わらないため、特に見落とされやすいことが大きな問題でした。
こうした問題を解決するため、近年開発されたのが「画像強調内視鏡」と呼ばれる、新しい技術を備えた大腸カメラです。特殊な光を当てることで粘膜の細かい血管模様を目立たせ、見落としを大幅に減らし、診断効率を高めることに成功しています。
さらに、最近の大腸カメラにはAI(人工知能)技術の導入も急速に進んでいます。具体的には、大腸カメラの映像をAIがリアルタイムで解析し、がんやポリープの疑いがある部分を医師に光や音声などで知らせる機能があります。加えて、異常な粘膜の模様や血管の細かなパターンを分析し、その性質を瞬時に予測する機能も。
これにより、人間の目だけでは捉えにくい小さな異常や、正常な粘膜と見分けのつきにくい部分の見落としも低下したことが国内外で証明されています。
なお、日本では2024年6月1日より、AIが導入された大腸カメラを受ける場合に健康保険が適用されるようになりました。3割負担の人であれば、約200円の追加費用で、より効率的な検査が受けられます。

大腸ポリープに関する検査と受ける頻度
日本では大腸がん検診として、男女ともに40歳以上を対象に、年に1回「便潜血検査」を受けることが推奨されています。これは2日間の便を採取して、目に見えない出血の有無を調べるもので、検査に引っかかった(陽性となった)場合には、速やかに大腸カメラによる精密検査を受ける必要があります。
ただし、注意しなければならないのは、便潜血検査だけでは大腸ポリープの有無を完全に把握できない点です。出血を伴いにくい小さな腺腫や、粘膜が平坦なSSLなどは陽性反応が出にくく、陰性と判定されてしまうケースがあります。
また、大腸カメラの受ける頻度は、人によってさまざまです。過去に見つかったポリープの大きさや個数、病理検査の結果(良性か悪性か)、さらには大腸がんの家族歴などを総合的に考慮し、医師が個別に判断します。
もしも現時点で、血便や下痢、便秘、お腹の張りなどの症状が慢性的に続いている場合は、検診の時期を待つ必要はありません。速やかに、内視鏡を備える専門医療機関(消化器科や胃腸科など)を受診してください。

まとめ、不安なときの相談先
大腸ポリープのすべてが「がん」というわけではありません。しかし、今回解説した「腺腫」と「SSL」については、大腸がんに進行する前の早い段階で適切に対処することが重要です。普段から、こうした基本的な知識を持っておくことに加え、万が一、ポリープが見つかったときにも、治療方針を落ち着いて検討できる「相談先」を事前に知っておくとよいでしょう。
相談先を選ぶ基準としては、大腸カメラ(大腸内視鏡検査)に精通している「日本消化器内視鏡学会 専門医」や「指導医」が在籍する医療機関をおすすめします※。
大腸カメラを行っている診療所やクリニックの多くは、大腸ポリープだけでなく、逆流性食道炎(GERD)や慢性胃炎(機能性ディスペプシアなど)、過敏性腸症候群(IBS)、便秘症といった、日常的なお腹の不調全般に対しても検査や治療を行っています。
「大腸カメラを受けるどうか迷っている」という人も、まずは気軽に「お腹のかかりつけ医」を見つける気持ちで、一度相談してみてはいかがでしょうか。
※内視鏡クリニックの選び方については、既存記事『内視鏡(カメラ)検査が痛くないクリニックを探すには?現代風「プラスα」の選び方』で紹介していますので参考にしてください。
