2023.03.31/最終更新日 2023.03.31

胃痛の原因は内臓の知覚過敏かも?「機能性ディスペプシア(FD)」の特徴と検査

胃の病気

「機能性ディスペプシア」は日本で2013年に保険診療が始まった病気です。検査をしても異常がないのに胃痛や胃もたれ、十分な量の食事を摂ることが出来ないといった様々な症状が続きます。近年では脳腸相関との深い関与も示され、胃腸の運動機能の低下や内臓における知覚神経の過敏が原因となることも分かってきました。ここでは2021年に新しくなったガイドラインをもとに病気の特徴から検査や治療の内容、すぐに受診すべき身体のサインと注意点、日常生活で取り組む具体的な対策について紹介します。

機能性ディスペプシア(FD)」とは?

機能性ディスペプシア(略称FD、Functional Dyspepsia)とは、症状の原因となる明らかな異常がないのに慢性的なディスペプシア症状(みぞおちの痛みや胃もたれなど心窩部を中心とする腹部症状)を呈する病気のことです。

この“ディスペプシア”という言葉はもともとギリシャ語に由来し、腹痛や胃もたれ、腹部膨満感、ゲップや胸やけなど消化管の様々な症状に対して広く使われてきました。これが1990年代以降、胃や食道における逆流症の概念が明らかになるのにつれて食道の症状は“ディスペプシア”に含めないという考え方が主流になってきます。

今では食道での逆流症状をつよく疑うようなゲップや胸やけといった症状は、基本的には機能性ディスペプシアの中に含まれていません。

【機能性ディスペプシアの特徴】
・内視鏡検査などで調べても症状を起こすような異常がない
・胃の働き(消化作用や運動機能など)が悪い
・心窩部(しんかぶ)※を中心に痛みや不快感などが続く

※参考:日本消化器病学会「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021-機能性ディスペプシア(FD)」改定第2版

※心窩部(しんかぶ):みぞおち周辺のことで、医学用語では「胃痛」を「心窩部痛」と表記する。

よくある症状と要因

機能性ディスペプシアの症状は複雑で胃痛や胃もたれだけでなく、消化不良や胃の重い感じ、胃のムカつき、腹部膨満感、喉の詰まる感じなども現れることがあります。そして、症状の起こるタイミングは食後に悪化する人もいれば、不安を感じたときに悪化する人など様々です。

要因としては生活習慣の乱れやストレスなど、身近にあるようなことが積み重なって発症する可能性もあります。さらに多くの因子が複合的に絡み合った結果、胃の伸縮作用がうまく働かなくなると食べたものをきちんと消化して腸へ送り出しにくくなるほか、少しの量ですぐにお腹が膨れた感じになってしまうことも。また、消化管の知覚神経が過敏になると、チクチクとした痛みや不快感を招くこともあります。

現に、機能性ディスペプシアを患う人では健康な人と比べて消化管で刺激を感じるときのハードル(閾値、いきち)が低く、冷たい飲食物やトウガラシに含まれるカプサイシンによって起こる痛みを敏感に感じやすいということも報告されているのです。

【機能性ディスペプシアの関連因子】
・胃や十二指腸における運動機能の異常
・内臓における知覚神経の過敏
・心理的や社会的なストレス
・胃酸分泌の異常
・遺伝的な要因
・生まれ育った環境
・感染性胃腸炎の既往
・運動や睡眠、食生活などライフスタイルの乱れ
・消化管のわずかな炎症

※参考:「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021機能性ディスペプシア(FD)」の第2版

症状がどのくらい続いたら受診すべき?

機能性ディスペプシアが我が国で保険診療の対象となったのは2013年からで、症状が続く期間についてはまだ詳しい決まりがありません。ただし、これは国によって見解が異なります。例えば英国では4種類の症状※のうちいずれかが半年以上前に初めて経験し、かつ3カ月以上に渡って続くものを機能性ディスペプシアと定義しています。

注意したいのは、この病気で現れる症状は単純にいくつと数えられるものではないということ。そして継続している期間にとらわれず、症状が日常生活の妨げとなっていないかどうかを考えることが大切です。

また、早い段階で検査を受けることは、胃がんなどの大きな病気を早期発見するきっかけにもつながります。「そんなにひどくないから」と侮らずに、気になる人は医療機関を受診するようにしましょう。とくに高齢になってから初めての発症や体重の減少、繰り返す嘔吐、嚥下障害、発熱などがある場合は思わぬ病気が潜んでいることもあるため、自己判断しないことが重要です。

※RomeⅣ基準における4つの症状:食後膨満感、早期満腹感、心窩部痛、心窩部灼熱感。

内視鏡検査(胃カメラ)は必須?検査の方法

まず、この病気で重要なのは「がん」や炎症性疾患、代謝分泌疾患※、消炎鎮痛剤や低用量アスピリンなど薬の服用により引き起こされている二次的な病態かどうかを確認することです。受診するときには、お薬手帳などでこれまでの病歴や手術歴が分かるものを持参しましょう。また、自分だけでなく身内で、食道がんや胃がんなど消化器系がんの病歴をもつ人がいる場合は伝えるようにしてください。

検査では、すべての人に対して内視鏡検査(胃カメラ)が必須という訳ではありません。ただし、医師によって何か異常な部分がある可能性を指摘された場合や、症状が悪化していたり他の部位にも広がっていたりする場合には積極的に受けるようにしましょう。加えてヘリコバクター・ピロリ菌の感染が疑われる場合にも、内視鏡検査を受けることが推奨されています。

現時点で、血液検査だけでは機能性ディスペプシアを診断できる方法がありません。その他の検査としては、出血や発熱、飲み込むときに痛みを感じるなど早急に調べる必要がある場合に、腹部超音波検査や腹部CT検査といった画像診断を行うことがあります。

※代謝分泌疾患:糖尿病や甲状腺疾患などホルモンに影響を及ぼす内分泌臓器が関わる病気の総称。

一般的な治療法とその流れ

機能性ディスペプシアの治療におけるゴールは治さなければならない異常な部分が存在しないため、その人自身が納得する十分な症状の改善に至ることです。ただし、どの治療を選ぶ場合でも食事や嗜好品、生活習慣に関する見直しは欠かせません。

薬を飲む方法には第一段階として3種類あり、酸の分泌を抑える薬、胃腸の運動機能を改善する薬、漢方薬を使って治療します。これでもし、4~8週間かけて飲んでも症状の改善が乏しいときは、第一段階で使わなかった薬を第二段階として選択することに。

こうした服薬治療で思うように症状が改善しない場合には、まだ行っていない検査や心理的あるいは社会的因子について評価しながら治療方法を探していきます。

薬を飲む以外の治療法

近年、徐々に広まりつつある“脳腸相関”もこの病気との深い関与が示されているため、ストレスをため込まないような環境づくりが大切です。なかでも、心理的ストレスによってこの病気を発症している人では、医師からきちんとした病気の説明があることで症状が改善する可能性もあると言われています。

その説明とは主に、「機能の乱れによって生じている異常な部分が存在しない病気」ということと、「命やその後の経過(生命予後)に影響を及ぼす可能性が低い」ということの2つです。このように、医師の問診や必要な検査を通して自らの心身と向き合い、正しい知識を身に着けながら対処していくことが症状の改善に向けた近道とも言えるでしょう。

また、機能性ディスペプシアを患う人では必要な睡眠が確保されていないことや、食習慣の乱れがあるという報告も一部あります。ただし、まだ十分なデータが得られている訳ではなく、少しずつ解析が進められている段階です。そこで現状では、次に挙げるような生活習慣と食習慣の見直しを行うように推奨されています。

【生活習慣や食習慣の見直し】
・満腹まで食べずに少量ずつ複数回に分ける
・高脂肪食を避ける
・禁煙する
・飲酒やコーヒーの摂取を避ける

※参考:「機能性消化管疾患診療ガイドライン2021機能性ディスペプシア(FD)」の第2版

まとめ

機能性ディスペプシアは日本でまだ10年ほどと、歴史の浅い病気で認知度も決して高くはありません。なかには、過去に「慢性胃炎」と診断されていた人もいるでしょう。胃炎と違って「治すべき炎症はない」と一言にいっても、この病気が日常のパフォーマンスやQOL(生活の質、Quality Of Life)を低下させることは確かです。

ほんの少しでも胃の不調や食事に満足感が得られないなどの不安を抱えている人は、放っておかずに医療機関で相談するようにしましょう。

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