2026.06.30/最終更新日 2026.06.30

「バレット食道」の発がん率やGERD・肥満・ピロリ菌との関係、受診すべき症状とは?

胃の病気

「バレット食道(またはバレット粘膜)」は近年、日本でも増加傾向にある病気で、放っておくと「バレット食道腺がん」を引き起こす可能性も否定できません。検査結果で目にする「SSBE」「LSBE」と記されたアルファベットの意味とは?自分は胃カメラ(内視鏡)検査を受けるべきなのでしょうか。

ここでは、バレット食道の定義や由来をはじめ、2026年に発表された研究報告、日本人における発がん率のデータ、GERD(胃食道逆流症)を中心とする発症原因からピロリ菌・肥満との関係、症状とセルフチェックのポイントまで解説します。

「バレット食道」とは?定義と由来

バレット食道とは、胃に近い食道下部の粘膜が本来の「扁平上皮※」から、胃や腸に似た「円柱上皮※」へと置き換わった状態を指します。通常、食道の粘膜は白っぽい扁平上皮で覆われていますが、バレット食道になると、胃に近い部分の粘膜が赤みを帯びた円柱上皮に変化しているのが特徴です。

その定義は世界で統一されているわけではありませんが、日本では「胃から連続性に食道に伸びる円柱上皮で、腸上皮化生の有無を問わない」と定義されています。これを簡単に言い換えると、「胃から食道へつながって円柱上皮が伸びている状態で、腸の細胞にどれだけ似ているかの有無は問わない」です。

「バレット」という名前は、1950年にイギリスの胸部外科医ノーマン・ルパート・バレットが、食道下部に円柱上皮が見られる状態を報告したことに由来しています。当時は、生まれつき食道が短いことが原因で、本来は胃である部分が食道側へ引っ張られているのだろうと考えられていました。

バレット食道そのものは「がん」ではありません。しかし、のちに「食道腺がん」を引き起こすリスクになり得るため、定期的な経過観察が重要です。

※扁平上皮(へんぺいじょうひ):平べったい形をした「扁平上皮細胞」が並んでできる組織のこと。食道の内側を覆う粘膜は扁平上皮からできている。
※円柱上皮:円柱状で縦に細長い「円柱上皮細胞」が並んでできる組織のことで、健康な食道には見られず、胃や腸の内側に見られる。

検査結果の「SSBE」「LSBE」が示すリスク

この変化の主な原因は、胃酸の逆流が長く続くことです。逆流によって食道下部の粘膜が繰り返し刺激を受け、それが修復される過程で、酸に強い円柱上皮へと置き換わります。このように、ある組織が別の機能や形態をもつ組織へと変化する現象は「化生(かせい)」と呼ばれ、バレット食道のように、上皮組織に起こったものが「上皮化生(じょうひかせい)」です。

バレット食道は、この上皮化生が生じている「長さ」によって分類されます。医療現場でその診断に用いられているのは、国際的基準である「プラハ分類」という診断方法(全周の長さと、いちばん長く伸びている部分の長さをもとに診断する方法)です。

つまり、検査結果にこれらのアルファベットが記されている場合、それは食道下部の粘膜が「扁平上皮」から「円柱上皮」へ置き換わっている部分の長さを意味しています。

具体的には、いちばん長く伸びている部分の長さが1cm未満をUSSBE(ウルトラ・ショート・セグメント)、1cm以上3cm未満をSSBE(ショート・セグメント)、3cm以上をLSBE(ロング・セグメント)と表記します※。重要なのは、この変化している範囲が長いほど、将来的な発がんリスクが高くなる傾向があるという点です。

※LSBE/SSBEは、long/short segment Barrett esophagusの略。ただし、「プラハ分類」の公式な基準には、国内の一部で用いられている「USSBE」という区分はありません。また、実際の検査結果では、これらを区別せずに一括して「バレット食道」と書かれる場合もあります。

2026年の大規模研究、日本人でも増加傾向

これまで欧米人に多いとされてきたバレット食道ですが、近年の日本でも、食生活の欧米化や胃の状態の変化に伴い、バレット食道への注目が高まっています。その一方で、日本を含む東アジア人を対象とした大規模な研究報告はほとんどありませんでした。

そのような中で2026年2月、日本のリアルな実態に迫る大規模な地域コホート研究(追跡調査)の結果が発表されました。この研究では日本人のデータ約62万人分を平均6.2年にわたって解析し、バレット食道を新たに発症するリスクを調査しています。

その結果、62万125人のうち1,577例(全体の約0.25%)が新たにバレット食道と診断され、発生率は10万人年あたり46.4件※でした。そして、発症に関わる独立した要因として示されたのが、「50〜79歳」「男性」「GERD(胃食道逆流症)」「食道裂孔ヘルニア」※などです。

一方で、今回の解析では、BMI(体格指数)や糖尿病、喫煙、多量飲酒といった生活習慣に関係する因子については、発症との有意な関連が見つかりませんでした。また、ピロリ菌感染の有無や制酸剤(胃酸を抑える薬)の使用との関連性については、慎重な解釈が必要であるという見解が示されています。

これまでは欧米のデータに頼りがちだったバレット食道の知識ですが、このように「日本人のリアルなデータ」が蓄積され始めたことは、今後の対策や予防法を確立していく上で、重要な意味を持つといえるでしょう。

※「10万人年あたり46.4件」というのは、10万人を1年間追跡した場合に約46人が新たに発症する計算を意味する。
※食道裂孔ヘルニア:胃の一部が胸側にはみ出る状態。

異形成の延長線上に潜む「バレット食道腺がん」

まず、「食道がん」は、「扁平上皮がん」と「腺がん」に大きく分類されます。前者の扁平上皮がんは、従来の日本で大部分を占めていた種類です。一般に、日本を含む東アジア諸国では、およそ9対1の割合で扁平上皮がんの方が多いと言われています。

一方、バレット食道で置き換わった組織を土台として発生する「バレット食道腺がん」は、後者(腺がん)の一種です。バレット食道は「がん化するリスクがある組織(前がん病変)」として知られていますが、決してすべてのバレット食道が、がんに進行するわけではありません。この病気が医療現場で重く注視されている理由は、バレット食道から「異形成(いけいせい)」という段階を経て、がんへ進行することがあるためです。

異形成とは、細胞の形や並び方が正常とは異なるものに変化した状態をいいます。言い換えると、「現時点ではがんではないが、将来的にがんに進行する可能性がある状態」です。

内視鏡(胃カメラ)検査による組織採取(生検)でこの異形成が見つかった場合は、がん化の危険度が高まっているサイン。その後の経過観察を短期間で行ったり、早い段階で内視鏡による治療を検討したりと、治療方針が変わってきます。

国内外で「バレット食道腺がん」発がん率の差

欧米では、「バレット食道腺がん」の急増により、1995年以降はそれまで主流だった「食道扁平上皮がん」の罹患数を逆転。2005年には「食道がん」全体の約70%を占めるまでになり、25年間で有病率が約6倍に増加したというデータもあります。

これに対し、日本におけるバレット食道腺がんの増加スピードは、欧米ほど急激ではないものの、確実に増加傾向にあります。日本食道学会の全国登録データによると、食道がん全体に占める「腺がん」の割合は、1988〜1994年にはわずか1.4%でしたが、2007年には5.4%へと増加しました。その後は5%前後で横ばいに推移しているものの、決して軽視できません。

また、がんが発生する胃と食道の境目(食道胃接合部)の腺がん全体で見ると、1960年代前半には全胃がんの2.3%だったものが、2000年代前半には10.0%にまで増加しています。この背景には、バレット食道の増加が関与している可能性もありますが、「進行がん」になってしまうと「本当にバレット食道が原因で生じた腺がんなのか」の判別が難しくなるため、詳細はまだ明らかになっていません。

ここで重要となるのが、バレット食道の「長さ」による発がん率の違いです。国内の施設を対象に行った長期調査では、前述のプラハ分類で3cm以上の「LSBE」の場合、年間約1.0~1.2%の割合でがんが発生していることが報告されました。こうした日本人を対象とした新しいデータの蓄積によって、診断結果から得られるリスクの予測も、より私たちの実態に即した値へと変化していくことでしょう。

バレット食堂が起こる主な原因

バレット食道が発生する中心的なメカニズムは、胃酸による「慢性的な刺激と、それに対する粘膜の修復」です。酸性度の強い胃酸が何度も食道へ逆流し、食道下部の粘膜がくり返し刺激を受けることで、本来の粘膜が酸に強い円柱上皮へと変化していくと考えられています。

そのため、バレット食道の最大級の原因として挙げられるのが、胸やけや呑酸(どんさん)※などを引き起こす「GERD(胃食道逆流症)」です。そのほか、一般的に「ピロリ菌※の感染率の低下」や「肥満(とくに内臓脂肪)」も原因と言われますが、これらはいずれも、結果としてGERDの引き金となる可能性があるため、バレット食道のリスクを高めると考えられています。

※呑酸(どんさん):胃酸が逆流することで起こる、酸っぱい液体や苦い液体が、口の方まで上がってくる状態。
※ピロリ菌については、既存記事『ピロリ菌は子育て中にも要注意!症状や感染経路、「胃がん」との関係をまとめて解説』で詳しく解説していますので参考にしてください。

GERD(胃食道逆流症)

GERD(gastro-esophageal reflux disease;胃食道逆流症)とは、胃酸を中心とした胃の内容物が食道に逆流することによって、さまざまな不調を来たす状態の総称です。ひと言にGERDといってもその状態はとても複雑で、腸内細菌のバランスや心理的なストレス、消化管の運動障害なども絡み合っており、治療がうまく進まないことも珍しくありません。

日本では食生活の欧米化や肥満の増加、高齢化などに伴い、1990年代後半からGERDの患者数は増加傾向にあります。2020年頃には、日本人口の約15%(約7人に1人)が「週1回以上」の逆流症状に悩まされているという見解も示されていました。

こうした中で近年、とくに注目を集めているのが、食後の胃の中で発生する「胃酸の層(acid pocket:アシッドポケット)」の存在です。通常、食後すぐは食べた物と胃酸が混ざり、胃の内部は一時的に中性に傾きます。しかし、時間の経過とともに、胃の上部(食べた物の層の上)に、「胃酸の層」が出現することが分かってきました。

GERDの人ではこの「胃酸の層」が大きくなりやすく、これが過剰な酸逆流を誘発します。さらに「食道裂孔ヘルニア」がある人の場合、この「胃酸の層」が食道へとつながる胃の入り口付近に留まりやすくなるため、食道への胃酸の暴露が長引く可能性があります。

ピロリ菌感染率の低下

ピロリ菌はウレアーゼという酵素を使って胃酸を中和し、自分のまわりをアルカリ性に変えることで胃の中を生きる細菌です。そのため、飲み薬を使った除菌率の上昇に伴って、その感染率が低下した現代では、胃酸の分泌が弱まらずにしっかり保たれるようになりました。これが結果として、GERDが起こりやすくしていると考えられているのです。

実際に欧米のデータでは、ピロリ菌に感染していない人(陰性)の方が、感染している人に比べてバレット食道の発症リスクが約4倍も高いといわれています。

ただし、日本の研究においては、ピロリ菌の陰性はバレット食道における「LSBE」のリスクを高める要因とはされているものの、「SSBE」のリスクとは明確に関連していないという見解も。今後の日本人における詳細な検証が求められます。

注意したいのは、「バレット食道を予防できる可能性があるなら、ピロリ菌の除菌は行わない方がいい。」と安易に考えないことです。ピロリ菌は胃癌の重要なリスク因子であるため、医療機関でピロリ菌の陽性が確認された場合は、必ず医師と相談し、除菌や治療について検討していきましょう。

肥満(とくに内臓脂肪)の増加

肥満がある人では、肥満のない人に比べて、3倍近くも食道の何らかの症状に悩まされていることが報告されています。

国内の解析調査では、BMI(体格指数)が高くなるほど食道の症状が発生しやすいという報告も。加えて、わずかな体重増加であってもGERDの症状が起こりやすくなったり、悪化したりするという報告もあります。そのため、BMIが基準値内におさまっている標準体型の人であっても、油断は禁物です。

肥満が逆流を招く理由は、蓄えられた脂肪が胃を外側から圧迫し、腹圧(お腹の圧力)を上げて胃酸の逆流に拍車をかけることにあります。この腹圧の上昇は、BMIが1上がるごとに、胃の内圧が10%上昇するとされているほど、胃にとっては大きな負担です。

また、胃や腸の周りに溜まりやすい「内臓脂肪」は、単に胃を押しつぶすだけでなく、それ自体がバレット食道やGERDを悪化させる非常に大きな要因となります。

内臓脂肪が増加すると、脂肪細胞由来の生理活性物質(生理作用を持つホルモンのような物質)※のバランスが乱れ、炎症を引き起こすことに加えて胃酸の分泌も亢進させ、これがさらなる炎症を招くという悪循環に陥るのです。

※脂肪由来の生理活性物質の例:動脈硬化の抑制やインスリンの効きを良くする「アディポネクチン」、食欲調節やエネルギー代謝に役立つ「レプチン」、炎症を引き起こす「IL-6、TNF-α、IL-1β」など。
※肥満については、既存記事『その肥満、腸内細菌のせいかも?サイエンスから導く効果的な6つの取り組み』で詳しく解説していますので、参考にしてください。

症状とセルフチェックのポイント

バレット食道があることで生じる主な自覚症状は、GERDによって引き起こされているものが多く、例としては以下のようなものが挙げられます。ただし、人によってはあまり症状を感じない場合もあり、これらのセルフチェックだけで状態を判断するのは危険です。

必ず医師に相談の上、適切な検査を受け、治療や経過観察の方法について検討するようにしましょう。

【セルフチェックのポイント(症状)】

✅胸やけ(みぞおち〜胸が焼ける、横になると悪化、食後に悪化)

✅酸っぱいものが上がる「呑酸」(口まで酸が来る、苦い液体が上がる)

✅慢性的な咳・のど症状(長引く咳、のどの違和感、声がかすれる、痰が絡む)

✅飲み込みにくい「嚥下違和感」(食べ物がつかえる、胸につまる感じ)

✅夜間悪化(夜に咳き込む、横になると悪化、夜間胸やけ)

こういう人は胃カメラ(内視鏡)検査を推奨

バレット食道という病名は、一般にはまだあまり広く知られていないかもしれません。そのため、「時々胸やけがするので念のため胃カメラ(内視鏡)検査を受けたら、思いがけずバレット食道と診断された」という人もいるでしょう。

前述したセルフチェックの症状に加えて、以下に挙げるような「リスク因子」に心当たりがあり、何かしらの不調を感じている場合は、一度専門の診療科(消化器科)で胃カメラ検査を受けてみることをおすすめします。

胃カメラ検査を行うことは、バレット食道の早期発見だけでなく、胃がんや食道がんなど、さまざまな病気の有無をはっきりとさせるためにも重要です。

【こういう人(リスク因子など)は内視鏡を推奨】

推奨される方の特徴
(リスク因子など)

具体的なチェック内容

慢性的な食道の不調

・胸やけや酸が上がる症状が長引いている

・夜間に胸やけや咳で目が覚める

・食べ物が喉や胸に支える(飲み込みづらい)

見過ごされがちな危険サイン

・市販の胃薬を長期にわたって飲み続けている

・原因不明の体重減少や貧血がある

年齢・性別・体型

・40〜50代以降の年齢である

・男性である

・肥満(特に内臓脂肪)傾向にある

生活習慣

・喫煙の習慣(または過去の喫煙歴)がある

・暴飲暴食や、脂っこい食事(脂肪過多)を好む

まとめ:「バレット食道」を検索する際の注意点

日本では、食道胃接合部からつながる「円柱上皮」が胃カメラ(内視鏡)検査で少しでも確認されれば、長さが短くてもバレット食道(またはバレット粘膜)と診断されることがあります。

その一方で、たとえば欧米のガイドラインでは、バレット食道の診断に「腸上皮化生」があることや、1cm以上の円柱上皮があることなどが必須条件となっています。したがって、海外で診察を受ける場合や、自分でインターネットなどを使って情報を検索する際には注意が必要です。

自分のリスクを正しく評価するためには、胃カメラ(内視鏡)を用いた生検採取から「異形成」の有無と状態を確認し、適切なアプローチで経過を見ることが欠かせません。食道の健康を守り続けるために、正しい知識を備え、定期的な検査を受けながら、より良い健康管理に取り組んでいきましょう。

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