2026.02.27/最終更新日 2026.02.27

「健康長寿と腸内細菌」連載① 老化スピードを左右する腸内環境、話題の長寿菌とは?

腸内細菌

健康長寿を実現している人の腸内には、「長寿菌」をはじめとする特徴的な腸内細菌叢(さいきんそう)が存在します。老化の主な原因「インフラメイジング」(炎症性老化)や、加齢による消化管の変化が腸内環境へ与える影響を知ることは、根拠のある腸活をおこなう上で大切です。

今回から2回にわたり、健康長寿と腸内細菌の関係について紹介します。第1回となる今回は、このテーマが注目される理由から、フレイルの人と100歳以上で健康な人の腸内環境における比較、加齢に伴う消化管の変化、いま話題の「長寿菌」についてまとめました。多くの情報が飛び交う「老化と腸」というテーマで、知識の整理にお役立てください。

「健康長寿」と「健康寿命」の考え方

「健康長寿(Healthy Longevity)」とは、単に寿命が長いだけではなく、健康寿命も長いことを指します。この「健康寿命(healthy life expectancy)」とは、心身ともに自立し、日常生活を送るうえで制限なく過ごせる期間の平均(年)です。

一方で、平均寿命と健康寿命の「差」は、不健康な状態で過ごす期間(年)を意味します。2019年のデータによれば、この差は男性で8.73年、女性で12.06年でした。

つまり、人生の最晩年における約10年間は、加齢に伴う筋肉量の減少「サルコペニア」や、心身が衰え介護が必要になる手前の状態「フレイル(虚弱状態)」といった課題を抱えやすい期間といえます。また、身体機能だけでなく、認知機能の低下や社会とのつながりの希薄化もフレイルのリスクを高める要因となるため、多角的な注意が必要です。

「腸内細菌×健康長寿」が注目される理由

健康寿命を延ばして健康長寿をかなえるには、食事や運動、睡眠、ストレス管理といった基本的なライフスタイルの改善が欠かせません。これらに加え、いま世界中で熱い視線が注がれているのが、「腸内微生物叢(ちょうないびせいぶつそう)」へのアプローチです。

私たちの腸内環境も加齢によって変化します。老化に伴う腸内微生物の移り変わりを知ることは、老化に関連する病気やその特徴を予測し、より健康的な加齢(エイジング)を促進するための大きな手がかりとなるでしょう。

事実、世界中で増加傾向にあるフレイルに腸内細菌叢が深く関与していることが、近年の研究で実証されつつあります。フレイルとは、握力や身体活動の低下、体重の減少などが見られる結果、障害や入院といった不健康な期間に陥りやすくなる状態です。

すでに、腸内細菌と肥満との関係※は研究でよく知られているものの、実は「低体重」との間にも強い関連があることは、まだあまり知られていないかもしれません。世界一の超高齢化社会である日本は、65歳以上の人口が約29.3%(2024年時点)と過去最高を更新し続け、諸外国に比べて低体重の高齢者が多いのも特徴の一つです。

そのため、腸内細菌を介した低体重の予防法が見つかれば、日本人に多いフレイルの発症を効果的に抑えられると期待されています。

こうした背景のなか、この10年間で老化と加齢性疾患における「腸内マイクロバイオーム」の役割をひも解く研究は爆発的に増えました。腸内マイクロバイオームとは、腸内にすむ細菌やウイルス、真菌などすべての微生物を含む生態系を指します。近年、最新の解析技術を用いた世界規模の研究により、このマイクロバイオームがヒトの老化や加齢に伴う健康状態を左右する鍵を握っていることが明らかになってきたのです。

※肥満と腸内細菌の関係については、既存記事『その肥満、腸内細菌のせいかも?サイエンスから導く効果的な6つの取り組み』で詳しく解説しています。

フレイルの人に特徴的な腸内環境

腸内マイクロバイオームは、アルツハイマー病や関節炎、さらには子宮内膜症といった多岐にわたる病気との関連が示されています。とくに、重度のフレイルを抱える人の腸内では、有益な菌群(コプロコッカス・エウタクトゥス、プレボテラ・コプリなど)が枯渇している一方で、有害な菌群(クロストリジウム・ハザウェイ、バクテロイデス・フラジリスなど)が明らかに優勢であるという研究報告も。

こうした微生物の占有率の変化は、私たちの代謝や免疫機能に対し、深刻な変調を招く恐れがあります。たとえば、筋肉の維持や炎症の抑制に役立つ「短鎖脂肪酸」※や、心のバランスを整える「トリプトファン」の減少がその一例です。その反面、体に負担をかけるアンモニアが増加するなど、加齢性疾患を招きやすい環境が作られやすくなります。同時に、オリゴ糖類をエサにして発酵をおこなう有益な菌群※も減少する傾向です。

このように、有益な微生物が減って炎症を引き起こす微生物が増加し、腸内の多様性が失われていくことは、老化の加速やフレイルの進行に深く関与していると考えられています。

※「短鎖脂肪酸」の特徴や、オリゴ糖類をエサにして発酵をおこなうといった詳しい内容については、既存記事『発酵性食物繊維の短鎖脂肪酸が腸活の鍵!食品や効果的な摂り方』で解説しています。

100歳以上の人に特徴的な腸内環境

100歳以上で健康長寿を成す人の腸内には、老化に打ち勝つための独特なマイクロバイオームのパターンが存在することが、最近の研究で明らかになってきました。それは、アッカーマンシア属やバクテロイデス属などの有益な菌群が豊富で多様性に富み、短鎖脂肪酸の産生能力に優れたパターンです。

とくに、短鎖脂肪酸のうち酪酸を産生する細菌を多く保有する高齢者は、腸内環境が乱れにくいことも分かっています。加えて、フレイルを抱える高齢者で目立つ大腸菌などの病原性細菌が少ないことも特徴の一つといえるでしょう。

さらに注目したいのが、腸内のウイルス成分です。これまで、マイクロバイオームを構成する細菌の研究は進んでいましたが、ウイルス成分の多くは謎に包まれてきました。しかし近年のメタゲノム解析※により、ようやくその正体が解明されつつあります。
日本とイタリアで約200人を対象におこなわれた研究によれば、100歳以上の高齢者の腸内ウイルス叢は、他の年齢層とは明らかに異なる特徴を有していました。若年者(18歳以上)や若年高齢者(60歳以上)が持たないクロストリジウム属に関連するウイルスなどを保有し、より多様なマイクロバイオームを形成しているのです。

また、100歳以上の高齢者の腸内では、硫酸塩の代謝に関わる遺伝子を豊富にもつウイルスの存在も確認されました。このウイルスが働くことで、微生物由来の硫化水素(H2S)系代謝産物が増加し、これが腸の粘膜を健全に保つとともに、病原菌に対する抵抗力の維持に寄与している可能性があります。

こうした細菌やウイルスが織りなす微生物の集団が、代謝産物を介して全身の炎症を抑え、感染への抵抗性を高めることで、健康長寿を支える基盤となっているのかもしれません。

※メタゲノム解析:便などのサンプルに含まれる微生物について、培養せずにDNAを丸ごと解析し、菌の種類や機能を推定する方法

老化の主因「インフラメイジング」と腸内細菌

100歳以上の高齢者の腸内環境が炎症を抑える盾となっている一方で、多くの現代人が直面しているのが「インフラメイジング(炎症性老化)」という課題です。これは全身で起こる微弱な慢性炎症を指し、現在、あらゆる加齢関連疾患を引き起こす主な要因として注目されています。そして、インフラメイジングと密接な相互関係にあるのが腸内細菌叢です。

双方の関係性は加齢にかぎらず、運動不足や栄養失調、消化管の衰えによるホルモン変化、多剤併用といった様々な外部刺激によって乱れる可能性があります。また、社会的な孤立も腸内細菌叢を乱す誘因となり得るため軽視できません。

つまり、インフラメイジングはヒトの老化を早めるだけでなく、腸内細菌叢の老化をも招き、互いに影響を及ぼし合うことで全身の老化スピードを加速させるのです。

この老化の速度については近年、実年齢を指す「暦(こよみ)年齢」と、生物としての機能を反映する「生物学的年齢」の差異が話題となっています。最近の研究では、生物学的な老化速度は75歳までは加速し、その後は安定する傾向にあるという見解も。一方で、高齢者の生物学的な老化速度は、若年成人の約1.8倍にものぼるという報告もあり、早い段階からの対策が重要であることは言うまでもありません。

ここで大事なのは、暦年齢は巻き戻せないものの、生物学的年齢は根拠のあるライフスタイルや食生活の選択によって巻き戻しが可能であるということ。腸内細菌叢は、私たちの環境や取り組みを映し出す鏡です。腸内環境を意識した生活習慣の改善は、インフラメイジングの火を鎮め、老化のスピードを調節することにつながるでしょう。

加齢による消化管の変化が腸内細菌に与える影響

日々の習慣だけでなく、加齢に伴う消化管そのものの変化も、腸内細菌叢が影響を受ける大きな要因の一つです。

まず、高齢になると腸を動かす神経細胞の老化によってその数が減少し、腸の動きが鈍くなります。また、胃酸の分泌機能が低下して胃の中の酸性度(pH値)が上昇すると、ヘリコバクター・ピロリやその他の病原性細菌が過剰に増殖しやすい環境に。同時に、腸管上皮細胞や杯細胞(はいさいぼう)※の機能も衰えるため、バリア機能に欠かせない粘液などの産生が減り、感染リスクが高まります。さらには、すい臓からの分泌液の減少が、腸内微生物叢の恒常性を不安定にするといった変化も。

実は、100歳以上の高齢者の腸内では、抗菌作用を持つユニークな「二次胆汁酸」を産生できることが知られています。

二次胆汁酸とは、肝臓でコレステロールを材料に作られる一次胆汁酸を基にして、腸管内で腸内細菌がこれを代謝し作り変えた胆汁酸です。脂質の乳化や脂溶性ビタミンの吸収に関わる一次胆汁酸に対し、二次胆汁酸は腸内環境の維持や代謝の調節、さらには炎症の抑制といった役割を担っています。このマイクロバイオームが作り出す二次胆汁酸の組成は、アルツハイマー病を含む加齢関連疾患と深く関連しているとの見解も示されました。

このように、消化管自体の物理的な老化と腸内細菌叢の乱れが相まって、私たちの生物学的老化は気付かないうちに加速してしまうのです。

※杯細胞:腸管粘膜上皮を構成する細胞の一つで、粘液の元ととなる高分子糖タンパク質のムチンを産生する細胞。腸管バリアに関する詳しい内容は、既存記事『腸管バリアのしくみと機能。食事と腸内細菌が大きく関与!』を参考にしてください。

話題の「長寿菌」に該当する菌は?

昨今、メディアなどで目にする「長寿菌」という言葉。これは特定の単一な菌を指すのではなく、健康寿命が長い人の腸内に多く見られる有益な菌の総称です。代表的なものには、おなじみのビフィズス菌や、大便桿菌(フィーカリバクテリウム)、ラクノスピラ、そして次世代プロバイオティクスとしても注目されるアッカーマンシアなどが含まれます。

これらの菌は、それぞれが独立して働いているわけではありません。たとえばビフィズス菌は、他の菌と助け合いながら短鎖脂肪酸(SCFA)を作り出し、アッカーマンシアは腸の粘膜バリアを保護して「炎症の起きにくい環境」を維持しています。

重要なのは、これらの菌が絶妙なバランスを保ちながら、マイクロバイオームという一つのチームとして機能している点です。流行の菌を一時的に取り入れるのではなく、日々の生活習慣を通じて、ホームベースとなる自分の腸内に「最高最強のチーム」を育み、維持していきましょう。

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