2023.11.30/最終更新日 2023.12.01

腸管バリアのしくみと機能。食事と腸内細菌が大きく関与!

腸内細菌

腸管バリアが正常に働かなければ、善玉菌(有益な腸内細菌)も生体の免疫システムによって敵とみなされ、バランスのよい食事を摂取しても必要な栄養素を有効活用することが難しくなります。この免疫応答がつよくなると腸管炎症が起こり、そこから血流にのって全身の組織にも影響を与えることで、肥満や皮膚疾患など全身性の炎症状態につながる可能性も。ここでは腸管バリア機能のしくみから、腸内細菌とバリア機能の関係、推奨される検査について解説します。

腸管バリアの役割と、損傷による影響

ヒトの腸管粘膜を広げるとテニスコート約1.5面分(400㎡)で、これは皮膚のおよそ200倍に相当するほど巨大な面積です。その腸管粘膜は、免疫担当細胞が多く存在する粘膜固有層と一層の腸管上皮細胞(ちょうかんじょうひさいぼう)からなり、このうち腸管上皮細胞が主に腸管バリアの機能を担っています。もし、腸管バリアが存在しなければ、異物やウイルスなどの有害物質から腸管組織を保護することは出来ません。

加えて、腸管バリアが正常に働くことで、私たちの腸管免疫系が過剰な免疫応答をせずにすんでいます。このバリアが損傷を受けると、異物のみならず善玉菌など私たちにとって有益な腸内細菌も組織内に入り込み、免疫システムがこれを敵と判断して攻撃しかねません。その結果、起こるのが炎症です。

分かってきた腸管バリアの構造と機能

腸管バリアはその構造と働き方により、「物理的バリア」と「化学的バリア」の2種類に分けられます。この2つが組み合わさり、腸管の粘膜上皮(ねんまくじょうひ)では栄養素の消化と吸収が行われるとともに、腸管免疫系にも深く関わっています。ひと言でいうと、本来なら腸管組織内に侵入すべきでない異物から生体を守るバリア機能です。

「物理的バリア」は、“敵の侵入を防ぐ壁”

まず、「物理的バリア」の構造には、上皮層(じょうひそう)を覆う粘液と糖衣(上皮細胞表面に存在する糖鎖の集合体)、細胞間接着装置(タイトジャンクション、以下ではTJと省略)などが含まれます。その機能は文字が示すように、物理的な障壁となって微生物の侵入を防ぐことです。

「物理的バリア」を構成する要素と働き
粘液胚細胞から産生されるムチン(高分子糖タンパク質)で構成され、腸管上皮を覆って異物の侵入を防ぐとともに、一部の常在菌のエネルギー源として利用される。ムチン分子が持つ糖鎖は粘液の粘性を高め、病原微生物が上皮細胞に結合しようとするのを防ぐ。
糖衣膜タンパク質に付いている糖鎖の集合体で、腸管上皮細胞表面に密にくっつくことで物理的に異物の腸管組織内への侵入を防ぐ。
細胞間接着装置 (タイトジャンクション)粘液層や糖衣をくぐり抜けた異物に対し、上皮細胞同士の結合を維持することで腸管組織内への侵入を防ぐ。OccludinやClaudin-3、ZO-1など複数のタンパク質分子で構成されている。

「化学的バリア」は、“敵を変化させるアイテム”

続いて「化学的バリア」は、微生物に化学的な変化を与えて抗菌活性を発揮するもので、細菌の侵入を抑えるように働く数々の分子を指します。例えば、腸管上皮細胞のひとつであるパネート(Paneth)細胞では、抗菌ペプチド(ディフェンシン、カテリシジン)やリゾチームなどを分泌することで粘膜表面を除菌。

一方、M細胞(microfold cells)では抗原を取り込み、粘膜固有層に存在する樹状細胞に対してそれを提示することで、結果として免疫グロブリンA(IgA)が分泌されて病原体やアレルゲンの組織内侵入を阻止し、病原体毒素を中和するように働きます。

近年の研究で、腸管から分泌される消化酵素の一種であるアルカリホスファターゼ(以下、ALP)も、化学的バリアと捉えられるような働きをしていることが分かりました。このうち、小腸ALPは粘膜上皮細胞から分泌されて細胞毒素のリポ多糖(LPS、リポポリサッカライド)を分解することで、大腸炎や肝臓の線維化(せんいか)を予防する効果が報告されています。

また、大腸ALPは難消化性オリゴ糖や水溶性食物繊維によって活性が高まることや、これが糞便中のムチンの量と相関関係を示すことも分かりました。将来的にはこうした研究結果を踏まえて、腸管バリアに着目した食の選択や検査を検討していくようになるのかもしれません。

腸内細菌がバリア機能と腸管免疫系に与える影響は大きい

ヒトの腸管内には100兆個もの多様な細菌がすみつき、その重量は約1.5㎏とも言われています。この腸内細菌は腸管バリアと密接に関与し、その作用は大きく分けると2種類です。ひとつは、代謝産物である短鎖脂肪酸を中心とする作用。もう1つは細菌外膜の一部である菌体に由来する、抗原としての作用です。

短鎖脂肪酸を中心とする作用

腸内細菌はヒトが利用できない食物繊維を、酸素をつかわずに発酵して酢酸やプロピオン酸、酪酸といった短鎖脂肪酸(SCFA、short-chain fatty acids)を産み出します。この短鎖脂肪酸は腸管上皮細胞でエネルギー源として使われるほか、肝臓での脂肪合成にも利用され、場合によってはヒトの全身で20%以上をまかなうこともある重要なエネルギー源です。

なかでも腸内細菌が産生する酪酸は、身体の隅々で免疫反応の制御を担うTreg細胞(制御性T細胞)の分化を誘導することが分かっています。加えて、酪酸はTJのうちClaudin-3分子やある種の酵素の発現を増加すること、特定の因子を誘導することでTJバリアを強くするということも分かってきました。

一方、酪酸以外の短鎖脂肪酸についてはまだ謎が多いものの、同じようにTJバリアを調節する作用があると考えられています。

また、酪酸を含む短鎖脂肪酸は粘膜固有層における特定のIgA形質細胞の分化を促すことが知られ、腸管バリアのうち「化学的バリア」にも重要です。このように、腸内細菌は代謝産物の短鎖脂肪酸を介して腸管バリアの軸とも言える腸管上皮細胞を支え、間接的に腸管免疫系と深く関わっています。

菌体に由来する抗原としての作用

腸管上皮細胞には細菌や微生物などの抗原を認識する受容体があり、腸管に入り込んだ病原体や異物を中和するためのIgA抗体を作り出す機能として重要です。例えば、パイエル板※のM細胞にある受容体は細菌を認識して取り込み、上皮組織内へと誘導(図-①)。そこで樹状細胞などの抗原提示細胞がこれを受け取り、細菌を分解して得られた抗原の断片を今度はT細胞に提示します(図-②)。するとT細胞は活性化し、続いてB細胞へと指令を発信(図-③)。これを受けたB細胞が発展していき、IgA抗体が作り出されて腸管内へ分泌されます(図-④)。

つまり、腸内細菌は免疫応答に必要な抗体の産生にも一役買っているのです。

また、どの種類の腸内細菌がこうした免疫反応を制御するのかについても、研究技術の進歩によって分かってきました。ある研究では、マウスの餌にプロバイオティクスとして知られるペプチドグリカン※を混ぜると、Treg細胞が増えて腸炎が抑えられたという報告があります。その詳細は、ペプチドグリカンが樹状細胞を刺激することで、過剰になっている免疫を抑える特定のタンパク質の分泌が増え、結果として炎症の抑制に働くというもの。

ほかにも、Bacteroides fragilisという細菌でTreg細胞を誘導することが報告され、細菌によって腸管の恒常性が保たれる仕組みが少しずつ解明されてきました。そして今、期待されているのが、これらを応用した炎症性疾患やアレルギーに対する治療法の開発です。

こうした細菌と腸管免疫系の関わりに加え、様々な疾患との関連性について分かり始めたことで、腸内細菌に対する関心はより一層、高くなっています。腸管バリアを正常に機能させるためには、腸内細菌の視点からも考えて取り組む必要があると言えるでしょう。

※パイエル板(Peyer’s patches):特有の凹凸構造でB細胞が多く集まり、抗体産生をおこなうことで免疫応答を担う場。

※ペプチドグリカン:クロストリジウム・ブチリカム(Clostridium butyricum)の細胞壁を構成する成分。

バリア機能の状態を調べる検査方法

腸管バリアの状態を調べる検査には、「リーキーガット検査」「腸内フローラ検査」「遅発性フードアレルギー検査」などがあり、どれも自由診療として身近なクリニックで受けられます。費用はおよそ3万円からが一般的で、医療機関によって費用の設定や使用する検査キットが異なることに注意しましょう。

検査の内容や項目が自分の目的に合っているか確認することはもちろん、不安な人は医師に相談してから受けることが大切です。それぞれの検査について詳しいことは、こちらの記事(「腸管バリア(リーキーガット)検査」で腸の状態を知り、自分にあったケアを!)を参考にしてください。

バリア機能にとって、わるい食事&よい食事

まず、腸管バリア機能の低下を招く食べ物として、過剰な脂質を含む高脂肪食が一因であることは確かです。事実、TJを構成する複数のタンパク質分子は高脂肪食の摂取によってその発現量が少なくなり、これはバリア機能の低下と相関することが研究で明らかになっています。

そして、腸内細菌由来の短鎖脂肪酸がバリア機能を強化するという視点で考えると、発酵食品や十分な食物繊維を含む食事はよいものと考えて間違いありません。事実、地中海食※を日常的に摂取するヒトの腸内では、難消化性多糖を分解できるPrevotella属やLachnospira属が多く存在し、短鎖脂肪酸の濃度も高いことが分かっています。

また、食物繊維だけでなく、小豆などに含まれるレジスタントスターチ(小腸で消化されないデンプン)の摂取により、短鎖脂肪酸が顕著に増加するといった研究報告も。バランスのよい食事を心がけることが基本ですが、こうした食品素材が持つ情報も知っておくと、献立を考えるときにヒントとなるでしょう。

※地中海食:獣肉が少なく魚介類が多い。野菜や全粒雑穀類、豆類、種実類やハーブなどをオリーブオイルにあえるなど、食物繊維が豊富で良質な脂質を摂れることが特徴。

まとめ

現代では、“腸活”や“腸管免疫”という言葉も広く知れ渡り、腸と全身の関わりについて多くの人が認識するようになってきました。ずっと謎に包まれていた腸内細菌の代謝物や抗原に関するしくみについても、研究報告が堆積されつつあります。

気づかないうちにバリア機能が低下し、炎症性疾患などが発症してから対処するのではなく、健康なうちから腸管バリアの状態を確認してみてはいかがでしょうか?

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