2024.06.28/最終更新日 2024.06.28

「腸管カンジダ症」原因は腸内“真菌”の異常な増殖!検査や治療、セルフケアの方法

腸の病気

腸管カンジダ症とは、腸管内に常在する日和見菌のカンジダが免疫機能の低下など内因性の原因によって異常に増殖し、引き起こされる日和見感染症です。その症状は吐き気や下痢など消化器系に留まらず、皮膚の痒みやアレルギー症状として現れることも。近年では解析技術の進歩により、カンジダの病原性に関するメカニズムも徐々に分かってきました。検査では大腸カメラ(内視鏡)を用いる以外に、自由診療として尿で行う検査なども選択可能です。ここでは、日常生活でカンジダ症を予防するためのセルフケアのポイントも合わせて紹介します。

「カンジダ症」の原因は常在菌の日和見感染

まず、「カンジダ症」とは主に免疫力の低下が原因でヒトの皮膚や消化器、泌尿器などに常在する真菌のカンジダ(Candida)が異常に増殖し、炎症を引き起こす日和見(ひよりみ)感染症です。その病態から皮膚や食道などの粘膜に留まる表在性カンジダ症と、肝臓や脾臓(ひぞう)、血液、髄膜(ずいまく、頭がい骨と脳の間にある膜)など身体のより深い組織に感染が拡がる深在性カンジダ症(侵襲性カンジダ症ともいう)の2つに大きく分かれます。このうち深在性カンジダ症は、ときに死に至ることもある致命的な感染症のひとつです。

「腸管カンジダ症」はヒトからヒトにうつる?

そして「腸管カンジダ症」は表在性カンジダ症に分類され、日和見菌として腸粘膜の表面にすみつき通常は無害なカンジダが、腸内環境の悪化によってウェルシュ菌や大腸菌(有毒株)などのいわゆる悪玉菌と同じ働き方をするために発症します。悪玉菌が作り出す有害物質で腸管バリア※が壊れると、増殖したカンジダが血流を介して全身へ拡がり、これが様々な組織で深在性カンジダ症に発展する可能性もゼロではありません。

ただ、消化管で起こるカンジダ症では、食道以外で発症することは珍しいと言われています。また、ウイルスや病原性をもつ細菌などに暴露されて起こる外因性の感染症と違い、体内の防御力の低下によって二次的に起こる内因性の感染症のため、基本的にはヒトからヒトへうつることはありません。

※腸管バリアについては、既存記事「腸管バリアのしくみと機能。食事と腸内細菌が大きく関与!」を参考にしてください。

そもそも、カンジダって何?

カンジダは真菌の一種で湿気の多い場所に生えるカビ菌や、きのこ類、麹(こうじ)菌、酵母菌の仲間です。その細胞内にはヒトと同じように核のほか、染色体やミトコンドリア、小胞体など多くの小器官を持っています。また、真菌には大きく分けて酵母菌と糸状菌があり、酵母菌は細胞が1つずつ独立して増殖でき、もう一方の糸状菌は、糸状あるいは枝状に細胞がつながったもので一般にカビと呼ばれているものです。

カンジダはこの2つの性質を持ち、宿主の免疫機能低下など条件がそろうことで異常に増殖し、酵母型と菌糸型の両方の形態に変換することが出来ます。

カンジダの病原性とメカニズム

病原性を持つのは単体のカンジダではなく、増殖して菌糸と呼ばれる細長い形態(これを菌糸型という)を取り、皮膚表面や粘膜上にバイオフィルム※を形成したときです。なかでも、皮膚や粘膜で日和見感染症を起こす起因菌の90%を占めているカンジダ・アルビカンス(C. albicans)という菌種では、菌糸型のときに細胞外へ分泌される複数の酵素が病原性の発現に関与することも分かっています。

例えば、アスパラギン酸プロテアーゼ(secreted aspartyl protease、略称SAP)はケラチンやアルブミンといったヒトのタンパク質を分解したり、免疫グロブリンA(IgA、粘膜免疫で防御機構の中心を担う抗体)を破壊したりする酵素です。また、ホスホリパーゼ(phospholipase、略称PL)という酵素は、宿主の生体膜を構成しているリン脂質を分解することで宿主細胞を溶かし、カンジダが粘膜へ付着するのを助けます。そして、ヘモリジンという酵素はカンジダの菌糸が拡がるのを促し、これがバイオフィルムの拡大を招くことに。

このようなメカニズムで異常に増殖したカンジダは宿主の免疫反応から逃れ、バリア機能の低下した粘膜を通過して全身で感染症を引き起こすのです。

※バイオフィルム(生物膜):微生物が形成する薄い層の総称で、カンジダはこれを形成することで宿主からの免疫反応を受けにくくする。

「腸管カンジダ症」の症状と受診を勧める人

腸管カンジダ症で起こる症状としては吐き気や下痢、食欲不振、血便などが考えられます。ただし、こうした消化管に現局する症状だけでなく、腸管バリアの損傷によって異物や腸内細菌など本来は腸管内に留まるものが体内へ流れ込み、様々な組織で免疫反応が働いて炎症が起こり得ることに注意が必要です。

例えば、皮膚のかゆみや発疹、アレルギー症状、疲労感、肥満など。これらは、リーキーガット症候群・腸もれ(Leaky Gut Syndrome)の場合でもよく見られる症状です。また、カンジダは糖質をエネルギー源とするため、異常なほど甘い物を欲するのはひとつのサインかもしれません。

また、腸内環境が悪化することでお腹の張り(腹部膨満感)やゲップ、おならの臭いがきつくなるといった症状も出やすくなります。さらに、脳腸皮膚相関の視点から不安やイライラ感、集中力の低下、不眠、肌荒れ、腹痛など症状は多岐に渡る可能性も。

腸管だけの日和見感染症と軽く考えず、口腔カンジダ症や膣カンジダ症、皮膚カンジダ症などへ発展する前に気になる人は早い段階で医療機関を受診するようにしましょう。

検査の種類や方法、自由診療で受けられる検査も

もっとも確実な検査は、大腸カメラ(内視鏡)を用いて腸管粘膜で感染を起こしている部分から生検を採取して調べる方法です。また、深在性カンジダ症と違って腸管カンジダ症のような表在性カンジダ症には、血液検査でカンジダの抗原を調べる方法が通用しません。

そのほか、自由診療を提供する医療機関では次に挙げるような検査を受けられることも。ただし、これらは保険適用外で、検査内容や費用は医療機関によって異なります。気になっている症状や目的を医師に相談し、検査内容を自分でもきちんと理解してから受けることが大切です。

【腸管カンジダ症に関する検査(保険適用外)】
・有機酸検査(OAT)※
・GI-MAP腸内環境検査※
・リーキーガット検査※

※有機酸検査(OAT):早朝尿10mlから76の代謝物を測定し、真菌や細菌の異常増殖を調べる検査。一部の有機化合物が免疫機能の低下や、胃腸内で異常増殖した真菌および細胞が糖質を大量消費する特徴を利用している。

※GI-MAP(Microbial Assay Plus)腸内環境検査:便を用いて消化管内にいる微生物について特定のDNAを検出し、qPCR技術によって真菌や細菌、寄生虫などを調べる検査。

※リーキーガット検査については既存記事『「腸管バリア(リーキーガット)検査」で腸の状態を知り、自分にあったケアを!』を参考にしてください。

治療方法と日常生活で心がけたいセルフケア

カンジダは菌種により有効な医薬品(抗真菌薬)が異なるため、医師による適切な検査と診断が欠かせません。また、内因性の感染症であることから一度治っても再発する可能性があり、次のような日常生活における見直しも重要です。

食事内容や間食を見直す

砂糖や果糖、菓子パンや清涼飲料水などはカンジダの大好物で、たくさん摂り過ぎると腸管内での異常な増殖を促進します。

また、乳化剤や着色料といった食品添加物や保存料を多く含む超加工食品は、腸内細菌叢(さいきんそう)や腸管粘膜の透過性に影響を与えることが報告されています。あと、アルコールは分解の過程で生じるアセトアルデヒドが腸内細菌に影響を与えるほか、大腸の粘膜に悪影響を及ぼすという説も。そして、飽和脂肪酸を多く含み悪玉菌を増加させる高脂肪食や、乳酸菌などの善玉菌を減らしてしまう高塩分食にも注意が必要です。

これらは結果として腸管カンジダ症やリーキーガット症候群を起こしやすくなるため、バランスの良い食生活とともに、それぞれの栄養素について意識することも心がけましょう。

便通をコントロールする

カンジダは日和見菌であることから、便秘や下痢といった便通異常による腸内環境の乱れも腸管カンジダ症の大きな誘因となります。現に、慢性便秘症の人と健康な人で比べるとその腸内細菌叢は顕著な差があることが、近年の次世代シークエンサーによるメタゲノム解析によって多く報告されるようになってきました。

例えば、慢性便秘症の人の糞便による検体ではバクテロイドータ門(Bacteroidota旧・バクテロイデス門)が優位に減少し、反対にバチロータ門(Bacillota、旧・ファーミキューテス門)が増加しているという報告も。ただし、結腸粘膜から直接得た検体ではバチロータ門が増加しているという逆の報告もあり、今後さらなる解析が期待されているところです。

一方、慢性下痢症では健康な人と比べて、善玉菌のビフィズス菌が優位に少ないことも分かっています。いずれにしても、便通異常と腸内細菌叢が深く関わっていることは間違いありません。自分の便通をより良い状態にコントロールすることが、腸管カンジダ症を起こりにくくする上でも重要です。

このうち、便秘に関する6項目の症状や便のセルフチェック、市販薬を使うときの注意点などについては既存の記事「“便通美人”には肌荒れが少ない?便秘の種類や検査、受診するときの注意点」を参考にしてください。

免疫力が落ちないようにする

カンジダは宿主の免疫機能低下によっても異常に増殖します。免疫機能が低下しないようにするには、適度な睡眠で脳と身体の疲れを取り除くことはもちろん、タンパク質やビタミン類が不足しないようなバランスの良い食事を心がけることも大切です。

また、脳や神経を介して免疫機能の制御に関わる副腎が疲労することで発症する「副腎疲労症候群(アドレナル・ファティーグ)・HPA軸の機能障害」にも注意しましょう。発症の原因となるコルチゾールの過剰分泌を引き起こさないために、血糖値の急激な変動や無理なダイエット、慢性的にストレスを抱え込むのは避けたいものです。

カンジダとの向き合い方

1950年代に抗生物質の広範な使用に伴う菌交代現象※としてカンジダ症が問題となって半世紀が経ち、2004年にはカンジダ・アルビカンスのゲノム配列が公表されました。さらに近年では、カンジダ・アルビカンス以外のカンジダ菌種(non-albicans Candida、通称NAC)の方が多く病原真菌として報告されています。このようにカンジダに関する情報は更新され続け、まだすべて解明し切れていないのも事実です。

ただ、腸管カンジダ症には症状に応じた適切な検査や治療を受けることと、再発しにくい腸内環境を整えるためのセルフケアが欠かせないということは今後も変わらないでしょう。まずは、自分の腸内環境や日常生活を振り返ることから始めてみてはいかがでしょうか?

※菌交代現象:抗菌薬の影響でこれまで病原菌の増殖抑制に働いていた細菌叢が失われ、抗菌薬に耐性を持つ菌が異常に増殖した結果として発症する疾患。この疾患を総称して菌交代現象と呼ぶ。

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