2024.11.29/最終更新日 2024.11.29

重金属の蓄積が脳神経の変性やアレルギーの発症を招く?腸内環境との関連性

重金属は、近年の分析技術の向上によって新たな汚染も明かされつつあり、さらに腸内環境への影響も報告されるようになってきました。鉄や銅、亜鉛といった重金属はヒトを含むすべての生き物において必須の存在ではあるものの、その蓄積はアルツハイマー病やアレルギーの発症と密接に関わるといった見解も。ここでは重金属の基礎知識から病気との関連性、体内に蓄積する重金属を調べる検査について紹介します。慢性的な頭痛やイライラ、疲労など、既存の検査で原因が分からなかった人にとっては解決の糸口となるかもしれません。

重金属とは?ミネラルとのちがい

重金属というと、公害病の原因としてよく知られるカドミウム(Cd)や水銀(Hg)を思い浮かべる人もいるでしょう。一方で、同じ重金属でも鉄(Fe)や亜鉛(Zn)というと、サプリメントなどの成分表で目にする機会もあるためか、“ミネラル”という単語で認識している人も多いかもしれません。

まず、重金属とはその比重※が4以上で、地球の地殻中やヒトを含むすべての動植物にわずかながら存在する金属元素です。その数、およそ60種。これらは大まかに、鉄や亜鉛など生体を維持するために欠かせない必須の重金属と、有害または必須な要素が見つかっていない重金属に分けられます。

対するミネラルとは無機質とも呼ばれ、生体を構成する主要な4つの元素(酸素、炭素、水素、窒素)を除いた、生体内に存在する元素の総称です。体内で合成できないために食物として摂る必要があり、鉄や亜鉛などの金属元素と、リン(P)やフッ素(F)などの非金属元素に分類されます。

※比重:4℃・1atmの水の密度が1g/㎝3であることを利用した、鉱物がその何倍の密度を有するかを示すもので、体積は同じでも比重が大きいほどその重量は大きい。比重が1の金属は、水と同じ体積かつ同じ重量を示す。例えば、軽金属のナトリウム(Na)は重金属の銅(Cu)よりも比重が小さく重量も小さい。

ヒト体内で必要な金属元素とその役割

ヒトにおいて欠かせない金属元素には2種類あり、ひとつは生体を構成するために必要な11の主要必須元素で、もうひとつは生命を維持するために必要な15の微量必須元素です。このうち主要必須元素では、骨や歯を構成するカルシウム(Ca)や、体液の浸透圧を調節するナトリウム(Na)とカリウム(K)などがあります。 一方で、銅(Cu)やモリブデン(Mo)、コバルト(Co)など微量必須元素の多くは色々なタンパク質の活性中心として働くため、主要必須元素とともに生命活動をおこなう上で欠かせない存在です。そしてこの微量必須元素のうち、ケイ素(Si)とフッ素(F)、ヨウ素(I)をのぞく12種類の元素が重金属に該当します。

【ヒトの体内で必要な金属元素】
主要必須元素11種 (成人1日必要量が100㎎以上) 水素、炭素、窒素、酸素、リン、硫黄、塩素、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム
微量必須元素15種 (成人1日必要量が100㎎以下) 鉄、亜鉛、銅、マンガン、バナジウム、クロム、ニッケル、コバルト、ヒ素、セレン、モリブデン、スズ、ケイ素、フッ素、ヨウ素

おそらく、微量必須元素の機能でよく知られているのは、必要とされる量が多い鉄や亜鉛でしょう。鉄は血液中では赤血球に含まれるヘモグロビンに、筋肉内ではミオグロビン※に存在し、酸素の供給を担う重要な存在です。また、亜鉛は筋肉や骨に多く存在してタンパク質の合成に関与することで、不足すると成長障害や味覚障害、傷の治りが遅くなるというような欠乏症を招きます。

ただ、微量必須元素のなかには過剰に摂取すると有害作用を起こすものもあり注意が必要です。例えば、亜鉛の過剰摂取では胃腸の刺激や血清アミラーゼ※の上昇、免疫機能の低下などが生じる可能性も。そのため、日本の食品衛生法では10種類の元素について、摂取基準が設けられています。

食品衛生法で基準が定められている元素
亜鉛、アンチモン、カドミウム、スズ、セレン、銅、鉛、ヒ素、メチル水銀、クロム

※ミオグロビン(myoglobin):骨格筋と心筋に存在するヘムタンパク質で、ヘモグロビンよりも酸素親和性が高いため、効率よく血中の酸素を筋肉組織内に運搬できる。

※血清アミラーゼ:多糖類を加水分解する酵素で膵型と唾液腺型があり、高値の場合は急性膵炎や膵がん、膵のう胞、耳下腺炎などを疑う。

重金属ごとの毒性(症状)

重金属の種類によって、溜まりやすい臓器や引き起こされる毒性(症状)は様々です。しかし、食事として摂取する動植物や魚介類のほか、次の表に示すような身近にある環境の中で暴露される重金属を完全に防ぐことは出来ません。問題となるのは、人為的な高濃度の汚染に暴露されて不調が生じる場合や、特定の臓器または組織において過剰に蓄積された場合です。

【主な重金属の毒性と使用用途】
金属元素  毒性(症状) 使用用途
カドミウム 嘔吐、めまい、腎不全、骨軟化 合金、顔料、蓄電池
有機水銀 知覚・運動・言語障害 肥料、医薬品、農薬
無機水銀 振戦(しんせん、ふるえ)、腎障害 体温計、蛍光灯
ヒ素 嘔吐、下痢、黒皮症※ 農薬、医薬品
嘔吐、下痢、感覚障害 バッテリー、メッキ
セレン 嘔吐、胃腸障害、貧血 電子部品、顔料
6価クロム 嘔吐、下痢、肝炎 メッキ、印刷
シアン化合物 呼吸麻痺、失神、けいれん 化学繊維、メッキ、タイヤ

※黒皮症(こくひしょう):色素沈着型接触皮膚炎とも呼び、化粧品などによるかぶれを繰り返すことで真皮上層にメラニン色素が脱落、集積する状態。シミのほか、ヒ素中毒による黒皮症では手掌足底の角化や皮膚潰瘍などが見られる。

重金属による毒性で代表的なのは、カドミウムによるイタイイタイ病や有機水銀による水俣病、鉛による幼児鉛脳症で、これらはいずれも高濃度に汚染された環境によって生じた健康被害です。そして、重金属には有機金属と無機金属があり、同じ金属元素でもその毒性は大きく異なるのです。

例えば、水俣病の原因となった有機金属のメチル水銀はつよい毒性で中枢神経に障害を与えるのに対し、無機金属の水銀は腸管からの吸収率が低く毒性もつよくありません。一方で、有機ヒ素の毒性は低いのに対し、無機ヒ素の毒性は強力です。こうした金属の安全性に関するデータは、主にヒトの疫学的調査や中毒を起こした際の所見によって堆積されてきたもので、動物実験による報告も十分ではなく、不明な点がまだ多く残されています。

重金属の蓄積が招く可能性のある病気

なかでも微量必須元素は脳内において神経系の調節に深く関わるため、そのバランスが崩れることでアルツハイマー病などの神経変性疾患や発達障害、アレルギー症状や自己免疫性疾患といった様々な病気との関連性が示唆されています。

重金属が脳内で影響を与えるメカニズム

脳内で機能する重金属のうち鉄(Fe)は、ミトコンドリア内のエネルギー産生反応において補酵素として働くほか、脳内神経伝達物質のドーパミンやセロトニン※を合成する酵素の活性中心としても重要です。また、銅(Cu)はノルアドレナリン合成の補酵素として働き、亜鉛(Zn)は海馬に多く存在して学習や記憶に関わる神経伝達の役割を担っています。

ここで、鉄と銅は生体内でほとんどがタンパク質と結合した状態にあり、その状態で毒性を示すことはありません。しかし、この結合が外れて遊離イオンの状態(Fe3+、Cu2+)が続くと、内因性の過酸化水素と反応して強力な酸化作用をもつフリーラジカルが生まれ、これが生体膜の脂質やタンパク質、DNAと反応して細胞毒性を引き起こすのです。

※ドーパミンやセロトニンについては、既存記事『「幸せホルモン(幸福物質)4つ」ドーパミン・セロトニン・オキシトシン・βエンドルフィンとは?』で詳しく解説していますので参考にしてください。

発達障害と重金属

自閉スペクトラム症(ASD;Autism Spectrum Disorder)など、発達障害※の発症には遺伝要因と環境要因があるなかで、重金属の暴露もその一因となることが分かっています。とくに妊娠期の母体では、循環する血液量が増えることで鉄欠乏性貧血を招きやすく、これがカドミウムの吸収を増加させるという報告も。ただ、カドミウムについては日本人で鉄欠乏性貧血の一般女性を対象に検証した結果、有害な状態を引き起こすレベルには至らないという見解です。

一方のメチル水銀については、厚生労働省が妊婦に対し、マグロのような重金属が濃縮されやすい魚介類などの摂取について注意を促しています。この理由は、自閉スペクトラム症の発症に加えてその重症度と、生活環境における水銀暴露との関連が報告されているためです。そのメカニズムについては、自己免疫反応の活性化や酸化ストレス、神経における炎症などが分かっています。
また、胎児期だけでなく出生後も5歳くらいまでは血液脳関門(血液と脳組織の間にあるバリア構造)が未成熟なため、環境要因による重金属の暴露には引続き注意が必要でしょう。

※神経発達障害については、既存記事『不器用は「大人の発達障害」かも?自閉症スペクトラム症と腸内細菌の関連性』で詳しく解説していますので参考にしてください。

アルツハイマー病(AD)と重金属

アルツハイマー病(AD;Alzheimer’s disease)の脳内における主な特徴は、大脳皮質の神経細胞が減少することによる大脳の萎縮と、老人班と呼ばれるシミのような異常構造の多発、そして神経細胞の中に繊維状の塊(これを神経原線維という)が蓄積するという3種類です。このうち、老人班を構成するアミロイドβタンパク質(以降、Aβ)は、主に40〜43個のアミノ酸残基※からなるペプチドで、アミロイド前駆タンパク質からその一部が切り出されることによって分泌されます。通常はインスリン分解酵素などにより分解されるものの、複数がまとまって多量体化すると蓄積して繊維状となり(これをアミロイド線維という)、これが凝集して老人班を形成。この過程において重金属の関与が報告されているのです。

研究では鉄や銅、亜鉛などの遊離イオン(Fe3、Cu2、Zn2)はAβの多量体化を促進することが知られ、現にアルツハイマー病であるヒト脳内の老人班にはこれら重金属の蓄積が多く見られています。また、タウタンパク質※の凝集は鉄や銅の遊離イオン(Fe3、Cu2)によって促されるため、アルツハイマー病での神経原繊維には鉄の含有量が高いといった報告も。将来、こうした重金属の代謝異常という観点から、新しいアルツハイマー病の治療薬が開発されるかもしれません。

※アミノ酸残基:多数のアミノ酸がペプチド結合したタンパク質のなかで、もとのアミノ酸にあたる部分のこと。

※タウ(Tau)タンパク質:神経細胞の細胞骨格における微小管に結合し、安定化させるように働く細胞骨格結合タンパクのひとつで、加齢とともに海馬の周辺から沈着が始まる。

パーキンソン病(PD)と重金属

パーキンソン病(PD;Parkinson’s disease)は、中脳の黒質でドーパミン神経が変性し脱落することにより、その神経が投射される先の線条体でドーパミン作用が弱まり、さまざまな錐体外路症状(振戦、筋固縮、無動など)※を引き起こす病気です。この黒質は、脳内でほかの部位よりも鉄の蓄積量が多く、鉄とパーキンソン病の関連は古くから指摘されてきました。

通常、脳内で鉄はタンパク質の一種であるセルロプラスミンによって、酸化ストレスを引き起こす(Fe2+)から(Fe3+)に変換され、細胞内から細胞外へと排出されます。このセルロプラスミンの活性は銅(Cu2+)の量に依存しているため、鉄と銅のバランスが乱れると脳内で鉄の蓄積量が増えることに。現に、パーキンソン病のヒトの黒質では鉄の蓄積量が増加し、反対に銅の蓄積量は減少することが分かっています。

※錐体外路症状(振戦、固縮、無動など):錐体外路は自分の意志と関係なく運動や緊張を支配する神経回路で、これが障害されるために起こる振るえ(振戦)やこわばり(筋強剛、筋固縮)、動作緩慢(無動)などを指す。仮面用顔貌やすくみ足、瞬きの減少などは無動による代表的な症状。

筋委縮性側索硬化症(ALS)と重金属

難治性でその進行が極めて早く、約半数は発症後5年以内に呼吸筋が麻痺して死に至るといわれる筋委縮性側索硬化症(ALS;Amyotrophic Lateral Sclerosis)もまた、微量必須元素の代謝異常が関連していると示唆される神経変性疾患のひとつです。この病気は約9割が原因不明で、明確な発症機序は明らかになっていません。

ただ、筋委縮性側索硬化症のヒトでの脳脊髄液中において、亜鉛(Zn)と銅(Cu)、鉄(Fe)、マグネシウム(Mg)の量が上昇しているという報告があるのは事実です。

こうした様々な知見を基に現在、生体内金属の代謝異常を標的とした神経変性疾患に対する治療薬の研究が進められています。

アレルギーや自己免疫性疾患の発症と重金属

重金属など化学物質により引き起こされる免疫異常は免疫毒性と呼ばれ、アレルギー症状や自己免疫疾患のような免疫が亢進することで生じるものと、反対に免疫が抑制されることで生体防御能が低下した結果として起こる、感染や発がんなどの2種類があります。

これらの免疫反応に関わる細胞はリンパ球系と網内系※、骨髄細胞系に分けられ、このうち免疫応答の主体となるのがリンパ球系の細胞です。しかし、その毒性生化学的な特徴として、重金属の解毒に必要なタンパク質メタロチオネイン(MT)の量や誘導能は著しく低いことが分かっています。

これにより、重金属による毒性は、免疫が抑制されるために起こるという考え方が一般的かもしれません。しかし一方で、高濃度の重金属は経皮あるいは吸入での暴露により接触性皮膚炎や喘息など、免疫が亢進されるためにアレルギー症状を引き起こします。例えば、水銀(Hg)や白金(Au)がヒトと実験動物において、腎糸球体の障害を主とする自己免疫性の腎炎(ループス腎炎)を生じるのも、同様に免疫の亢進が原因です。

※網内系:全身に散在し、貪食能と共通の細胞形態を示す間葉系細胞の総称で、リンパ節や消化管粘膜固有層の支持細胞などが含まれる。

重金属が蓄積する原因

重金属は主に3つの経路(消化管、経皮、経気道)で吸収され、腸管から吸収された量(口から取り込まれた量×腸管吸収率)と排泄量(主に尿、そのほか便や呼気、皮膚)によってその蓄積量が決まります。身近な吸収経路で比較的よく見かけるのは、喫煙による経気道の吸収かもしれません。
たばこ煙中には発がん性のある物質が約70種類も含まれているほか、カドミウムや6価クロム、ヒ素および無機ヒ素化合物など、国際がん研究機関(IARC;International Agency for Research on Cancer)が発がん性分類グループ1に記す重金属も含まれています。喫煙しない人でも、「副流煙」と「環境たばこ煙(副流煙+喫煙者が吐き出す呼出煙)」に注意が必要です。
そのほか、腸管バリア機能の低下や腸内環境の乱れ、腸内細菌叢の変化も重金属の蓄積に深く関与していると考えられています。

重金属と腸内環境、脳に影響するメカニズム

重金属の暴露により、腸内細菌叢(さいきんそう)の構成は影響を受け、ある種の細菌が異常に増えたり逆に減ったりします。例えばカドミウムの暴露では、Firmicutes(ファーミキューテス)門やProteobacteria(プロテオバクテリア)門が減少する一方でBacteroidetes(バクテロイデス)門が増加し、肝障害や代謝異常との関連性が見られたという報告も。

こうした腸内細菌叢の乱れはディスバイオーシス(Dysbiosis)と呼ばれ、中枢神経系への影響が否定できません。このディスバイオーシスによって消化管免疫のバランスが崩れ、異常な免疫応答が病気をもたらすという見解です。疫学調査では、ヒ素(As)やマンガン(Mn)に暴露された濃度と低IQとの関連や、マンガンの暴露とADHD※との関連について報告されています。

ここには3つのメカニズムがあると考えられ、1つ目は腸内細菌がつくり出した神経伝達物質による、迷走神経を介する影響です。2つ目は、体循環を経た炎症性サイトカインが脳へ与える影響。そして3つ目は、腸内細菌がつくり出す代謝産物が腸管細胞へ与える刺激と、それが神経伝達物質として脳へ与える影響です。
このように、重金属による健康被害の予防にはその種類や経路だけでなく、腸内細菌叢との関連も含めて検討していくことが求められています。

※ADHD(Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder、注意欠如・多動性障害)については既存記事『不器用は「大人の発達障害」かも?自閉症スペクトラム症と腸内細菌の関連性』で解説していますので参考にしてください。

重金属の蓄積を調べる検査と治療

体内に蓄積した重金属を調べるには、毛髪や尿を用いておこなう検査などがあります。また、腸内環境が原因で重金属が蓄積している可能性を視野に、腸管バリア(リーキーガット)検査で自身の腸の状態を把握しておくことも大切でしょう。そして、治療ではキレーション療法という、有害な重金属のほか薬物や化学物質などの除去を目的としておこなう点滴療法が有名です。ただし、これらは保険適用外のため自由診療にかかる費用はもちろん、検査したあとの治療に関する提案は医療機関によって異なります。
検査をすすめる人の例としては、原因不明の慢性的な頭痛や疲労、めまいやイライラ、集中力の低下などで悩む場合、この検査によって解決の糸口が見つかるかもしれません。

以上のように、重金属には生体にとって有益にも有害にも働くという二面性があります。まずは、腸内環境を整えるような食事を心がけるなど、重金属を体内に蓄積させない状態を目指すことから始めてみてはいかがでしょうか?

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