2023.08.30/最終更新日 2023.08.30

肌荒れがおなかの不調や不安を招く⁉
脳・腸・皮膚の相互作用「脳腸皮膚相関」とは

検診

「脳腸皮膚相関」を考えてケアをしていますか?例えば、肌荒れにビタミン剤、便通異常に整腸剤といった部分的なケアよりも、脳と腸と皮膚の関連性を踏まえてケアすることが大切です。近年の研究により、これら3つの部位における情報交換のしくみや、腸内細菌の代謝産物がもつ抗炎症作用などの機能も徐々に分かってきました。今、その謎解きが加速している「脳腸皮膚相関」について、具体的な症状やしくみから、注目を集める腸内細菌由来の代謝産物ポリアミン、対策方法について紹介します。

「脳腸皮膚相関」でみる具体的な症状

「脳腸皮膚相関」とは、脳と腸と皮膚がお互いに情報を交換しながら影響を及ぼし合う関係性のことを言います。とくに注目したいのは、この情報のやり取りが一方通行ではなく双方向から行われているという点です。

例えば、脳から腸に情報が伝わると、ストレスや精神的な不安に連動する形で下痢や腹痛といった様々な腸の不調が現れることもあります。一方、腸から皮膚に情報が伝わる場合でよく知られているのは、慢性的な便秘による肌荒れなど。また、脳から皮膚へ与える影響としては、精神的ストレスがアトピー性皮膚炎を悪化させるということが疫学的にも明らかになっています。さらにその逆で、ニキビやアトピー性皮膚炎に悩む人では健康な人に比べると、不安やうつなどの精神症状を呈する割合が高いということも報告されています。

「脳腸皮膚相関」の概念は、一方通行から対面通行へ

「脳腸皮膚相関」における概念そのものは、皮膚科学者であるStokesとPillsburyによって1930年に提唱された「brain-gut-skin axis」が始まりと言われています。当時は、脳で起こる不安や精神的ストレスが腸内フローラを乱し、結果として皮膚の炎症を促すという一方通行のような考え方でした。これが近年、腸内フローラの乱れが脳や皮膚、心臓など様々な臓器に影響を与えるということも研究で分かってきたため、3つの関係は対面通行であるというふうに認識が変わりつつあります。

加えて、腸と皮膚との関係について、これまでは腸内細菌がつくる腸内フローラの異常が皮膚の炎症性疾患に関連するという流れの研究報告がほとんどでした。対して最近では、皮膚の炎症によって腸内フローラや腸管バリア機能が変化するという、それまでと逆の流れでしくみを解くような報告も出始めています。さらに、腸内細菌の産生する神経伝達物質や細菌の代謝産物が、腸管内から伸びる神経などを介して精神状態に影響を与えるという報告も。 このような理由もあって今、腸内フローラの改善により皮膚の炎症や精神的ストレスの改善を図ろうとするアプローチが注目を集めているのです。

それぞれをつなぐ情報交換のしくみ

それでは脳と腸と皮膚、これら3つの間では具体的にどのような情報交換が行われているのでしょうか?

「脳」と「腸」の情報交換

例えば、脳で精神的ストレスを感知すると「視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)※」や交感神経系を介して腸へ刺激が伝わることで、痛みや下痢などを引き起こすIBS(過敏性腸症候群)は有名です。反対に、腹痛や便通など腸の異常による不快な感覚刺激が内臓の知覚神経を介して脳へ送られると、精神状態が悪化することも研究で示されています(これを脳腸相関と呼ぶ)。

近年では、精神的ストレスの負荷によって腸管のバリア機能が低下し、本来なら腸管を通過しないような高分子が通過しやすくなることも分かってきました。こうして、腸管のバリア機能が低下すると細菌毒素や炎症性の異物が粘膜内に侵入し、皮膚疾患や肝機能障害、肥満などを引き起こすことも報告されています。

※視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸):ストレスに応じてグルココルチコイド(生体の恒常性を司るホルモン)を分泌する経路。

「腸」と「皮膚」の情報交換

腸と皮膚に関する研究でも様々な報告があるものの、それらの多くは腸管免疫に着目したものがほとんどでした。これが最近では、腸内細菌やその代謝産物が皮膚の機能に及ぼす影響について解析する研究も進んでいます。

例えば、皮膚における水分保持や傷が治るために重要な役割を担う水輸送タンパク質「アクアポリン(AQP)」に着目した研究など。これは大腸にも存在する機能分子で、下痢や便秘を制御するためにも重要な役割を担っています。このアクアポリンは腸内細菌によって制御されている可能性が示されました。実際、皮膚に多く存在するアクアポリンのタイプ(AQP3)は、腸内細菌が産生する短鎖脂肪酸のプロピオン酸や酪酸によって制御されていることも明らかになっています。 したがって、腸内フローラが変わると腸内細菌による代謝産物も変動し、結果として皮膚の水分量や傷の治癒力にも影響を及ぼす可能性があると捉えてよいでしょう。

「脳」と「皮膚」の情報交換

一方、脳と皮膚の間にある詳しいしくみについては、まだ解明されていません。しかし、皮膚に存在する線維芽細胞(せんいがさいぼう)※や角化細胞(ケラチノサイト)には、「視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)」を構成するホルモン※とそれに関連する受容体※が明らかに存在しています。つまり、精神的ストレスなど脳から伝わる情報がHPA軸を活性化したり体内のホルモンを増やしたりする流れの中で、皮膚の細胞も何かしら関わっている可能性があるということです。

反対に、皮膚が受けた刺激が中枢神経系に伝わると、さらにストレス反応が増えて悪循環を招くということも分かっています。

※線維芽細胞:皮膚のうち真皮にあり、コラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などを産生する細胞。

※「視床下部-下垂体-副腎軸(HPA軸)」を構成するホルモン:CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン,corticotropin-releasing hormone)を指す。ストレスに対してACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌を促すストレス応答の中心的要素。

※受容体:ここでは、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の受容体を指す。

腸内細菌の代謝産物「ポリアミン」とは?

腸内フローラと病気に関する研究は、次世代型DNAシーケンサーの登場で目覚ましく進歩しました。これによって腸から細菌を取り出して培養することなく、腸内フローラを効率よくDNA解析できます。

このように腸内フローラの解析が進む一方で、今とくに注目されているのが腸内細菌由来の代謝産物です。なかでも代表的なものがポリアミン※で、腸管内から体内に吸収されて全身に作用する可能性が高いと考えられています。その働きはDNAやRNAなど核酸の合成や安定化に係るほか、細胞の増殖や分化、抗炎症作用や抗酸化作用など。一言でいうと、細胞機能が健全であるために必要な物質です。このポリアミンは食事にも含まれているものの、腸へ到達するまでにほとんど吸収されてしまうため、作用は一過性で長続きしません。対して特定の腸内細菌から代謝産物として生じるポリアミンは、継続的に全身へ作用をもたらすことが期待できます。

つまり、「脳腸皮膚相関」を整えるには腸内フローラの改善を目指すだけでなく、特定の腸内細菌から生じる代謝産物にも着目して取り組んだ方が効率的といえるかもしれません。

※ポリアミン:低分子の塩基性物質で、プトレッシンやスペルミジン、スペルミンなどの総称。

「脳腸皮膚相関」の対策方法

前提として、炎症やトラブルを起こしている部分については医師の診断に沿ってきちんと検査や治療をおこなうことが大切です。その上で、自分なりに取り組める対策方法を考えていきましょう。また、日頃からバランスのよい食生活や適度な運動、ストレス解消などを取り入れることも欠かせません。

また、研究ではある種のビフィズス菌を口から摂取すると、便中のポリアミンがおよそ7割のヒトで増加したという報告があります。ただ、これは見方を変えると、人によってはいくら善玉菌を摂取しても期待するほどの効果が得られない場合もあるということ。手軽に始めることのできる健康食品やサプリメントは、すべての人で同じように働くわけではないということに注意しましょう。

対策の第一歩としては、自分の腸内細菌がどのような構成になっているのか、腸内フローラ検査で知ることも有用です。さらに、腸内洗浄をおこなった上で腸内環境の改善を図る方法は、より効率的と言えるでしょう。 これから先、「脳腸皮膚相関」と腸内細菌の関わりやその代謝物の機能がより一層、注目を集めていくのは確かです。3つの部位のうち、まずはおなかから健康と美容、心身の安定を整えるように取り組んでみてはいかがでしょうか。

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