2024.08.30/最終更新日 2024.09.17

長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)とは?その検査と活性化する方法

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長寿遺伝子(サーチュイン遺伝子)は医療からヘルスケアの分野まで、多岐に渡る研究で目覚ましい進展を続け、近年ではニコチンアミド・モノヌクレオチド点滴療法やサプリメントなど、カロリー制限と運動以外でこれを活性化する方法も登場しています。糖や脂質の代謝改善、抗老化、抗肥満、がん予防、認知機能の改善といった背景にはどのようなメカニズムがあるのでしょうか?ここでは、これまでに分かっているサーチュイン遺伝子の情報を整理します。サーチュイン遺伝子を活性化する方法(カロリー制限、サプリメント、運動など)や検査の手段を身に付け、自分に合った健康寿命延伸のためにお役立てください。

サーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)とは?

サーチュイン(Sirtuin)遺伝子は、特定の遺伝子の数を一定に保つことでゲノム※を安定させて寿命を延ばす働きが実証されていることから、別名「長寿遺伝子」や「抗老化遺伝子」とも呼ばれています。
その特定の遺伝子とは「リボソームRNA遺伝子」。「リボソームRNA」はタンパク質の製造工場を担う細胞小器官のリボソームを構成しているRNA※で、「リボソームRNA遺伝子」は、そのなかの特殊な遺伝子です。
この遺伝子はひとつのゲノム中に100個以上もあり、複製(コピー)の過程で間違いが生じると細胞老化やがんといった病気の発症につながります。これを間違えないように、この遺伝子のなかに組み込まれているプロモーター※部分を制御して、一定の数を保っているのがサーチュイン遺伝子です。

※ゲノム:遺伝子(gene、ジェネ)と染色体(chromosome、クロモソーム)を合わせた、「遺伝情報の全体」を意味するドイツ語由来の言葉。
※RNA:DNAに保持されたタンパク質の情報を基に、タンパク質を産生したり産生する量を調整したりする核酸。
※プロモーター(Promoter):ゲノム中の遺伝子の転写が開始されるときに機能する領域で、これによりRNA合成の鎖伸長反応が始まる。

サーチュイン遺伝子が注目されている理由

サーチュイン遺伝子が注目されるようになった最大の理由は、カロリー制限によって寿命が延びる主要なメカニズムを解明できたことにあります。これまではカロリー制限で代謝のレベルが低下することに伴い、生体内の酸化ダメージが少なくなることで老化が遅くなり、結果として寿命が延びると考えられていたのです。しかし、そのメカニズムは不明のままでした。現在、サーチュイン遺伝子のほかに寿命を確実に伸ばせる方法はまだ見つかっていません。
加えて、見た目を若く保ったり運動機能を改善したり、糖尿病や脂肪肝といった代謝性疾患や免疫疾患、がんや心疾患など老化と関連している様々な病気を抑制する機能があるということも注目を集めている理由です。

そして今も研究は目覚ましく進展を続け、哺乳類のサーチュイン遺伝子を7つの区画(これをサーチュインファミリーと呼ぶ)で分けた機能や特徴などが徐々に明かされつつあります。
また、近年ではニコチンアミド・モノヌクレオチド(nicotinamide mononucleotide)やレスベラトロール、ウロリチン※などを配合した、いわゆる“若返りサプリメント”が登場したこともあって、一般にもその関心が高まっていると言えるでしょう。サーチュイン遺伝子はいま、医療やアンチエイジングから健康寿命延伸に至るまで、幅広い領域で多くの期待が寄せられているのです。

※ウロリチン:ザクロやベリーに含まれるポリフェノールであるエラグ酸が、腸内細菌によって産生された代謝産物。

サーチュイン遺伝子の発見と要点の整理

初めてサーチュイン遺伝子が発見されたのは、ヒトからではなく酵母からです。その発見がどのような点で注目を集めているのか、要点を絞って整理しましょう。

サーチュイン遺伝子Sir2の発見

2000年頃、サーチュイン遺伝子を発見したのはマサチューセッツ工科大学のレオナルド・ガレンテ教授(米国)と、当時一緒に研究を進めていた今井眞一郎氏(当時、博士研究員)です。その研究では出芽酵母において、寿命と老化の中心的な制御を担うタンパク分子「Sir2(サーツー;silent information regulator 2)」が存在することを世界で初めて明らかにしました。
このSir2をなくした酵母の寿命は正常の50%まで短くなり、反対にSir2が1つ余分にあると30%から40%くらい寿命が延びて、その老化速度は遅くなることが分かったのです。

Sir2で未知の酵素活性が見つかる!

続いて線虫やショウジョウバエ、マウスで研究を重ねた結果、生物種を超えた老化と寿命の背景に、この同じ分子メカニズムがあることを見出します。その研究成果はすぐに国際的な総合科学学術雑誌のNature(英国)に掲載され、世界中から注目を集めるようになりました。その後2012年には、Sir2はこれまでにない全く新しいタイプの酵素「NAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素」として高い活性を持つことも示されました。

Sirt2とNADの関係

NAD(nicotinamide adenine dinucleotide、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)は酸化還元反応の補酵素で、生体内のエネルギー代謝において酵素反応を助ける重要な物質です。生体内では酸化型(NAD⁺)と還元型(NADH)の2つの形で存在し、加齢に伴って酸化型の割合は減ることが知られ、これが老化の原因のひとつと考えられています。Sir2が酵素活性を示すためには、このNAD⁺が必要です。
また、研究ではSir2がNAD⁺をつかって産生したADPリボース※が、傷ついたDNAの修復に関与することも分かっています。

※ADPリボース(別名、ポリ):DNAが損傷したときに修復機能を担う重要な生体内高分子。

Sir2とヒストンの関係

ヒストン(histone)とは、DNAを折りたたんで核内に収納するためのタンパク質です。これにアセチル基などの化学的な飾りが付くことで、情報伝達やエネルギー生成といった生命活動に欠かせない遺伝子発現※が起こります。このアセチル基を付けるように働くのがヒストンアセチル化酵素、反対に外すのがヒストン脱アセチル化酵素で、Sir2は後者の一種です。通常、ヒストンがアセチル化された染色体は状態が不安定になって遺伝子の異常が起こりやすくなり、逆にアセチル基が外れると染色体は安定します。

まとめると、酵母で見つかったサーチュイン遺伝子のSir2は遺伝子発現の制御を担うスイッチとして働き、NAD+の量に合わせて生体のエネルギー代謝を回転させることで染色体の安定化やDNAの修復、寿命に深く関与していることが分かったのです。

※遺伝子発現:DNAの遺伝情報をもとにタンパク質やRNAなどがつくられること。

7種類の「サーチュインファミリー」機能や特徴

サーチュイン遺伝子はヒトを含めた哺乳類のゲノムにも同様に存在し、その存在する場所や分子量によって、7種類(Sirt1~Sirt7)の「サーチュインファミリー」に分けられます。このうち最も研究されているのが、酵母のSir2と似た特徴をもつSirt1(サートワン)です。Sirt1はSir2と同じようにヒトやサル、マウスにおいてカロリー制限でその発現が増え、寿命は延びることが分かっています。

研究では、Sirt1の活性化によって間接的にNO(nitric oxide)を産生することで血管内皮細胞の老化を抑え、虚血性心疾患や脳梗塞といった動脈硬化が原因で起こる病気の予防につながるという見解も。また、骨格筋におけるエネルギー代謝の調節や肝臓へ余分なコレステロールを戻す経路の亢進、脂肪組織でインスリンの感受性をつよくするように働きかけるなど、肥満やメタボリックシンドロームに対する効果も期待されています。

これまでに分かっているサーチュインファミリーのそれぞれの特徴は以下の通りです。ただし、研究は日々進歩し続けています。例えば2022年には、脂肪を分解して熱を産生する褐色脂肪組織において、Sirt7がエネルギーの無駄遣いにブレーキをかけていることが分かりました。今後ますます、未知の機能や役割も登場することでしょう。

【サーチュインファミリー7種類の特徴】

  存在場所 特徴(抜粋)
Sirt1 核、細胞質※ ・カロリー制限により、骨格筋、脳、腎臓、肝臓、白色脂肪組織など複数の組織で発現が増加。 ・ヒストンやがん抑制遺伝子のほか、生命現象に関わる重要な多くの因子(ストレス応答、炎症、免疫応答、筋分化、血管新生)を制御。 ・抗酸化酵素の発現を増やして抗酸化作用を促進。 ・サーカディアンリズムの制御。
Sirt2 細胞質 ・脂肪代謝を制御。 ・がん抑制遺伝子としても働く。 ・中枢神経系で、パーキンソン病の原因となるαシヌクレインタンパクの蓄積を抑制して神経毒性の軽減、ドパミン作動性ニューロンの細胞死を抑制。
Sirt3 ミトコンドリア ・ミトコンドリアの主要な脱アセチル化酵素。 ・カロリー制限や絶食により、肝臓や脂肪組織で顕著に発現が亢進。 ・活性酸素の濃度を下げて蝸牛の細胞死を抑えることで、老人性難聴を改善。
Sirt4 ・膵β細胞のインスリン分泌を制御。 ・脂肪酸酸化を調節。
Sirt5 ・尿素回路を制御。 ・ほかのSirtとは異なる酵素活性を持つことは明らかになっているものの、その機能や役割については未知。
Sirt6 ・ゲノムの安定化に関与。 ・Sirt6を欠くと顕著な早期老化様症状につながる。 ・生命現象に関わる重要な多くの因子(炎症、免疫、細胞増殖、老化、糖代謝、脂質代謝など)を制御。 ・ヒトの脂肪肝ではSirt6の発現が低下している。 ・がん抑制遺伝子としても働く。
Sirt7 核(核小体※) ・がん細胞や増殖や形質維持に働く。 ・リボソームRNAの転写を抑制することで、タンパク質合成系を制御。 ・褐色脂肪組織による熱産生と全身のエネルギー消費を制御。

※細胞質:細胞のなかで核以外の部分を指し、小胞体やミトコンドリアはこの細胞質に存在する
※核小体:タンパク質の合成に必要なリボソームを生成する核内の構造体

「サーチュイン検査」をすすめる人とは?

現在、自由診療を提供する医療機関では、血液検査でサーチュイン遺伝子(Sirt1)の発現量を測ることが出来ます。検査でその時点における自身の抗老化力を把握し、改善に向けて医師と一緒にオーダーメイドの実践に取り組むことは、効率的なアンチエイジングや健康寿命の延伸につながるはず。次に挙げるような人では一度、検査を検討してみるのもよいでしょう。ただ、保険が適用されないため、検査費用を始め、検査結果によるアドバイスの内容などは統一されていません。気になる人はきちんと説明を受け、納得した上で臨むことが大切です。

【サーチュイン遺伝子検査はこういう人におすすめ】
☑ 認知機能の低下がこわい
(Sirt1の活性化はアミロイドβタンパクの沈着を抑えて認知機能を改善します)
☑ 運動の成果を最大限に出したい
(Sirt1の活性化は筋肉組織で働き、ミトコンドリアの機能を亢進します)
☑ 肥満になりたくない
(Sirt1の活性化は糖代謝やコレステロール代謝、脂肪代謝を改善します)
☑ 睡眠の質をあげたい
(Sirt1の活性化はサーカディアンリズムの維持と制御に関与しています)
☑ 身体で起こる炎症反応を早く鎮めたい
(Sirt1は炎症反応を起こす際に中心的な役割をもつ因子の活性を弱めることで、炎症を抑えます)

サーチュイン遺伝子を活性化する方法

サーチュイン遺伝子を活性化する方法として近年では、以前から知られていたカロリー制限のほか、特定の成分を含むサプリメントによる方法が健康意識の高い層を中心に注目を集めています。また、自由診療を提供する医療機関では点滴療法として、サーチュイン遺伝子を活性化する成分を提供するところも増えつつあるようです。

カロリー制限はすべき?食生活の見直し

カロリー制限は確かに、ラットやサルなど様々な動物をつかった実験で寿命が延びることや、がんや動脈硬化性疾患など加齢に伴い発症する病気の割合が減ることが立証されています。しかし、ヒトで長期間にわたり、この介入実験をおこなうことは困難です。そこでひとつの目安として、“腹八分目”が推奨されています。
ただし、カロリーを減らすことだけに意識が向き、ビタミンやミネラルが不足してしまっては意味がありません。身体をつくるための十分なタンパク質と適量の糖質、必要なビタミンやミネラル、そして食物繊維が摂れているか意識しながらバランスのよい食事内容を心がけましょう。

サプリメント① レスベラトロール

食物性食品に含まれるファイトケミカル(phytochemical)は「第7の栄養素」とも呼ばれ、色素や香り、苦みなど独特の成分として多くの食品に含まれています。なかでも、ポリフェノール類で赤ワインに含まれるレスベラトロールは、サーチュイン遺伝子を活性化する成分として古くから研究されている成分です。
例えばヒトを対象とした試験で、1日150mgを30日間にわたって取ると、カロリー制限と似たような効果が得られることも分かっています。ただ、赤ワイン1本(750ml)当たりに含まれているレスベラトロールは約3mgで、これを1日約50本の赤ワインで摂取することは不可能です。気になる人は、サプリメントで摂取するとよいでしょう。

サプリメント② ニコチンアミド・モノヌクレオチド

一方で、今もっとも注目を集めているサプリメントが、ニコチンアミド・モノヌクレオチド
(Nicotinamide mononucleotide)。これも元々は枝豆やキャベツ、ブロッコリー、アボカド、トマトのような様々な野菜に含まれる成分で、ビタミンB3の一種です。しかし、これらの食品から取るには非常に微量で、現在はバイオテクノロジーを駆使した技術により製品化したサプリメントが主流になっています。

このニコチンアミド・モノヌクレオチドは体内に吸収されると様々な部位でNAD+となり、サーチュイン遺伝子を活性化し、加齢に伴って生じる病気の発症を抑えることが分かっています。さらに、2020年頃から日本人を対象とした臨床研究で安全に長期使用できることや、使用期間に応じて体内のNAD⁺が増えること、軽度の耐糖能障害があるヒトでは糖代謝を改善する可能性があるということも確認されました。

運動でNADの量を増やす

体内におけるNAD⁺の合成を左右しているのは、「NAMPT(nicotinamide phosphoribosyltransferase、ニコチンアミドホスホリボシルトランスフェラーゼ)」という酵素です。軽度から中程度の有酸素運動や筋トレは、筋肉中におけるNAMPTの量を増やすことでサーチュイン遺伝子の活性化につながることが分かっています。研究では、運動習慣があって活発的な高齢者(65~80歳)における骨格筋のNAD⁺量は、若年者(20~30歳)と同等に保たれているという報告もあるほどです。
まとまった運動が苦手な人は、日常生活のなかで階段を選んだり一駅分歩いてみたりするなど、意識的に身体を動かすきっかけを探してみるのもよいでしょう。

医療機関で受けるニコチンアミド・モノヌクレオチド点滴療法

近年では、ニコチンアミド・モノヌクレオチドを点滴で効率よく導入できるサービスが、自由診療を掲げる医療機関で提供されています。何よりも医師のカウンセリングを受けながら、自分に合ったサーチュイン遺伝子を活性化する方法について選択できるのは大きなメリットです。

現在、この点滴療法の認知度はまだ高いとは言えず、美容やアンチエイジングのためという印象を持つ人も多いかもしれません。一方で、サーチュイン遺伝子の活性化は抗酸化作用を発揮することで疲労回復や、ミトコンドリアの機能を亢進することでパフォーマンスの向上にも有用です。現代において自由診療は、様々なニーズに応えられるような領域に進歩しているといっても過言ではないでしょう。

まとめ

サーチュイン遺伝子はまだすべてが解明されている訳ではないものの、寿命の延伸や抗老化について確固たるメカニズムを持ち、密接に関わっていることは確かです。技術の進歩により、現代ではサプリメントや点滴療法など、身近に試せるような機会も増えてきました。こうした最先端の情報も身に付けつつ、自分に合った方法で健康長寿に向き合い、活き活きとした人生を送りましょう。

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