2024.02.28/最終更新日 2024.02.29

「幸せホルモン(幸福物質)4つ」ドーパミン・セロトニン・オキシトシン・βエンドルフィンとは?

ホルモン

“幸せホルモン”(幸福物質)と呼ばれるドーパミン、セロトニン、オキシトシン、β-エンドルフィンの4種類は続々と新しい研究結果も発表され、今まで知られていなかった機能や役割について分かってきました。なかでもいちばん論文発表数の多いドーパミンは、単なる快楽物質というだけでなく、新たな情報が得られる物質としても注目が集まっています。ここでは、各ホルモンの特徴や情報のアップデートと、研究結果から考える目標の立て方など日常生活における“幸せホルモン”の捉え方、活用方法について紹介します。

ここ10年で、“幸せホルモン”の注目度が上昇

いわゆる“幸せホルモン”にはドーパミン、セロトニン、オキシトシン、β(ベータ)-エンドルフィンの4種類があり、サプリメントなどの健康食品産業や脳神経を専門とする科学者の間で注目を集めています。この、“幸せホルモン”における定義はとくにありません。おそらく、これまで堆積されてきた研究報告やメディアなどにおける情報からドーパミン、セロトニン、オキシトシンの3種類が広く、“3大幸せホルモン(3大幸福物質)”と認識されてきたのでしょう。

これら多くの情報で基になっているのが、科学に裏付けされた文献です。ここ10年間で、それぞれに関する文献の年間発表数がいちばん多いのは、ドーパミン(7,678件/年)でした。そして、セロトニン(2,656件/年) 、オキシトシン(1,256件/年)が続きます。この3つに比べると数は少ないものの、β-エンドルフィンは10年間で約4.9倍と最も増加しました。

ただ、この4種類は依然として不明な部分も多く、脳内物質の測定方法やメカニズムに関する謎解きはまだ始まったばかりです。今後は、“4大幸せホルモン(4大幸福物質)”という風に認識が変わっていくかもしれません。

【2010年と2020年で比べる文献発表数(件/年)】参考:国立研究開発法人 科学技術新興機構

関連項目2010年の文献発表数(件)2020年の文献発表数(件)増加割合(倍)
ドーパミン2,2547,6783.4
セロトニン1,3872,6561.9
オキシトシン2611,2564.8
β-エンドルフィン401964.9

各論①「ドーパミン」

脳を覚醒させ、生産性の向上や達成感をもたらすと言われるドーパミン。その神経細胞は学習や動機形成(いわゆる、“やる気”)、睡眠など多くの行動制御に関わるほか、予測される期待値との差(期待していたほどの結果ではなかったというような差)を表現できることも近年の研究で徐々に分かってきました。

ドーパミンの合成経路と分泌される仕組み

ドーパミンは脳内ドーパミン作動性神経(ドーパミンニューロンともいう)の中にある細胞内でアミノ酸のチロシンを原料とし、酵素による2段階の反応によって合成されます。その後、同じ細胞内にある分泌小胞という袋のような部分に取り込まれて蓄積され、神経細胞が刺激を受けたときに細胞外へ分泌されて様々な作用を発揮します。

この刺激には2種類あり、ひとつは嗅覚や視覚など五感による刺激のほか、感情や求愛など本能的な行動によって起こる一過的な「外的刺激」。もう1つは睡眠欲や食欲、性欲といった脳内で常に起こっている持続的な「内的刺激」です。このうち、「外的刺激」は報酬系の刺激とも呼ばれてバースト発火※を特徴とするのに対し、「内的刺激」は神経の自発的な活動によるもので「外的刺激」のような激しい特徴は見られません。

「内的刺激」の例としては、哺乳類の脳波における睡眠時に特徴的な低周波が挙げられます。また、海馬(かいば)※で起こる周期的な神経の活動も同様で、記憶を定着させるために重要です。このような脳の随所で起こる「内的刺激」がいま、研究者の間で注目を集めています。

※バースト発火:神経が別の神経に信号を出力する際に起こる、複数の活動電位が高頻度でまとまって発生する現象。

※海馬:大脳側頭葉の内側で左右に一対ずつある、長期的な記憶の形成に重要な部位。学習した一時的な記憶を精査したのち、大脳皮質へ移動させ長期的な保管につなげる。

ドーパミンの機能と役割、「報酬系」「快楽物質」の由来

ドーパミンは中枢(脳内)で主な神経伝達物質として働く一方で、身体の隅々における末梢(まっしょう)でも多くの機能を担っています。例えば、腎臓をはじめとする内臓における血管の拡張や、消化管における副交感神経への作用で胃の運動を緩和するなど。適量なら副作用も少ないため、治療薬としてよく用いられています。

対して中枢では運動機能や認知機能、報酬と嫌悪、神経内分泌や視覚に加え、脳の覚醒や睡眠、記憶学習、動機形成(やる気)などあらゆる行動を左右する物質として重要です。例えば、ドーパミン作動性神経が壊れていくために発症するパーキンソン病では、運動機能や認知機能に支障を来たすことが分かっています。

そのなかで報酬というのは、脳の中に快楽を感じる領域があり、1954年にラットを用いた実験で証明されたその領域(これを報酬系、reward systemと呼ぶ)が刺激を受けることで働く機能です。この実験は脳に電極を埋め込んだラットが自ら刺激を求めてレバーを押す行動について分析したもので、これはヒトでも電気刺激によって快情動(気持ちがよいと感じること)が誘発されることも分かっています。

このようにドーパミンは報酬系での快情動を介し、ヒトや動物を行動に駆り立てる「快楽物質」として、半世紀以上に渡り広く認識されてきたのです。

「快楽物質」から「予測誤差を表現する物質」へ一変!

その後の研究で、ドーパミン神経細胞は予測した報酬と実際に得られた報酬の違い「報酬予測誤差」を表現するということが明らかになりました。これにはサルで、予測との差に対するドーパミン神経細胞における活動の度合い(反応の状態)を比較した実験があります。

サルに報酬として初めてシロップが与えられると、その瞬間にドーパミン神経細胞が反応します。続いて、緑色に関連付けてシロップが得られることを学習したあとでは、緑色を見た瞬間には反応が見られるものの、シロップを与えられた瞬間での細胞に反応はありません。

その後、緑色を見たのにシロップが得られないと期待が裏切られ、細胞では興奮したときと逆の反応(不快な反応)が出ました。興味深いことに、赤色では得られないと学習したあとで、本来なら得られないはずの赤色を見てからシロップが得られると、興奮したときの反応がつよく見られました。

この実験結果で明らかになったのは、報酬を得た瞬間にドーパミンが分泌されるのではなく、予測と報酬との間で差が生じた際にドーパミン神経細胞が反応するということです。このような報告によってドーパミンは現在、「予測誤差を表現する物質」という新しい考え方が浸透しつつあります。

研究結果で考える、効率的な目標の立て方

ドーパミン神経細胞の持続的な活動は動機形成(いわゆる、“やる気”)と深く関わり、報酬の得られるタイミングが近付くにつれて、ドーパミンの放出量が増えることも分かっています(いわゆる、ワクワクしている状態)。さらに2手先、3手先の行動選択にも関与し、神経細胞の見せる反応は長期的な報酬の情報も表現できるということが分かってきました。

したがって、目標を立てるときは何年も先に大きな1つの目標を立てるよりも、数日あるいは数か月といった短い期間で複数個に分けて設定する方が賢明でしょう。そうすることでドーパミンがその都度分泌され、“やる気”を損なわずに遂行していくことにつながります。

また、人が薬物やギャンブルに依存して段々と衝動性が高まっていくのは、ドーパミン神経細胞における情報伝達の乱れが要因の1つと考えられているため、これらの研究成果は社会的にも寄与する可能性が高いと期待されています。

各論②「セロトニン」

セロトニンも脳内で働く神経伝達物質で、睡眠に深く関わるメラトニンの前駆物質としても有名です。ヒトではおよそ90%が消化管に、8~9%が血小板に、残りの1~2%が脳に分布し、神経細胞における情報伝達だけでなく血管内での血液凝固や腸の蠕動(ぜんどう)運動にも関わっています。

このセロトニンが“幸せホルモン”と呼ばれるのは、ドーパミンやノルアドレナリン(恐怖や驚きに関与)を制御して精神を安定させる作用を持っているから。その結果、情動や攻撃性のコントロール、行動における柔軟性などに影響を与えると考えられています。ほかにも生理的な機能として、体温調節や痛みのコントロールなどが重要です。

原料になるのは必須アミノ酸のトリプトファンで、ドーパミンの原料となるチロシンと違って体内で作り出せないため、普段から食事で取り入れることが必要です。例えば、豆腐や味噌などの大豆食品のほか、米や穀類、卵、ごま、チーズやヨーグルトというような乳製品にも多く含まれています。

食事からのトリプトファンを用いて脳の神経細胞内でセロトニンが作られると、日中に浴びた光の情報によって夜間にメラトニンへ変換されます。メラトニンは深部の体温を下げて睡眠を誘導するホルモンで、その分泌量や推移が睡眠の質に与える影響は少なくありません。“幸せホルモン”がきちんと分泌され効果的に働くためには、普段から自律神経を整えておくことも大切で、なかでも睡眠は自律神経を安定させる重要な要素です。

各論③「オキシトシン」

オキシトシンは家族や心を許せる相手、ペットなどとのスキンシップのほか、リラクゼーション施術による肌の触覚刺激によっても分泌されることが分かっています。別名、“愛情ホルモン”や“抱擁ホルモン(cuddle hormone)”と呼ばれるオキシトシンもまた、脳に与える影響は複雑であることが分かり、研究者の間で新しい捉え方が広まりつつあります。

元々、オキシトシンとはギリシャ語の「迅速な出産(quick birth)」を意味する言葉に因んだ名前で、発見された1900年代初頭では出産時における子宮収縮作用や母乳の分泌(射乳)に関する作用が主でした。

現代ではオキシトシン作動性神経は脳内や脊髄にもあり、視床下部で9個のアミノ酸から合成されたオキシトシンが神経伝達物質として鎮痛や不安の軽減、共感や他者への信頼感、摂食欲求の抑制など多岐に関わることも分かっています。また、これらは生物学的な性別に関係なく共通の機能です。さらに最近のラットを用いた研究では、脂肪を燃やすための神経路をオキシトシンが活性化するといった報告 も。

今後もオキシトシンの作用や役割は、更新されていく可能性が多いにあります。

各論④「β-エンドルフィン」

β-エンドルフィンも脳内で働く神経伝達物質の一種で、高揚や鎮痛、抗ストレス作用を担っています。その構造は31個のアミノ酸から成り、異名は脳内で自製される脳内麻薬(または「脳内モルヒネ」)です。有酸素運動によって高めの血圧が下がりやすくなったり正常化したりするのは、β-エンドルフィンが働くからと考えられています。その分泌量は、安静時に比べると運動や負荷がかかったときには約3倍から5倍に増加。このような挙動から、運動後の爽快感や精神的ストレスの解消に大きく貢献すると言われています。

例えば、マラソンなどで苦しい状態が続いたときに快感や陶酔感を覚えるのは、脳内でストレスを軽くするためにβ-エンドルフィンが分泌され、“ランナーズ・ハイ”と呼ばれる現象が起こっているから。そのほか、性行為の際やおいしいものを食べたときにも分泌されるというような背景もあって、これも一種の“幸せホルモン”と呼ばれているのでしょう。

総論|“幸せホルモン”は単独では機能しにくい

これらの“幸せホルモン”は、どれか一つが多く分泌すればよいという訳ではなく、全体のバランスが大切です。例えば、オキシトシンは不安や恐怖などネガティブな情報を察知した際にセロトニンの分泌を促し、うつ症状を緩和させるように働きます。一方では、脳で痛みを察知するとオキシトシンがβ-エンドルフィンの分泌を促し、結果的に痛みを抑えるというような作用も。

それぞれの“幸せホルモン”がきちんと分泌され、さらに相関し合って効果的に働くように、バランスのよい食事や自律神経を整えるような生活習慣を心がけましょう。とった栄養素がきちんと吸収できるように、腸内環境を整えることもお忘れなく(腸内環境を整えるような食事については、既存記事「腸内環境を整える食事、食材の選び方と効果的な組み合わせは?」を参考にしてください)。

また、人やペットとのスキンシップに限らず、柔らかい素材のアイテムや程よく負荷のかかる運動も効果的です。加えて、ドーパミンを効率よく分泌させるような目標設定なども考えながら、幸せな日常生活を創造していきましょう。

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