2025.01.31/最終更新日 2025.02.03

パトム(PATM)・加齢臭・疲労臭など体臭の原因、改善には腸内環境リセットも効果的

自由診療

体臭にはPATM(People Allergic To Me)や疲労臭、加齢臭など、それぞれ異なる原因や特徴、そして改善方法があります。1990年代後半から始まった皮膚ガスに関する研究は、ひも解かれつつある腸内環境の謎とともに進展を見せ、体臭にも腸内細菌が関与していることも分かってきました。体臭の正体である皮膚ガスと、その原因となる代謝の基本を押さえ、医療機関で行う腸内洗浄や日常生活の中で心がけたいセルフケアまで多方面から知識を身に着け、自分に合った“体臭ケア”に取り組みましょう。

体臭の正体は皮膚ガス、変動の原因は代謝

私たちが体臭として嗅覚で感じ取っているのは、ヒトの体表面から微量な皮膚ガス※として放散された、揮発性の低分子化合物が複雑に混ざり合った混合ガスです。これには食事としてとった成分の一部やその代謝物のほか、口から吸入した物質、腸内細菌による代謝物、皮膚表面における反応生成物などが含まれています。

1990年後半から皮膚ガスを分析する研究が始まり、300を超えて存在すると考えられるその種類や放散量とともに、ヒトの生活環境や身体的な状態などとの関連性も少しずつ明らかになってきました。

一方で体臭には、遺伝子や年齢、食べ物などによる個人差のあることが知られています。とくに、病気や感染症、緊張やストレス、心理的要因といった不安定な状況下でにおいが変わりやすいのは、そこに代謝が大きく関与しているからです。

※皮膚ガス:体表面から放散される揮発性の有機または無機化合物の総称。

体臭の放散経路は3種類

体臭の元となる皮膚ガスの放散には、大きく分けて3つの経路があります。

【表1.主な皮膚ガスの生成要因と放散経路】
  放散経路 生成要因 皮膚ガスの種類
内因性 血液 タンパク質の代謝 アンモニア、アミン類
脂質代謝 アセトン
ニンニク摂取 アリルメチルスルフィドなど
カレー摂取 クミンアルデヒド
腸内細菌 水素、メタン、エタン、エチレンなど
血液・汗腺 筋肉疲労、ストレス アンモニア
飲酒 アセトアルデヒド
  表面反応 皮脂の酸化 汗中成分の反応 ジアセチル、酢酸、イソ吉草酸、 2-ノネナールなど
外因性 血液 喫煙 ニコチンなど
化学物質の暴露 ベンゼン、トルエン、キシレンなど
農薬の暴露 フェニトロチオンなど
化粧品の使用 酢酸エチル、カルボン、リモネン

経路① 皮膚の表面反応

1つ目は、皮膚の表面反応に由来する経路です。汗や皮脂の成分に対して、皮膚表面を覆う常在菌が働いたり、紫外線などの酸化ストレスによって皮膚の脂質成分が酸化された過酸化物が働いたりすることで皮膚ガスが生成します。体臭というと多くの人が思い浮かべるような、わきのにおい(腋臭、えきしゅう)や足の裏のにおい、加齢臭などもこの経路による放散です。

皮膚表面の常在菌は、汗と皮脂が混ざり合って構成される皮脂膜によって増殖し、免疫応答を調節することで皮膚における恒常性の維持に貢献しています。例えば、足のにおいの原因と考えられているイソ吉草酸は、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)などの細菌が皮脂や角質中のロイシンというアミノ酸を分解して生じる揮発性の脂肪酸です。

一方、加齢臭の主要な成分で知られる2-ノネナール(2-Nonenal)は、皮脂中のパルミトレイン酸という不飽和脂肪酸が酸化されることで生じる揮発性のアルデヒド※化合物で、皮膚の常在菌はこの反応にも関与しています。同じく加齢臭の成分であるジアセチルも、汗中の乳酸を原料に表皮ブドウ球菌などの常在菌が働くことで生成し、その放散量は頭部や頸部などの汗をかきやすい部位で多いのが特徴です。

※アルデヒド:分子内にホルミル基(-CHO)を持つ有機化合物の総称で、不安定で反応しやすく、多くの生物にとって有害な特徴がある。

経路② 皮膚腺(汗腺や皮脂腺など)

2つ目は、汗腺や皮脂腺などの皮膚腺に由来する経路で、発汗量や皮脂の分泌量に左右されます。このうち汗腺は、皮膚表面から真皮や皮下脂肪組織内まで達していることで根元の分泌部が毛細血管に隣接し、そこから得られる血液中の血漿(けっしょう)成分※を原料に汗をつくり出す器官です。通常、汗の成分は99パーセント以上が水分で、ほかには微量の塩分(塩化ナトリウム)や乳酸、金属イオン、アミノ酸などのほか、尿素や尿酸、アンモニアなどの老廃物が含まれています。

一方の皮脂腺は、皮脂膜の約90パーセント以上を占める皮脂をつくる器官で、皮脂の構成成分は主に中性脂肪(トリグリセライド)やワックスエステル※、スクアレン※など。この中性脂肪は血液中の成分を利用しているため、食事の影響を受けると考えられます。つまり、汗腺と皮脂腺に由来する経路では、どちらも血液の状態によって、放散する皮膚ガスの内容が変化すると言えるでしょう。

※血漿:血液中で白血球や血小板などの血球成分を除いた部分で、血液の約55%を占める。

※ワックスエステル:脂肪酸と高級(炭素の量が多い)アルコールの化合物。

※スクアレン:コレステロールの前駆物質で、酸化されやすい特徴を持つ。

経路③ 血液

3つ目は、血液中の成分が揮発して直接、皮膚から放散する経路です。例えば、脂質の代謝によって生じるアセトンは、絶食や無理なダイエットをすると、体臭として認知されることがあります。その理由は、極端に少なくなった糖質を補うために脂質の分解が促進した結果、肝臓でアセトンなどのケトン体が生成され、これが血中に移行して皮膚ガスとなり揮発するからです。

そのほか、食事でとったタンパク質やアミノ酸は、腸管内で腸内細菌によってアンモニアに分解されて肝臓に送られます。そこで尿素に変換されたあと、腎臓を通じて尿中へ排出されるのが大部分です。そして一部は、血液中に戻って皮膚から放散されたり、汗腺に移行して発汗に伴い放散されたり、あるいはまた別の経路で無毒化されます。

一方、アルデヒド類は喫煙や飲酒、過度なストレスによって血液中の濃度が上昇し、皮膚からの放散量も増加することが知られている血液由来の皮膚ガスです。

体臭の種類と特徴「加齢臭」「疲労臭」「PATM」

昨今、体臭をテーマにしたメディアや情報サイトでは、既存の「加齢臭」やいわゆる“ワキガ”(腋臭)だけでなく、「疲労臭」や「PATM」という単語も登場しています。それぞれの特徴や原因を押さえ、対処法を身に付けましょう。

加齢臭の特徴と対処法

加齢臭で代表的な皮膚ガスは、2-ノネナールとジアセチルの2つです。前者は「古い畳」「古本」のようなにおい、後者は「ヨーグルト」「チーズ」のようなにおいと例えられます。このうち、2-ノネナールは女性ホルモンによって発生が抑えられていることもあり、女性では50歳代以降で増えやすい傾向です。その放散量には皮脂の分泌量が関係し、皮脂腺を刺激する男性ホルモンが多いほど増加するため、女性よりも男性の方が早くから加齢臭に悩むという人が多いのかもしれません。

また、2-ノネナールの材料となるパルミトレイン酸は、加齢とともに徐々に増え、紫外線や体内で生成される活性酸素により合成される過酸化脂質によって酸化されます。この活性酸素も加齢によって増える傾向があり、身体の外側と内側の両方から、酸化に対するケアが大切です。ここで、ヒトにおける皮膚の酸化防止力は20歳代をピークに完成し、その後は徐々に衰えていくと考えられているため、早い段階から対処するに越したことはありません。

基本的に表面反応で起こる加齢臭は、皮膚を洗うことで落とせます。ただし、洗いすぎは皮脂の過剰分泌を招き、かえってにおいの悪化につながることがあるので注意しましょう。夜の寝ている間に分泌された皮脂が気になる人は、朝に軽くシャワーを浴びるというのも有効です。

そのほかの対策としては、皮脂の酸化を防ぐために紫外線を避け、ビタミンCやポリフェノール類といった抗酸化成分を含むバランスのよい食事と適度な運動、睡眠不足にならないような生活習慣を心がけましょう。

疲労臭の原因と対処法

加齢臭と違って疲労臭は、血液を流れるアンモニアが増え過ぎたために直接、皮膚ガスとなって揮発することが原因のひとつであるため、洗っても改善は見込めません。このアンモニアは常時、腸管内で腸内細菌の働きにより生成されるほか、運動時には筋細胞でおこなわれるタンパク質の代謝に伴い生成されるため、健康な人でも40μg/dlくらいの濃度で血液中に存在しています。(基準範囲の目安は28~70μg/dl)

ヒトでは通常、大部分のアンモニアは肝臓で尿素へ変換されたあと、腎臓を通じて尿中に排泄されるため、意識障害を伴うような高アンモニア血症を発症することは滅多にありません。ただ、次に挙げるような要因によって血液中のアンモニア濃度が上昇し、この排泄機能が追いつかなくなると、皮膚から直接、皮膚ガスとして放散されるようになるのです。

【疲労臭(放散するアンモニア増加)の要因】
・精神的ストレス
・筋肉疲労
・タンパク質に偏った食事
・肝機能の低下
・腸内環境の悪化

したがって、疲労臭の対処法は、これら5つを念頭におきながら日常生活の中で取り組むこと。例えば、精神的ストレスに対しては溜めないように自分なりのストレス発散方法を見つけたり、バランスのよい食生活や肝臓に負担をかけないための節酒と肥満の改善に取り組んだり、腸内環境を整えることも大切です。

PATMとは?自覚症状や特徴

PATM(People Allergic To Me、パトム)とは自分の皮膚ガスによって、周囲の人に鼻水やのどの違和感、目のかゆみといったアレルギー反応を引き起こさせる現象を指します。海外では徐々に一般へ周知されつつある一方で、日本ではまだほとんど知られていません。自覚症状として何か不調を感じる人は少なく、自分の体臭に敏感な人では自ら気付く場合もあるものの、基本的には自分で気付くことはむずかしいと考えられています。

最近まで、加齢臭や疲労臭以外の体臭に関する病気では「自臭症(自己臭恐怖症)」が知られ、いわゆる対人恐怖症の一種として精神科領域で扱われてきました。これは、“自分の体から不快なにおいが出て周囲の人に嫌な思いをさせると思い込むために、自分が他人から敬遠されるのではないか”といった恐怖を抱く症状です。

PATMと自臭症の大きな違いは、PATMを訴える人の皮膚ガス組成に、健康な人とは明らかに異なる特徴がみられること。その組成では、トルエンやキシレンなどの臭気を伴いながら他者に刺激を与える揮発性有機化合物が著しく多いことも分かっています。これらは、1990年代に社会問題となったシックハウス症候群や化学物質過敏症の原因物質であるVOCs(Volatile Organic Compounds)の一種です。 PATMでは健康な人に比べ、アセトアルデヒドやアセトンなどの放散量が多いことも分かっています。前者はエタノールの代謝物で飲酒する人に多く、「焦げたにおい」と表現されるのが特徴です。後者は脂質の代謝物で絶食や空腹、極端に炭水化物が少ない食事、過度なダイエットや長時間の運動をしたときに生成されます。一般に「甘酸っぱいにおい」と表現され、エネルギー源となるブドウ糖の不足に対し、肝臓内でミトコンドリアが働くことで生じる代替エネルギー源です。

PATMで周囲に与える影響

PATMによる他者の健康に関するリスクについては、まだ明らかになっていません。ひとつ言えるのは、アセトアルデヒドを除く5つの皮膚ガス(トルエン、エチルベンゼン、キシレン、スチレン、p-〈パラ〉ジクロロベンゼン)では、ヒトの嗅覚閾値の1000分の1以下で室内濃度指針値※と比べても非常に少ないため、これらが単独で他者に臭気として知覚されたり、他者の健康を害したりするリスクは小さいと考えられています。

一方でアセトアルデヒドの蒸気は、鼻やのどに対して刺激を与え、目に入ると結膜炎やかすみを引き起こす可能性もゼロではありません。

そして、皮膚ガスはいくつもの成分が複合して揮発するものであり、PATMによる周囲に与える影響については引き続き研究が進められているところです。

※室内濃度指針値:ホルムアルデヒドを含む13の物質について、ヒトがその濃度の空気を一生涯にわたって摂取しても、 健康への有害な影響は受けないであろうと判断される、厚生労働省が設定した値。

腸内環境を改善すると疲労臭が減る!

体臭のうち、疲労臭の主な原因となるアンモニアの血液中の濃度は、腸内細菌の改善で減らせることが研究で明らかになっています。具体的には、腸内のビフィズス菌数とその占有割合の増加に伴い、皮膚ガスとしてのアンモニアの放散量が減少するという報告です。

そのメカニズムは、ビフィズス菌が産生する乳酸や酢酸が大腸内を弱酸性にすることでアンモニアを中和し、腸管から血液中へ移行するのを抑えるためと考えられています。加えて、ビフィズス菌は窒素と積極的に反応する特性(窒素要求性)があることから、ビフィズス菌の増殖に伴いアンモニアを窒素源として消費する量が増えて、便とともに体外へ排泄される量も増加するという流れも。さらには、相対的に善玉菌が増えることで悪玉菌の活動が抑えられ、これによって腸内細菌がつくるアンモニアが少なくなることも予測されます。 実際に、ビフィズス菌の増殖効果が認められているラクチュロース(lactulose)を2週間にわたって1日あたり4g、経口摂取した人と摂取していない人で比較した実験では、摂取した人でアンモニアの放散量は明らかに少ないことが分かりました。また、ビフィズス菌の数が多いほど、放散量は有意に少ないことも確認されました。こうした腸内環境の改善による疲労臭の減少について、より詳細なメカニズムの解明が期待されています。

医療機関で行う体臭の検査、自分で確認する方法

体臭は、自分ではそのにおいに鼻が慣れてしまっているため、自ら気付くことは難しいと言われています。自由診療を提供する医療機関では、いくつかの視点から体臭について調べることが可能です。代表的な検査は皮膚ガステスト(パッシブ・フラックス・サンプラー法、Passive flux sampler;PFS)で、1時間ほど前腕部に小型器具(捕集剤)を貼り付けて皮膚ガスを採取したあと、専用の機械(ガスクロマトグラフ質量分析器)で75種類のガスを定量し、それらの放散量について調べます。

そのほか、腸内環境を調べるために、「リーキーガット検査」「腸内フローラ検査」「遅発性フードアレルギー検査」などを検討するのもよいでしょう。また、血液中のアンモニアの濃度は消化管出血によっても高くなることがあるため、内視鏡カメラを備える医療機関で相談するのもひとつです。あとは、外因性の皮膚ガスを調べる方法として、毛髪や尿を用いた重金属の蓄積を調べる検査が行われることもあります。
ここで、頭痛の治療などに用いられる一部の薬剤では、副作用として血液中のアンモニアの濃度を上昇させる可能性があるため、受診の際はこれまでの治療歴についても相談しやすいところを選ぶことが大切です。

もっと簡単に自分でにおいを確かめたいという場合は、1日着た肌着や、ひと晩寝たあとの枕カバーなどを使って確認できます。これらをビニール袋に入れ、空気を入れてから密封し、外の新鮮な空気で深呼吸して嗅覚をリセットした状態で嗅いでみましょう。

医療機関で受けられる治療&日常的なセルフケア

現時点では、疲労臭やPATMにおける診断と治療方法はまだ確立されていません。しかし、前述のような検査を行って原因とみられる部分に対し、アプローチしていくことは可能です。
例えば、腸内環境の改善を目指す場合は、腸内洗浄がもっとも効果的と言えます。ただし、腸内洗浄は医療機関によって内容が異なることに注意が必要です。一般に大腸カメラ検査の前に飲むような数リットルの腸管洗浄剤や、少量の腸管洗浄液を腸管内に流し込むような処置では、腸内環境は変えられません。目的とともに、施術のエビデンスも医師へ確認した上で臨むようにしましょう。
そのほか、皮膚ガスの組成が重金属の蓄積による特徴と一致する場合にはキレーション療法※や、皮脂の酸化を防ぐには水素吸入療法などの抗酸化療法※も有用です。

※キレーション療法については、既存記事『「キレーション療法」の原理、費用や受診の仕方、安全性と副作用について』を参考にしてください。
※水素吸入療法については、既存記事『「水素吸入療法」の効果と安全性は?ほかの抗酸化療法とのちがい』を参考にしてください。

普段から心がけたい体臭のセルフケア

洗い流すことの出来ない体臭は、日常生活の中でセルフケアを行うことも大切です。例えば、ビフィズス菌の摂取や、これを育てるために海藻類や豆類などの水溶性食物繊維といったプロバイオティクスの摂取もよいでしょう。そして、腸内環境を整える食事※が重要なのはもちろん、酸化を防ぐUV対策やストレスを溜めないような解消法を取り入れていくことも大切です。

「スメハラ」という言葉も登場し、PATMも含めた、体臭が他者に与える影響について当たり前に取り組む時代になってきたのかもしれません。“体臭ケア”という視点も含めて、自分の腸内環境に向き合ってみてはいかがでしょうか?

腸内環境を整える食事については、既存記事『腸内環境を整える食事、食材の選び方と効果的な組み合わせは?』を参考にしてください。

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