「遅発型」の食物アレルギーでは、一般的な「即時型」の食物アレルギーとちがって発症するまでの期間に予測がつかず、その症状も様々です。これを調べるために自由診療として、遅発型フードアレルギー検査を実施する医療機関が増えてきました。ただ、インターネットで検索すると、“この検査には意味がない”といったネガティブな見解も。ここでは、食物アレルギーの仕組みや「即時型」と「遅発型」の違いから、原因と検査方法、検査結果を受けて対処するときの正しい捉え方、検査をすすめる人と場合について紹介します。
食物アレルギーの大半は「即時型」
食べ物が原因でアレルギー症状を引き起こす食物アレルギーには、大きく分けて2種類あります。ひとつ目は、原因の食物を摂取した直後からおよそ2時間以内にじんましんや湿疹、下痢、咳やゼーゼーするような症状(喘鳴、ぜんめい)が起こる「即時型アレルギー反応」です。これはIgE抗体(免疫グロブリンE)という体内のたんぱく質を介して起こる免疫反応で、多くの食物アレルギーがこの即時型に該当します。
そのメカニズムは、皮膚や腸粘膜、気管支粘膜などに存在する肥満細胞と結合したIgE抗体が食物の抗原を見つけ、肥満細胞から化学伝達物質(ヒスタミンやロイコトリエンなど)を放出することでアレルギー反応が誘起されるというもの。なかでも、症状が皮膚や消化器、呼吸器に留まらず、血圧低下や意識障害など全身性のショック症状(これをアナフィラキシーと呼ぶ)を呈するような場合は、とくに注意が必要です。
「遅発型」食物アレルギーとは?
もうひとつの「遅発型(非即時型あるいは遅延型ともいう)アレルギー反応」は、体内のIgE抗体に依存することなく、特定の食べ物に含まれるたんぱく質を摂取することで引き起こされるアレルギー反応です。したがって、即時型で陽性を示すIgE抗体に由来するプリックテスト※も、遅発型では陰性になります。即時型と異なり、そのメカニズムについては何らかの細胞性免疫機序によると考えられているものの、詳しいことはまだ解明されていません。
また、症状が発現するまでの時間は様々で、食べ物の摂取から数時間後に起こる場合もあれば、数日後で忘れた頃に起こる場合も。そしてその症状は一見、アレルギー症状とは考えないような疲労感や頭痛、肌荒れ、下痢、腹痛、腹部膨満感があります。
例えば、この遅発型アレルギー反応によって発症する病気のひとつ、「食事性たんぱく胃腸炎(食物過敏性腸炎症候群)」では、嘔吐や下痢といった消化器症状が主体です。その検査ではリンパ球の幼若化(ようじゃくか)※のほか、生検で炎症性の細胞、炎症性サイトカインTNFα(ティーエヌエフ・アルファ)などの増加が見られることで、細胞性免疫の関与が予測できます。
※プリックテスト:アレルゲンを少量、針を用いて皮膚に入れて15分後に出現した膨疹径を測定する即時型アレルギーの検査方法。
※リンパ球の幼若化:成熟したリンパ球は特定の抗原に出会うと、成熟前の形態に戻り(これを幼若化という)増殖することでDNA合成が活性化される。
「遅発型」食物アレルギーの原因や仕組み
では、口から摂取した食べ物は、どのようにして私たちの身体に免疫反応を引き起こすのでしょうか?そこには腸内環境が大きく関わっています。まず、摂取した食べ物がそのままの形状を保ち、体内をめぐる血管中に移行することはありません。
例えば、食べ物に含まれるたんぱく質は消化酵素によって小さい分子のペプチドやアミノ酸まで分解されてから、小腸の粘膜を通過して血管へ移行します。ここで重要なのが、腸管に張りめぐらされた「粘膜上皮(ちょうかんじょうひ)バリア」というバリアシステムです。これが正しく働くことで細菌やウイルスのほか、腐敗ガスやまだ消化されていない栄養素などの異物が腸の粘膜を通過しないように保っています。
しかし、リーキーガット症候群・腸もれ(Leaky Gut Syndrome) では、このバリアシステムを構成する細胞間に隙間が生じているため、これらの異物を排除できません。その結果、異物に加えて食べ物に含まれる添加物や合成保存料、環境汚染物質など炎症を引き起こす物質も血管へ移行するリスクにつながります。続いて、こうした炎症性物質は身体のいたるところでアレルギー反応を引き起こしたり、肝臓や腎臓で過剰な負担をかけたりする可能性も否定できません。
したがって、「遅発型」食物アレルギーの存在を疑う場合にはまず、自分の腸内環境がどのような状態であるかを知ることも必要だと言えるでしょう
遅発型フードアレルギー検査は受けるべき?
近年、保険適用外の自由診療でおこなう検査として、遅発型フードアレルギー検査を実施する医療機関が増えてきました。これは、採取した血液からIgG抗体を調べることで、約100種類の食べ物におけるアレルギーの有無を知る検査です。同時に、リーキーガット症候群・腸もれ(Leaky Gut Syndrome)に関する検査としても知られています。
ここでIgG抗体とは抗原が2回目以降に体内へ侵入したとき、免疫機能を担うB-リンパ球が作り出す抗体です。食べ物が消化吸収され、血管内へ移行した際に反応する特徴があると考えられています。ただ、この検査ではIgE抗体を対象とする即時型フードアレルギー検査と異なり、アレルギーを引き起こす食べ物が必ずしも特定できるという訳ではありません。
また、この検査で反応が出ている食べ物でも、実際には身体にとって何も影響を与えていない可能性もあります。逆に、反応が出なかった食べ物でも摂取することで体調を乱す可能性も。なぜなら、IgG抗体は食物アレルギーのない人の体内でもふつうに存在し、食べ物の摂取量に比例してその抗体量が変わることも分かっているからです。
これらを理解した上で、遅発型フードアレルギー検査を受ける目的について考える必要があります。その目的は単に食べ物の選択肢を絞るためではなく、リーキーガット症候群の程度や自分の腸内環境を知るためというふうに捉えるのもよいでしょう。
IgG抗体が高く反応した食べ物の対処法
検査をすると、人によっては多くの食べ物に対してIgG抗体が反応することもあります。しかし、反応が出たからといってすぐに、それらの食べ物をすべて避けるようなことは前述の理由からも推奨しません。大切なのは、現状で気になっている不調について医師と相談しながら、疑われる食べ物の制限をどの程度おこなうか、適当な期間を設定しながら検討していくことです。個人差はあるものの、本当に症状の原因となっている食べ物なら2週間ほど控えることで改善が見られることもあります。 また、IgG抗体は摂取量に比例して増えると考えられるため、大幅に摂取を減らすことが難しい食べ物については、身体にとっての有益性を検討しながら調節することが必要です。同時に、IgG抗体がつよく反応した背景には、腸内環境で何らかの異常が起こっている可能性も踏まえて確認するようにしましょう。
検査を受けるときの注意点
近年、遅発型フードアレルギー検査をめぐって様々な議論がなされていることは事実です。懸念されているのは、IgG抗体検査によって原因の食べ物を断定するための根拠がまだ乏しいということと、安易な食事制限によって健康被害を生じる恐れがあるということ。加えて、実際にはアレルギー症状の出ていない食べ物までも排除してしまう可能性があることです。人によっては多数の食べ物で反応が出ることもあり、正しい理解と適切な対処が伴わなければ食の選択肢を狭めるリスクにもつながりかねません。
大切なのは、検査を受ける目的について医師としっかり話し合い、一つずつ丁寧に検証していくことです。
どんな人、どのような場合に検査はおすすめ?
まず、即時型アレルギー検査では陰性なのに、皮膚のかゆみやじんましんなどのアレルギー症状が複数回にわたって経験のある人は一度、受けてみるとよいでしょう。ただし、遅発型の食物アレルギーでは決まった症状や、発症するまでの期間に規則性がある訳ではありません。そのため、検査結果を受けてからある程度の期間を考えて、医師とともに対処していくような心構えが必要です。
一方、「なんとなく調子がわるい」「頭痛や胃もたれなど検査しても異常のない不調が慢性的に続く」など、原因を詳しく追究したい人にも試す価値のある検査と言えるでしょう。加えて、「腸内環境が気になる」「リーキーガット症候群の有無を知りたい」といった健康の確認をおこないたい人にもおすすめです。
さらに昨今では、“脳腸皮膚相関”という3つの臓器が相互に影響を及ぼし合う関係性について注目を集めています。例えば、「仕事や趣味のパフォーマンスを向上したい」「皮膚をより健やかに保ちたい」という目的をもつ人も一度、受けてみるとよいかもしれません。
この遅発型フードアレルギー検査を、普段の食生活の見直しから、腸をはじめとする全身の健康管理に役立つきっかけ作りとして活用してみてはいかがでしょうか。