近年では免疫機能への関心が高く、ますます注目を集めている腸内細菌。実は、“腸管上皮バリア”という、私たちの健康を維持する上で重要なバリアシステムに関する研究も進みつつあります。これに伴い、本来は腸管から血液中に移行することが出来ない“リーキーガット症候群・腸もれ(Leaky Gut Syndrome)”の実態もすこしずつ明らかになってきました。ここでは、研究によって分かってきたメカニズムや原因、検査や予防方法、治療方法についてご紹介します。
腸の穴から異物が漏れる!?“リーキーガット症候群・腸もれ”とは
リーキーガット症候群・腸もれ(Leaky Gut Syndrome)とは、腸管壁侵漏症候群(ちょうかんへきしんろうしょうこうぐん)とも呼ばれる、腸の粘膜を構成している細胞と細胞の間に隙間ができることで異物が身体の中に入り込んでしまう状態のことです。この名称のなかで、“リーキー(Leaky)”というのは液体などが漏れること、“ガット(Gut)”というのは腸を意味しています。ここでいう異物というのは細菌やウイルス、腐敗ガスのほかにもまだ消化していない栄養素など、本来なら腸の粘膜を通過しない大きさのものです。そして、“漏れる”というのは、腸管の中から血管の中(血管に入り込んでから体内をめぐるようになる)へ移行してしまう状態を指しています。 このように本来は移行しないはずのものが腸から漏れ、血管を通じて体内に入り込むことが身体のさまざまな不調をひき起こしているのではないかと近年、注目を集めているのです。
リーキーガット症候群・腸もれがひき起こす病気
私たちの腸管には腸内細菌やまだ消化されていない栄養素、アレルゲンやウイルスなどの有害なものを体内に入れないようにする「腸管上皮(ちょうかんじょうひ)バリア」というバリアシステムが張りめぐらされています。このバリアを構成しているのは、薄いシート状になって層をつくる無数の腸管上皮細胞(ちょうかんじょうひさいぼう)※です。この細胞は隣の細胞と接着装置のような“タイトジャンクション(以降、TJ)”と呼ぶ、50種類以上のタンパク質から成る複合分子で強力に結合しています。
しかし、何らかの要因でこの結合が緩むと、腸の中の異物が粘膜内に流れ込んで腸管における炎症をひき起こしたり、血液を介して全身の炎症をまねいたりすることも。実際に腸管上皮バリアの傷付いた病気では、炎症性腸疾患や過敏性腸症候群(IBS)なども報告されています。さらに消化器系の病気にとどまらず、肥満や肝機能障害、皮膚の病気などにも関わっているという報告もあるのです。
リーキーガット症候群・腸もれの原因
近年、リーキーガット症候群・腸もれに関する原因が、すこしずつ解明されてきました。まず、ストレスやライフスタイルの乱れによる腸内環境の悪化が、腸管上皮バリアにとってわるい影響を与えるということは間違いありません。なぜなら、腸内細菌のうち悪玉菌が多くなると腐敗ガスが発生し、これが細胞を傷つけるから。また、栄養の偏りや睡眠不足は腸管上皮細胞の新陳代謝がおこなわれるのを妨げて、腸管上皮バリアの低下をまねきます。
一方、食品の中で原因として知られているのは、小麦タンパク質の“グルテン”です。このグルテンが腸の中で分解されて出来る“グリアジン”という成分が腸管上皮細胞に結合すると、細胞どうしをつなぐTJを緩めてしまうことが研究で分かっています。そのほか、アルコールや高脂肪食にも、同じような作用があると報告されているため注意しましょう。
リーキーガット症候群・腸もれの診断と検査
この病気に関する診断や検査にはいくつかの方法があり、代表的な検査には「IgG食物過敏症検査」と「腸内フローラ検査」の2つが挙げられます。
このうち1つ目の「IgG食物過敏症検査」は、食べてから数時間~数日間したあとに様々な症状をひき起こす食べ物にふくまれている抗体を、血液検査で測る検査です。これによって、摂取したあとすぐに症状が出ないことが原因で、今まで気付いていなかったアレルギーの有無を確認することが出来ます。ここで、よく知られている食物アレルギーの検査というのは、“IgE抗体”を測るものが一般的です。つまり、この「IgG食物過敏症検査」とは別の検査だと捉えるのがよいでしょう。
そして2つ目の「腸内フローラ検査」は、便を採取して腸の中の善玉菌や悪玉菌の状態、カンジタ菌の有無などを調べる検査です。こうした検査を受けることで、より確かな治療へと進むことが出来るようになります。
リーキーガット症候群・腸もれを予防するには?
健康的な腸管上皮バリアシステムを維持するためには、暴飲暴食のない食生活はもちろん、ストレスをためないことが大切です。また、近年では予防につながる可能性のある食品成分が、すこしずつ分かってきました。それは、フィトケミカル※のポリフェノールや必須微量元素の亜鉛、腸内細菌が生み出す短鎖脂肪酸(SCFA)です。これらが腸管TJバリアを強く整え、保護する作用があるということが研究で分かっています。とくにネバネバとした特徴をもつ、海藻などの水溶性食物繊維はよいでしょう。これらは、腸管内でゆっくりと移動するため、栄養素の消化と吸収をゆっくりとおこなうことが出来ます。さらに、大腸に到達した食物繊維は腸内細菌によって短鎖脂肪酸(SCFA)という代謝物になり、これが善玉菌の増殖を促して腸内環境の改善にも。こうして生み出された短鎖脂肪酸(SCFA)は大腸における上皮細胞のエネルギー源となるだけでなく、腸管の免疫機能の調節や脂質の代謝、ミネラルの吸収を調節するなど多くのメリットが期待できます。
※フィトケミカル(phytochemical):植物が有害なものから自身を守るために作りだす色素や香り、辛味、苦味などを呈する化学成分のことで、近年では抗酸化作用がある成分も注目を集めている。
リーキーガット症候群・腸もれの治療方法
リーキーガット症候群・腸もれの治療には食事療法やサプリメントを摂取するほか、腸の中に乳酸菌を注入するといった方法があります。
まず食事療法では、腸内環境を悪化させるようなアルコールや高脂肪食を避け、食物繊維など腸内環境にとってよい食品を摂ることが重要です。さらに、腸管の粘膜を傷付けることが分かっている食品添加物や、TJを緩める作用のあるグルテンをふくむ食品を控えるようにしましょう。
サプリメントとしては、乳酸菌を生成するエキスをふくむものが有効です。
そしてもう1つの、腸に直接、乳酸菌を注入する方法というのは「腸内環境リセット療法」と呼ばれる治療方法。腸内に直接、乳酸菌を入れることによって善玉菌が増加し、口から摂取するよりも効率よく腸内環境が改善することを期待しておこないます。どの方法で治療するかどうかは、医療機関で適切な検査を受けて自分にあったものを選ぶことが大切です。
腸は私たちの身体の中で、もっとも外界からの異物にさらされやすい部分。そこに負担がかからないような生活習慣を心がけましょう。そしてストレスをためないように自身と向き合い、すこしでも不調を感じたら医療機関を受診して状態が深刻化しないうちに対処することが大切です。