2023.12.22/最終更新日 2023.12.22

腸内環境を整える食事、食材の選び方と効果的な組み合わせは?

腸内細菌

現代では腸内環境を整える食事として、乳酸菌などの善玉菌を含むプロバイオティクスや腸内細菌のエサになるプレバイオティクス、この2つを一緒に取り入れるシンバイオティクスの概念が少しずつ認識されるようになってきました。しかし、この分野の研究の進展はめざましく、新しい考え方や情報のアップデートが欠かせません。ここでは、腸内環境と密接に関わる腸内細菌の役割から、具体的な食材とシンバイオティクスで効果的な組み合わせ、脂肪分や塩分の関連性について紹介します。

腸内環境の舵とり役は腸内細菌

ヒトの腸内環境は生活習慣や心身のストレス、薬などの影響を受けるほか、約1,000種、100兆個も存在すると言われる腸内細菌の状態によっても左右されます。その腸内細菌は働き方で分けると3種類あり、乳酸菌やビフィズス菌などヒトにとって有益な働きをする「善玉菌」と、ウェルシュ菌や大腸菌(有毒株)などタンパク質を腐敗させてアンモニアや硫化水素といった有害物質を作り出す「悪玉菌」。そして、連鎖球菌や大腸菌(無毒株)など優勢になっている方の菌と同じ働き方をする「日和見菌(ひよりみきん)」です。

なかでも善玉菌には代謝産物として作り出す乳酸や酢酸、酪酸などの酸を介して悪玉菌の増殖を抑える働きがあります。この酸のうち、炭素が3つ以上で構成される短鎖脂肪酸は、腸管上皮細胞(ちょうかんじょうひさいぼう)のエネルギー源としても重要です。
ただし、これら3種類は互いに密接し合っているため、悪玉菌が少なければ少ないほどよいということではありません。そのバランスは、「善玉菌:悪玉菌:日和見菌=2:1:7」が理想と言われています。したがって、腸内環境を良好に保つには、悪玉菌が善玉菌を上回らないように食事内容などを心がけることが大切です。

【腸内細菌の働き】
1.短鎖脂肪酸やビタミン、ホルモン、酵素などをつくる「合成」
2.食べ物を細かく分解する「消化」
3.糖やアミノ酸、脂肪酸など栄養素を取り入れる「吸収」
4.毒素などを身体のそとに出す「排泄」
5.有害な化学物質を分解する「解毒」
6.腸内の腐敗(ふはい)をふせぐ「浄血(じょうけつ)」
7.リンパ球など腸の免疫細胞をととのえる「免疫」

そのほか、腸内細菌が腸管バリア機能と腸管免疫系に与える影響についてはこちらの記事(「腸管バリアのしくみと機能。食事と腸内細菌が大きく関与!」)で詳しく解説しています。

「プロバイオティクス」とは?

プロバイオティクスの語源は、共生(きょうせい)を意味するプロバイオシス(probiosis、「pro」は共に、「biosis」は生きる)です。まず、1989年にイギリスの微生物学者Fullerにより、「腸内フローラのバランスを改善することによって宿主の健康に好影響を与える生きた微生物」という概念が提唱されました。この概念では乳酸菌やビフィズス菌だけでなく、次に挙げる条件を満たし、科学的に証明された菌株ならばプロバイオティクスに該当します。

【1989年におけるプロバイオティクスの条件】
・宿主(人など)に有益な効果をもたらすこと
・病原性や毒性がないこと
・効果発現のために必要な数が生きた状態でいること
・消化管のなかで生きて代謝活性を示すこと
・長期間にわたり安定して保存できること

その後、善玉菌の菌体が腸内フローラを介さず直接的に宿主へ作用することも分かったため、2002年にFAO/WHO合同専門家会議※はプロバイオティクスについて「適量を摂取した際に宿主に有用な作用を示す生きた微生物」という定義を発表しました。この、“適量を摂取”という文言から、経口的に取り入れる場合の安全性や量について詳しく見直されたという風に捉えることができます。

【2002年に見直されたプロバイオティクスの条件】
・人(宿主)の健康に有益な効果をもたらすこと
・人(宿主)への使用が安全であること
・生きた微生物であること
・微生物分類上の位置づけが明確で菌株の同定ができること
・効果発現に必要な量が示されること

さらに近年では研究技術の進歩により、善玉菌は必ずしも生きた状態でなくても有益な働きをするということが分かってきました。これはバイオジェニックスと呼ばれ、善玉菌の菌体成分や代謝産物(分泌成分をふくむ)が直接的に、宿主にとって良い作用をもたらすという概念です。研究では、この菌体成分が身体の免疫機能を高め、血清コレステロールを低下させる効果(代謝改善作用)があることも報告されています。

※FAO/WHO:FAOは国際連合食糧農業機関、WHOは世界保健機関。

「プロバイオティクス」の具体的な食品

プロバイオティクスとして利用できる菌は、ビフィズス菌(Bifidobacterium)、乳酸菌(正確には乳酸桿菌、Lactobacillus)、酪酸菌(正確には酪酸産生菌、butyrate-producing bacteria)、乳酸球菌(ストレプトコッカス、Streptococcus)、酵母菌(Candida)などが挙げられます。

一方、納豆菌は枯草菌(こそうきん、Bacillus subtilis)の一種で自然界に安定して存在し、厳密にいうと腸内細菌ではありません。それなのに、広義の意味でプロバイオティクスとして扱われることがあるのは、摂取すると腸内で活性化し、乳酸菌やビフィズス菌の作用をつよめる効果が分かっているからでしょう。

同様に、2006年に日本の「国菌」として認定された麹菌(こうじきん、正確にはコウジカビ、Aspergillus)も腸内細菌ではなく、プロテアーゼと呼ばれる消化酵素の分泌によってビフィズス菌を増加することが報告されています。

ただし、経口的に取り入れた善玉菌が長く腸のなかで定着することはありません。大切なのは普段からバランスのよい食事内容に加えて、こうした有益な菌をとり続けるということです。

【有益な菌を含む食品や食材】
ビフィズス菌 ビフィズス菌入りのヨーグルトや飲料など
乳酸菌 乳製品、納豆、その他多くの発酵食品
酪酸菌 ぬか漬け、臭豆腐
酵母菌 イースト(パン酵母)、納豆、味噌、酢、酒粕、地ビール、日本酒
納豆菌 納豆
麹菌 みそ、しょうゆ、みりん、甘酒、清酒

「プレバイオティクス」とは?具体的な成分と食材

善玉菌そのものを摂取することを意味するプロバイオティクスに対し、プレバイオティクスとは、「善玉菌の成長や活動を助けることで宿主の健康に利益をもたらす、ヒトの消化管内で消化吸収されない成分」を指します。この概念の基となっているのは、1994年にGibsonとRoberfroidらによって提唱された定義です。その後、2017年まで数回にわたって定義や要件が随時、見直されています。

代表的なプレバイオティクスの食品成分は、糖類のうちオリゴ糖※や、イヌリン※などの水溶性食物繊維です。これらは消化吸収されることなく大腸まで達し、腸内にすみつく善玉菌が好むエサ(炭水化物)を選択的に与えて、善玉菌の増殖や活動を助けるように働きます。

ここで、食物繊維には2種類あり、水に溶ける「水溶性食物繊維」と水に溶けない「不溶性食物繊維」です。このうち、善玉菌のエサとなる「水溶性食物繊維」の機能はそのほか、腸内でゲル状になることで血糖値の急な上昇を抑えたり、コレステロールを吸着して血液中のコレステロール値を下げたりするメリットも。

ただし、急にこうした成分をたくさん摂り過ぎると腸内細菌の許容量を超え、下痢やおなかの張りなどを引き起こすことがあります。その場合は1回の量を2~3回に分けて摂取するなど様子を見ながら、徐々に摂取量を増やしていくとよいでしょう。

※オリゴ糖:単糖が2~10個ほど結びついた糖質で、低消化性の特徴をもつ。

※イヌリン:ごぼうやにんじん、玉ねぎなどに多く含まれる多糖類の一種で、大腸の腸内細菌により初めて代謝される特徴から食物繊維に分類されている。

【オリゴ糖を含む食材例】
食材の分類 具体的な食材
野菜類 玉ねぎ、ごぼう、ねぎ、にんにく、アスパラガス、キャベツ
豆類 大豆
果実類 バナナ、りんご、ぶどう
【水溶性食物繊維を含む食材例】
食材の分類 具体的な食材
穀類 オートミール、押し麦、ライ麦
野菜類 ごぼう、にんじん、玉ねぎ、おくら、ブロッコリー、モロヘイヤ
豆類 大豆、納豆、おから、インゲン豆
いも類 こんにゃく、さつまいも、さといも
海藻類・きのこ類 干ししいたけ、昆布、わかめ、もずく、寒天
果実類 プルーン、アボカド、キウイフルーツ、アーモンド、クルミ

もう一方の「不溶性食物繊維」は、セルロースやキトサンなどの成分が代表的。腸内で水分を吸収することで便のかさ増しや腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)を促進し、「水溶性食物繊維」とともに腸内環境を整えるように働きます。

【不溶性食物繊維を含む食材例】
食材の分類 具体的な食材
穀類 オートミール、押し麦、ライ麦
野菜類 ごぼう、切り干し大根、かぼちゃ、
豆類 大豆、納豆、おから、インゲン豆
いも類 さつまいも
果実類 プルーン、アボカド、落花生、アーモンド、クルミ

「シンバイオティクス」とは?効果的な食材の組み合わせ

プロバイオティクスとプレバイオティクスの2つを組み合わせてとる方法はシンバイオティクスと呼ばれ、どちらか単体でとるよりも効果が高まると期待されています。しかし、食品成分で特定のプレバイオティクスが対象のプロバイオティクスに対して、どのくらいの相乗効果をもたらすかについては、まだ十分な研究報告がありません。

そこで、まずは前述の各表を参考にしながら、組み合わせてみるのもおすすめです。例えば、「ヨーグルト+バナナ、ナッツ、きな粉」「納豆+ねぎ、もずく、おくら」「ぬか漬け+にんじん、アボカド」「みそ汁+玉ねぎ、豆腐、とろろ昆布」といった具合に。

実は、どれも見かけたことがあるような料理で、意識しなければ出来ないような特別な組み合わせではないのです。むずかしく考えずに、身近にある食材どうしでお気に入りの組み合わせを探してみてはいかがでしょうか?

脂肪や塩分が腸内環境に与える影響は?

そのほか、腸内環境を整えるためには、高脂肪食品をたくさんとり過ぎないことも大切です。動物を用いた実験では、キャノーラ油やラードのような飽和脂肪酸を多く含む食事により悪玉菌が増加し、それに伴って体内では血液中の毒素(エンドトキシン)の濃度が上昇、さらには脂肪組織の炎症やインスリンが効きにくくなるといった報告もあります。

逆に、魚に含まれるオメガ3多価不飽和脂肪酸(EPA、DHAなど)を多くとると、ビフィズス菌や乳酸菌(乳酸桿菌)、酪酸産生菌などの善玉菌は増加する傾向です。

一方、腸内環境を整える食事のなかには、みそや漬物、チーズなど塩分を多く含むものも少なくありません。高塩分食では乳酸菌が減少することで、炎症を誘発するタイプのT細胞が増加するなど、免疫機能にとって望ましくない研究報告もあるため注意が必要です。

まとめ

以上を踏まえつつ、普段の食事内容を振り返ってみましょう。むずかしいと感じる人はサプリメントなどを適宜、取り入れてみるのもよいかもしれません。また、最近では、自分の腸内細菌が好むプロバイオティクスを摂取しようというような商品も登場しています。

このように、“自分の腸内環境を知ってから取り組みたい”と考える人は、自由診療で受けられる「腸内フローラ検査」がおすすめです。

まずはバランスのよい食事を基本として考え、1品あるいは2品足そうと思ったときにシンバイオティクスを検討してみるのはいかがでしょうか?

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