腸管バリア機能に関する検査は、「リーキーガット検査」「腸内フローラ検査」「遅発性フードアレルギー検査」などが代表的で、どれも自由診療として受ける検査です。これらの検査目的や違いについてきちんと理解し、自分に必要な検査やその結果を受けた的確なアプローチをおこなうことで、慢性的な不定愁訴や体質の改善方法などを見つけましょう。ここでは、それぞれの検査内容や費用に加え、検査するときの注意点と、検査を推奨する人について解説します。
腸管バリア機能低下=リーキーガット+ディスバイオーシス
「リーキーガット症候群・腸もれ」と「腸管ディスバイオーシス(腸内フローラ異常)」はともに腸管バリア機能が低下して全身に慢性炎症を引き起こす状態ですが、その病態は異なります。
まず、「リーキーガット症候群・腸もれ」の病態は腸管内に張りめぐらされた腸管上皮細胞(ちょうかんじょうひさいぼう)同士を強固につなぐ、“タイトジャンクション(以降、TJ)”が損傷して緩んでいるものです。対して、「腸管ディスバイオーシス(腸内フローラ異常)」の病態はヒトと腸内細菌との共生関係が乱れることで腸管免疫細胞が正しく機能できず、宿主であるヒトに対して様々な影響を及ぼすもので、TJと直接の関係はありません。
ただ、TJの関与を調べることは、食事の選択や治療の方向性を決めていくときに役立ちます。また、TJの緩み具合を調べるゾヌリン※などの検査(リーキーガット検査)に加えて、腸内細菌の組成や状態を調べる腸内フローラ検査が一緒に検討されることも。医療機関によっては腸管バリア機能に関する検査をひとまとめにして、“広義のリーキーガット検査”と呼ぶところもあるようです。
※ゾヌリン:小麦タンパク質であるグルテンの分解物グリアジンが腸管上皮細胞に結合することで分泌されるたんぱく質の一種で、TJを形成するタンパク質どうしの結合を緩めることが報告されている。
代表的な検査の費用や流れ
腸管バリア機能に関する検査には保険適用がなく、自由診療として医療機関ごとに検査費用が異なります。また、扱う検査キットや調べる項目の種類と数によっても費用は変わるため、説明を十分に受けて納得してからおこなうようにしましょう。
代表的な検査としては、次に示す3種類が挙げられます。
リーキーガット検査
基本的にリーキーガット検査は医師の指示のもとで血液を採取し、専用の検査キットを用いて調べます。採取する血液の量はほんの少しですむため、手指の先でコンパクトな針をつかって採取することも可能です。また、一般的な血液検査と異なり、検査前の食事制限やそのあとの運動制限をする必要はありません。費用は3万円くらいで、結果は10日から2週間ほどあれば分かります。対象とする項目は検査キットによって多少の違いはあるものの、中心となるのが次に示す3つの項目です。これらの検査はいずれも、該当するタンパク質に対する抗体など免疫反応の原理を応用しています。
【(上段)検査項目の説明 (下段)その検査で分かること】
ゾヌリン | タイトジャンクションの結合を緩めるように働くタンパク質の一種 |
タイトジャンクションの緩みの有無が分かる | |
オクルディン | タイトジャンクションを構成している重要なタンパク質のひとつ |
タイトジャンクションの損傷の度合が分かる | |
カンジダ | ヒトの皮膚や粘膜と消化管に常在する真菌の一種で善玉菌が減り過ぎると異常に増殖する |
カンジダ菌由来のタンパク質に対する反応の有無で腸内から血液中へカンジダ菌が移行したことが分かる |
腸内フローラ検査
リーキーガット検査と違い、腸内フローラ検査の検査キットは個人でもインターネットなどで購入できます。その検査キット(便を採取して送付するものがほとんど)の内容はメーカーによって異なり、費用は15,000円程度から高いもので3万円を超えるものなど様々です。ただ、専門的な知識がないと、自分にあったものを選ぶことがむずかしいと感じるかもしれません。大切なのは検査の結果を受けておこなう、腸内環境の改善に向けた的確なアプローチです。
この検査を合わせることで、自分の腸に共生する腸内細菌の種類やバランスを知ることができます。人によってはこれまで体質のせいと諦めていたような不調も、腸内フローラが示す傾向から知ることができるかもしれません。 近年、AIを使って解析した研究で、日本人の腸内フローラは大きく5つのタイプ(エンテロタイプと呼ぶ)に大別できるという発表がありました。そこでは、タイプごとの食事や運動の傾向だけでなく、心臓や肝臓、神経など10を超える病気にかかる比率についても報告されています。いま現在の体質に留まらず、将来的にかかり得るリスクのある病気についても予測するための検査と考えるのもひとつでしょう。
遅発性フードアレルギー検査
遅発性フードアレルギー検査(IgG食物過敏症検査ともいう)は、アレルギー反応を示す可能性のある食べ物を予測すると同時に、「リーキーガット症候群・腸もれ」の程度を調べる検査としても知られています。
ここで、即時型と違って遅延型(遅発型)の食物アレルギーは症状が発現するまでの期間に加えて、症状そのものも特定できていません。また、食べ物に付着している添加物や残留農薬、重金属なども原因となっている可能性があります。確かなのは、これらのいわゆる異物が本来なら腸を通過して血管内に入り込むことは出来ないという点です。
つまり、この検査をおこなうことで、自分の腸の透過性についても確認できます。その方法はリーキーガット検査と同様に微量の採血でおこない、費用は調べる項目数によって変動するものの、4万円~7万円ほどが一般的です。そして検査項目は果物や穀類、スパイスといった食べ物に限らず、着色料や添加物、健康食品で話題を集めている抽出物など、170を超えて幅広く調べることができます。
【検査項目(一部を抜粋)】
乳製品 | カゼイン(牛)、ヤギ乳、牛乳、ホエイ(牛) |
穀類 | 大麦、雑穀、オート麦、ライ麦、小麦、蕎麦、タピオカ、アマランサス |
果物 | アボカド、ブルーベリー、オリーブ、ザクロ、バナナ、アサイー、 |
野菜 | ビーツ、ブロッコリー、キャベツ、ヒヨコ豆、レタス、トマト、ケール |
豆・種・ナッツ | ココア、コーヒー、大豆、インゲン豆、チアシード、キノア、ゴマ |
スパイス | バジル、シナモン、ニンニク、生姜、ローズマリー、バニラ、唐辛子 |
魚 | メカジキ、マグロ、サバ、イワシ、タラ、カレイ、サケ、マス |
甲殻類 | カニ、エビ、ホタテ貝、ハマグリ、 |
微生物 | 製パン用イースト、醸造用イースト |
添加物 | アスパルテーム、安息香酸、サッカリン、ポリソルベート80、 |
抽出物・他 | ココナッツオイル、CBD、アガベ、紅茶、赤ワイン、ハチミツ |
検査の注意点、食事や薬の影響は?
IgG抗体など免疫機能の原理を応用した検査は、使用中の薬によって影響を受けることがあります。例えば、ステロイド系と呼ばれる免疫抑制剤が代表的で、飲み薬だけでなく点鼻薬などの外用薬でも注意が必要です。
ただし、病気の治療のために医師の指示に従って使用している場合は、自己判断で中止することのないようにしてください。必ずしも、ステロイド系の薬を使っているからといって検査ができないという訳ではありません。医師へ病気や薬の内容を伝えた上で、検査のタイミングと項目などの検討をしていきましょう。
また、腸管バリア機能に関する検査は、直接的な食事の影響は受けないものがほとんどです。とくに指示がなければ普段どおりの食事で、直前の絶食もせずに検査を受けられます。
検査を推奨する人
近年、“脳腸皮膚相関”に関する研究発表が注目を集めるなか、腸内環境の乱れが様々な不調に関与しているということが一般にも広まりつつあります。その症状は疲労感や口臭、筋肉痛や抜け毛、神経過敏や不眠など一言では挙げきれません。これらの症状は今すぐに治療しなければ危険といった緊急性は低いものの、何とかしたいと思いながら過ごしている人もいることでしょう。こうした原因が分からないまま、慢性的に違和感や不調を抱えている人におすすめの検査です。
加えて、花粉症や風邪のほか、健康管理のために摂取するサプリメントなど、現代では多くの薬(市販で購入する一般用医薬品)や加工食品を手軽に取り入れることができるようになりました。その反面、人によっては特定の成分が腸内環境の乱れにつながっている可能性もゼロではありません。薬やサプリメントなどを飲んでいる人や新規で何か飲みたい人が、自分の腸の状態を知るためにも有用な検査のひとつです。
また、飽和脂肪酸や糖質の多い現代の食生活に、過度の飲酒やストレスでも「リーキーガット症候群・腸もれ」は起こりやすいと言われています。こうしたライフスタイルが続くことで腸内フローラは乱れて炎症が起こり、その炎症からゾヌリンが産生されて自覚症状がないまま、TJに緩みが生じていくことも。自分の日常生活を振り返ってみて、思い当たる節がある人は確認のために受けてみるのもよいでしょう。
さらにこのTJは腸に限らず、脳※や鼻粘膜、眼、肺などたくさんの臓器でバリア機能の要を担うことが近年の研究で分かっています。明らかに不調を来たしている場合には専門の医療機関を受診するのが基本ですが、人生100年時代の今、より健康寿命を延ばしたいと考える人は新しい健康管理の糸口として活用できるかもしれません。
※脳毛細血管の内皮細胞に存在するTJは、中枢神経系の恒常性を保つために重要な血液脳関門(Blood-brain barrier、BBB)のバリア機能で要の存在と考えられている。
まとめ
最近では、このように様々な検査を自由診療で提供する医療機関が増えてきました。これからは、“病気になったら受診する”というよりも、“自分にあった検査とケアを選ぶために受診する”という考え方が、広く一般的になっていくのかもしれません。
まずは腸管バリア機能の検査をきっかけに、自分にあったより良い健康管理のための検査を探してみてはいかがでしょうか?