2024.09.30/最終更新日 2024.09.30

腹部膨満(感)の原因や検査と治療「市販薬or受診」食物繊維は摂っちゃダメ?

腸の病気

「おなかが張る」「胃が重い」などの自覚症状が見られる「腹部膨満」では腸管そのものに病的な要素はなく、腸管ガスがたまっている状態と、胃腸の運動機能が低下している状態の2種類が考えられます。ただ、「腹部膨満感」を呈する病気にはSIBO(小腸内細菌異常増殖)やIBS(過敏性腸症候群)、便秘や感染症などもあり、これらが潜んでいないことを確認するのも重要です。「腹部膨満」を起こす原因(呑気症、発酵、運動機能の低下)と、検査の方法や受診の必要性を理解し、日常生活のなかで出来る食事やライフスタイルの見直し、より良いセルフメディケーションにお役立てください。

腹部膨満とは?自覚症状や状態

「おなかが張る」という自覚症状で表現される腹部膨満(ふくぶぼうまん)は、血液検査や内視鏡検査(胃カメラ検査、大腸カメラ検査)をおこなっても、消化管そのものに異常は見られないことが特徴です。
自覚症状としては、「おなかが張って苦しい」という訴えのほか、「おならの頻度が多い(または臭い)」「おなかが鳴る(腸が動く音がする)」「胃が重い(もたれる)」など、ストレスを感じるような症状で多岐に渡ります。その状態は大きく分けると2種類あり、ひとつは消化管にガスが溜まっている状態で、もうひとつは胃腸の運動機能が低下している状態です。

腹部膨満は病気?定義や6つの原因

腹部膨満は国際的にも病気として位置づけられています。ここで、「腹部膨満」は病気の名前、「腹部膨満感」は自覚症状という風に整理しておくとよいでしょう。

まず、世界保健機関(WHO)が発表する国際疾病分類(International Classification of Diseases:ICD)2018年版によると、腹部膨満感(abdominal bloating)には「腹部膨満(abdominal distension)」と「腹部膨隆(ぼうりゅう)(abdominal swelling)」という2種類の病気が記されています。ひとつ目の「腹部膨満」は、これといった異常がなく自覚症状が主なのに対し、2つ目の「腹部膨隆」は腹水やおなかにできた腫瘤(こぶ、固まり)など、他覚的な所見があることで生じる腹部膨満感です。
また、機能性消化器障害の国際統一基準を提唱するROME委員会が発刊している診断基準、RomeⅣ(Rome診断基準第4版)でも、腹部膨満は機能性消化管障害(FGID:functional gastrointestinal disorder)のひとつに記されています。

そして、腹部膨満感を引き起こす原因としては、それぞれ頭文字がFから始まる6つの要因が代表的です。

【腹部膨満感を起こす代表的な「6F」】
Fat 脂肪(肥満) Fluid 腹水
Flatus 腸管ガス Fetus 妊娠
Feces 便(便秘) Fatal growth 腹腔内の致死的な腫瘤

腸管ガスがたまる身近な原因とは

腸管のなかにガスがたまる原因は、大きく分けると3つあります。

空気を呑みこむ「呑気症(どんきしょう)」

1つ目は、無意識に口から空気をたくさん呑み込んでしまう「呑気症(どんきしょう、aerophagia)」。この呑気というのは、唾液(つば)を呑むときに一緒に呑み込む空気をさします。寝ている間にはほとんど行われない動作のため、朝にはガスがたまっていないのに対し、昼から夜にかけて腹部膨満感を生じることが特徴です。また、唾液を呑み込む動作はストレスによって増えることから、呑気症はストレスとも深い関わりがあると考えられています。

腸内細菌や、消化不良による「発酵」

2つ目は、私たちが食べたものに対して腸管内で微生物が働き、分解したときに生じるガスが要因の「発酵」です。これには正常な「発酵」だけでなく、消化しにくい発酵性の糖質(これをFODMAP※と呼ぶ)の消化と吸収不良や、膵臓の酵素が減っていることで脂質がしっかりと消化吸収されないために起こる異常な「発酵」も含まれます。
この「発酵」はストレスが関わる「呑気症」と異なり、日内変動や休日と平日による差はない代わりに、食事内容の影響がつよく出やすいのが特徴です。

また、腸内細菌のバランスが崩れて生じる腸内環境の乱れも、異常な「発酵」を引き起こすリスクとなるため注意しましょう。例えば、生活習慣の乱れやストレス、一部の薬※、偏った食事、食品添加物などは腸管内にすみつく悪玉菌の割合を増やし、これによってつくり出される腐敗ガスの増加につながります。

※FODMAPについては、既存記事【「腸活」や「菌活」をする前に知っておきたい!“SIBO(シーボ、小腸内細菌異常増殖)”とは】で詳しく解説しています。
※一部の薬:医師の判断に従って治療上、必要な薬を除き、自己判断で予防のために服用するような薬を指しています。

ガス排出量が少なくなる「運動機能の低下」

3つ目は、胃腸における「運動機能の低下」です。まず、胃でいうと、食べたときに胃のふくらみが不十分な胃拡張障害や、胃の内容物が腸に送り出されずにいつまでも胃で残ってしまう胃排出障害、そして胃粘膜が本来なら反応しないような刺激に対しても反応しやすくなる胃知覚過敏など。これらは主に胃周辺における腹部膨満感を呈するものの、その後につづく腸への影響もゼロではありません。

一方、大腸では蠕動(ぜんどう)運動の機能低下によって、便やガスがたまりやすくなります。この蠕動運動にはエネルギー源となる短鎖脂肪酸が必要で、これを供給しているのが私たちにとって有用なプロバイオティクスと呼ばれる腸内細菌。そして、この腸内細菌が短鎖脂肪酸をつくり出すために必要なのが食物繊維です。
こうした機能障害を引き起こす原因は様々で、近年では脳腸相関という概念も交え、ストレスが誘因の可能性も踏まえて考えるようになってきました。

潜む病気に注意!受診をすすめる人

基本的に腹部膨満は、ほかの病気によってその症状が出ていることを除外した上で診断され、治療や改善方法について検討されます。ここで、SIBO(小腸内細菌異常増殖)※やIBS(過敏性腸症候群)※、便秘※といった病気でも似たような腹部膨満感を呈することが多く、自覚症状だけでは判断が難しい場合もあって注意が必要です。
ほかにも、サルモネラやその他の腸管出血性大腸菌の感染によるものや、女性の場合は月経に伴うもの、消化管の一部がねじれた状態(捻転、ねんてん)によって腹部膨満感を生じているという可能性も。

腸内環境の乱れに心あたりがある人は、プロバイオティクスなど腸内環境を整える食事で様子を見てみるのもひとつです。ただし、1~2週間くらい続けて、改善の兆しがない場合は医療機関の受診を検討しましょう。
一方、「おなかが張って苦しい」という状況が続いて痛みも伴い、定期的な健康診断や40歳を超えて大腸検査を受けていないという人は、早めに受診することをおすすめします。そのとき、何かしら薬を使っている人は副作用で腹部膨満が起こっている可能性も視野に、お薬手帳を忘れずに持参しましょう。

※SIBO(小腸内細菌異常増殖)については既存記事【「腸活」や「菌活」をする前に知っておきたい!“SIBO(シーボ、小腸内細菌異常増殖)”とは】で詳しく解説しています。

※IBS(過敏性腸症候群)については既存記事【治療には正しい見極めが大事!過敏性腸症候群と潰瘍性大腸炎のちがい】で詳しく解説しています。

※便秘については既存記事【“便通美人”には肌荒れが少ない?便秘の種類や検査、受診するときの注意点】で詳しく解説しています。

検査や治療、改善方法について

医療機関ではまず問診と触診、必要に応じて腹部エコー(超音波)検査や内視鏡(カメラ)検査、腹部X線(レントゲン)検査などが行われます。また、原因に「発酵」を疑う場合は、呼気検査によって腸内細菌によるガスの濃度や状態を知ることも有用でしょう。
ただ、腹部膨満は血液検査で異常が認められたり、確立された治療方法があったりする訳ではないため、患者さんの訴えをもとに改善方法を検討していくことが必要です。

薬による治療方法

腸管ガスが主な原因となって腹部膨満を起こしている場合は、消泡剤(しょうほうざい)と呼ばれる薬(一般的名称:ジメチコン)を使って治療することがあります。その薬理作用は、腸管内の小さなガスの気泡における表面張力を低下させることにより、その気泡を破裂して消泡作用を発揮するというもの。医師による処方薬として使えるほか、市販薬(第3類医薬品)として薬局やドラッグストアなどで購入することも可能です。
ただし、ずっと継続して服用するタイプの薬ではなく、根本的な改善方法にはならないことに注意しましょう。

そのほか、胃腸の機能低下が原因となって腹部膨満を起こしている場合には、消化管運動を調整する薬や健胃消化薬※などが医師の診断により提案されることもあります。

※健胃消化薬:消化器症状の改善を期待する総合胃腸薬で、消化酵素と制酸剤、生薬など複数の有効成分を配合した薬のこと。

食事による改善方法

バランスのよい食生活やプロバイオティクスなどで腸内環境を整えておくことはもちろん、食物繊維については水に溶けない不溶性食物繊維(water-insoluble dietary fiber ; IDF)を過度に摂り過ぎないようにしましょう。
不溶性食物繊維が豊富に含まれている主な食品は、いも類や豆類、キノコ類、甲殻類(エビやカニ)の殻など。繊維質な野菜では、ほうれん草やキャベツ、ゴボウなども代表的です。不溶性食物繊維は保水性がよく、便のかさ増しや腸の蠕動運動の促進、脂肪や胆汁酸などの排出作用が期待できると言われています。ただし、現状でおなかの張りが苦しい人では、腸内で便の嵩がより増えて症状が悪化する可能性もあることに注意が必要です。

一方の水溶性食物繊維(water-soluble dietary fiber ; SDF)は、水分を吸収してゲル化することにより胃腸粘膜の保護や空腹感の抑制作用、糖の消化吸収を緩やかにし、胆汁酸の再吸収を抑えることでコレステロールの産生を減らす作用が期待できます。代表的な食品は、こんにゃくや海藻、オクラやモロヘイヤ、イチゴなど。また、タマネギやニンジンなどに含まれるイヌリンという成分は善玉菌のエサとなり、腸内環境を整えることにも役立ちます。

このように、食物繊維は不溶性と水溶性のバランスを考えながら、1日25gを目標に取り入れていくのがポイントです。そして、おならの頻度が多くて困っている人では異常な発酵を抑えるために、高FODMAP食品や脂質を多く摂り過ぎないことも心がけましょう。

生活習慣の見直しによる改善方法

腸管内ガスがたまるために起こる腹部膨満は、ガスの産生量と排泄量のバランスが崩れることも誘因のひとつです。一般的に、ヒトのおならの回数は個人差があるものの、1日に13~21回くらいと言われています。つまり、出来るだけこれがストレスに感じることのないような環境の確保や、タイムスケジュールを組むことも大切です。

また、自律神経の乱れやストレス、睡眠不足などは脳腸相関の視点でいうと、腸にとってわるい影響を与えかねません。適度な休憩や深呼吸、リラックスできる時間を設けるなど、日常生活のなかで出来ることを振り返ってみましょう。
そして、適度な運動も大切で、とくに腰回りをひねるような動作があるラジオ体操やストレッチ、ヨガなどがおすすめです。

まとめ

腹部膨満は心理社会的な要因がその状態に大きく関与している可能性があり、日本だけでなく世界中で悩んでいる人が多い病気のひとつです。現代では、個々の判断で食事による改善や市販薬による一時的な対処について取り組めるものの、腹部膨満感の影に潜む病気や自分では気付いていない体質、目で見えない腸内環境について確認することが重要です。
「ちょっとおなかが張るだけだから」と軽く考えずに、自分に合った対策方法について、医師と一緒に向き合ってみませんか。

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