2026.05.29/最終更新日 2026.05.29

「MASLDと腸肝軸」連載② 腸内細菌と脂肪肝の関係、検査方法と日常で行う5つの対策

肝臓の病気

MASLD(代謝機能障害関連脂肪性肝疾患)の発症や進行には、腸内細菌も深く関わっています。これを裏付けるのが、腸と肝臓が密接に関連し合う「腸肝軸(gut–liver axis)」というネットワークです。腸管バリア機能が低下すると、さまざまな異物が腸から肝臓へと流れ込み、持続的な炎症を引き起こします。そのため、腸内環境を整えることは、減量や運動に並ぶ新たな脂肪肝対策として欠かせません。

連載第2回となる今回は、腸内細菌が肝臓に与える影響や「腸肝軸」のしくみ、MASLDの検査方法に加え、日常生活で実践できる5つの対策を紹介します。健康診断で脂肪肝を指摘された人も、健康なうちから予防していきたい人も、正しい知識を身に付け、自分にあった「肝臓ケア」に取り組むために本記事をお役立てください。

MASLDの発症には腸内細菌の関与も大きい

MASLDの発症には、過食や運動不足による脂肪蓄積だけでなく、実は腸内細菌が深く関わっています。近年の目覚ましい解析技術の進化によって、肝臓と腸が密接に連携し合うネットワークの重要性が解明されてきました。

MASLDでは、腸内細菌叢(さいきんそう)の乱れや小腸内細菌の異常増殖(SIBO)などにより、腸管バリア機能がもろくなっているケースが多く見られます。バリアが壊れると、増殖した悪玉菌や、腸内細菌の構成成分である「LPS(リポ多糖類)」、細菌由来の代謝産物や毒素などが、本来よりも多く肝臓へ流れ込みます。

これが肝臓で炎症のスイッチを入れ、弱いながらも持続的な炎症を引き起こします。この慢性的なダメージこそが、MASLDから炎症を伴うMASHへと悪化させる大きな要因となっている可能性があるのです。

実際、脂肪肝や脂肪性肝炎であるヒトの腸内では、LPS(リポ多糖類)を供給する大腸菌が増加していることが分かっています。さらに、腸管バリアの破綻による異物や毒素の流入は、肝臓だけに留まらず、血液に乗って全身へと広がることに。

こうして引き起こされた慢性炎症は、肝臓や筋肉でのインスリン抵抗性を高め、MASLDを含むさまざまな病気のリスクにつながります。加えて、この全身性の持続的な炎症は、老化の主な原因といわれる「インフラメイジング(炎症性老化)」※を招く一因にもなりかねません。

現在、こうした腸と肝臓のネットワークに着目し、腸管バリア機能を整えることがMASLDの新たな治療法になり得るとして、その展開が期待されているところです。

※インフラメイジング(炎症性老化)については、既存記事『「健康長寿と腸内細菌」連載① 老化スピードを左右する腸内環境、話題の長寿菌とは?』で詳しく解説しています。

腸と肝臓を結ぶ「腸肝軸(gut–liver axis)」とは?

腸と肝臓のネットワークは「腸肝軸(gut–liver axis)」、あるいは「腸肝相関(ちょうかんそうかん)」とも呼ばれ、近年、主に専門家の中で非常に注目を集めている研究課題です。しかし、一般的にはまだあまり知られていません。

これは、腸と肝臓がタッグを組んで生体防御に関わるという考え方です。腸が備えるバリア機能と、肝臓が備える免疫システム。この両方が連携して働くことで、全身をめぐる血液をきれいな状態に維持し、私たちの身体を外敵や毒素から守り抜いているのです。

ヒトの腸には巧みなバリア機構※が存在するものの、完璧ではありません。もし、異物がこのバリアを通過してしまった場合は、血流に乗って肝臓へと運ばれます。そこでは「クッパー細胞(肝マクロファージ)」という独自の免疫部隊が待ち構え、これら血液中の有害なものを処理します。この二段構えの防衛線を経て、きれいになった血液はその後、全身へと送り出されます。

また、食生活の内容がこの腸肝軸の「概日リズム」にまで影響を与えることが、マウスを用いた実験で明らかになってきました。高脂肪食によって脂質異常の状態が続くと、腸と肝臓の間でリズミカルに分泌されていた代謝物の流れが消失し、肝臓で時計のように働く遺伝子の発現が狂います。その結果、肝臓での脂質代謝に異常が見られるほか、腸内細菌叢のリズムまでもが乱れやすくなることが分かったのです。

これは、腸内細菌の代謝物が「腸肝軸」を介して、双方の概日リズムを制御しているという事実を物語っています。

つまり、肝臓における脂質の代謝を正常化し、MASLDを改善していくためには、腸内細菌叢を整えるアプローチも必要なのです。
※腸管バリアについては、既存記事『腸管バリアのしくみと機能。食事と腸内細菌が大きく関与!』で詳しく解説しています。

MASLDの検査方法

MASLDのスクリーニングとして広く活用されているのは、血液検査のデータから算出する「FIB-4 index」という指標です。算出に必要な検査項目は、年齢、AST、ALT、血小板数の4項目。これらは健康診断でもお馴染みの項目で、幅広い診療科でも測定可能なため、より早い段階で専門医につなぐための有効な手段となっています。

また、代謝系の病気を持つ人は、年に1回は腹部エコー検査などで脂肪肝の有無を確認することが必要です。

まず、FIB-4 indexが「1.3以上(65歳以上は2.0以上)」であれば、肝臓の線維化が進んでいる可能性があるため、精密検査が検討されます。その後、超音波やMRIを用いた「エラストグラフィ(肝硬度測定)」などの画像診断を行い、脂肪の変性や線維化の重症度について詳しく調べます。

通常はこうした外科的処置を伴わない非侵襲的(ひしんしゅうてき)な検査で十分です。しかし、糖尿病や肥満、脂質異常症を抱える人で、肝臓と腸を結ぶ門脈の圧力が高い兆候が見られる場合や、AST・ALTの数値が6ヶ月以上にわたって高いまま推移する場合などは、肝臓の組織を一部採取して行う「肝生検」が必要になることもあります。

日常生活の中でできるMASLD対策

現時点ではまだ、MASLDに対して保険適用が認められた確固たる治療薬は存在しません。しかし、これまでの知見を踏まえ、日常生活の中でできる対策を実践していくことは、MASLDの発症予防と進行を食い止めるために大いに役立つと考えられます。

肥満の人と非肥満の人、それぞれの注意点

MASLDの改善において、食事・運動療法による減量は最も効果が高く、科学的根拠もしっかりとした方法です。肥満があり、線維化を伴うMASHの状態にある人では、7%の体重減少が状態の改善に有用であることが明らかになっています。

一方、日本人は太っていなくても脂肪肝になる人が約30%存在し、いわゆる「痩せ型(非肥満)のMASLD」です。この場合、わずか3%の減量でも肝臓の状態が改善する可能性があると考えられています。最初の目標はあまり高く設定せず、できることからコツコツと始めていくことが、継続と確かな成果につながるでしょう。

また、年齢や体質によってアプローチは異なります。若い世代の痩せ型では、内臓脂肪を筋肉に変えるイメージで、総カロリーや糖質・脂質の制限に加え、しっかりと運動を組み合わせることが大切です。

対して、高齢の痩せ型では、筋肉量が少ない「サルコペニア」の状態に近いケースも多いため、過度なカロリー制限は禁物。適切な糖質・脂質に加え、筋肉の材料となるタンパク質をしっかり摂り、筋力を維持するための運動を優先するようにしましょう。

MASLDの改善には、単に「痩せればいい」というわけではなく、年齢や筋肉量、病気の有無といった一人ひとりの背景に合わせたパーソナルな取り組みの実践が大切です。

運動だけでも肝機能と肝脂肪化は改善する

たとえ食事制限を伴わなくても、運動療法だけでMASLDの肝機能や肝臓の脂肪化が改善することが分かっています。特に注目したいのが、スクワットなどの「レジスタンス運動(筋トレ)」です。レジスタンス運動は、ウォーキングなどの有酸素運動に比べて運動中のエネルギー消費量自体は少ないものの、肝脂肪化を改善し、効率よく筋肉量を増やす効果があります。

レジスタンス運動による全身の脂肪燃焼能力を高める効果は絶大で、運動後も最大48時間にわたって、エネルギー消費量が増加し続けることが分かっています。さらに、心肺系への負担も比較的少ないため、体力に自信がない人にとってもおすすめです。

また、「サルコペニア」を伴うMASLDで、筋肉不足と内臓肥満が重なった「サルコペニア肥満」の状態は、単なる肥満よりも代謝の異常や身体障害のリスクが高いことが知られています。こうした「痩せ型」の傾向がある人にとって、運動療法は内臓脂肪の蓄積を抑えつつ、筋肉量の減少を防ぐという両面でとても効果的です。

最も理想的なのは、体脂肪を減らす有酸素運動と、筋力を高めるレジスタンス運動を組み合わせること。これにより、肝臓の状態改善はもちろん、歩行速度の向上といった身体機能の維持にもつながります。

食生活では脂質の内容とビタミンEに注目

高脂肪食の継続的な摂取を控えることは、前述した「腸肝軸」の概日リズムを保つために重要です。また、近年の研究では、摂取する「油(脂肪酸)の種類」が腸内細菌叢の構成に変化をもたらし、それが肥満やインスリン抵抗性の引き金になることが明らかになってきました。

食事に含まれる脂肪酸組成の違いは、腸内における特定の菌の増減をダイレクトに左右します。研究では、マウスに対し魚油に多く含まれるDHAやEPAといった「多価不飽和脂肪酸」を継続的に摂取させると、善玉菌の代表格ともいえるラクトバチルス属(Lactobacillus)やビフィドバクテリウム属(Bifidobacterium)などが顕著に増加することが確認されました。さらに、インスリン感受性など肥満に伴う症状の改善効果が実証されて最近注目を集めている、アッカーマンシア属(Akkermansia)の増加も見られています※。

これとは対照的に、ラードなどに含まれる「飽和脂肪酸」の継続的な摂取では、バイロフィラ属(Bilophila)やバクテロイデス属(Bacteroides)が増加しました。これに伴い、血液中での細菌由来毒素の濃度は上昇し、脂肪組織への炎症やインスリン抵抗性が引き起こされることが観察されたのです。

脂質の内容に加え、ビタミンEの摂取も意識しましょう。ビタミンEは、強力な抗酸化作用を持つことで、生体膜に発生する活性酸素を防ぎ、細胞にダメージを与える過酸化脂質(酸化された脂質)を消去する役割を担います。

MASLDから進行したMASHの状態では、肝臓への脂肪酸流入の増加や、肝臓内におけるミトコンドリア異常によって強い「酸化ストレス」が生じていることも特徴です。ビタミンEの摂取は、蓄積する脂肪酸の酸化と、肝臓内ミトコンドリア由来の酸化ダメージの両方に対して効果を発揮することが期待できます。

※アッカーマンシア属を含む腸内細菌と肥満に関する情報は、既存記事『その肥満、腸内細菌のせいかも?サイエンスから導く効果的な6つの取り組み』で詳しく解説しています。

発酵性食物繊維の摂り過ぎに注意

健康に欠かせない食物繊維も、その種類と量には注意が必要です。最近の研究では、イヌリン※などに代表される「発酵性が高い食物繊維」の摂り過ぎにより、腸内細菌による発酵代謝物(短鎖脂肪酸など)が過剰に産生され、これが肝臓に悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

マウスを用いた実験では、この過剰な発酵代謝物が「胆汁うっ滞」を引き起こし、肝細胞へのダメージや、肝がんを促進する一因となるケースが確認されました。この現象は無菌マウスでは見られないことから、腸内細菌が深く関与していることが示唆されています。さらに、過剰な発酵を抑えることで、これらの状態が改善することも分かっています。

一方で、セルロースなどの「発酵性が低い食物繊維」では、こうした悪影響は見られませんでした。食物繊維は「とにかく多く摂れば良い」というわけではなく、種類に偏りなく、多彩な食材から適量を摂取していくことが、腸と肝臓を健やかに保つための大切なポイントです。

※イヌリン:菊芋やゴボウ、たまねぎ、にんにくなどに含まれる、発酵性をもつ水溶性食物繊維。血糖値の抑制や脂質異常症の改善、炎症性腸疾患などに対する有用性が報告されている。

※発酵性食物繊維については既存記事『発酵性食物繊維の短鎖脂肪酸が腸活の鍵!食品や効果的な摂り方』で詳しく解説しています。

短鎖脂肪酸が豊富な腸内環境を維持する

前述のとおり、偏った食物繊維の過剰摂取には注意が必要ですが、短鎖脂肪酸(酪酸、酢酸、プロピオン酸)が豊かに産生される腸内環境を保つことは、肝臓を健やかに保つために欠かせません。

例えば酪酸は、身体の隅々で免疫反応を制御する「Treg細胞(制御性T細胞)」を増やして腸の炎症を鎮めるほか、酢酸とともに腸管粘膜に存在する「ゴブレット細胞」からのムチン(粘液の成分)産生を促し、腸管バリア機能を維持します。バリア機能の維持は、肝臓への異物や毒素の侵入を防ぐために重要です。

さらに酢酸には、大腸L細胞からの消化管ホルモン「GLP-1」の分泌や、内分泌細胞からの食欲抑制ホルモン「PYY」の分泌を調節し、肥満を防ぐ効果も臨床研究で明らかになっています。

また最近では、短鎖脂肪酸が脂肪細胞での脂肪蓄積を抑え、ほかの組織では取り込まれなかった脂質や糖の代謝を促進することも明らかになりました。このように適切なバランスの短鎖脂肪酸は、肝臓への負担を減らすだけでなく、全身の代謝改善を通じて、肥満予防とともにMASLDの強力な対策となるのです。

まとめ 健康診断で「脂肪肝」と言われたら

脂肪肝は遺伝的な体質や持病、腸内細菌といったさまざまな要因が複雑に絡み合って起こる健康課題です。MASHへと進行し、精密検査が必要になった場合には、詳しい画像診断や肝生検が可能な医療機関の受診が欠かせません。しかし、MASLDの段階であれば、脂肪の酸化や「線維化」を食い止めるための、日常生活における習慣改善が非常に大きな意味を持ちます。

加えて、「腸肝軸」の視点から、腸内細菌へアプローチすることも見逃せません。現在では、「腸内フローラ検査」によって自分自身の腸内細菌叢を簡単に可視化できるようになりました。また、自由診療を提供する専門の医療機関では、「リーキーガット(腸漏れ)検査」などで腸管バリアの状態を把握することも可能です※。

より効率的に腸内環境を整えたい場合は、医療機関での「腸内洗浄」や「善玉菌注入療法」を受けるといった選択肢もあります。大切なのは、脂肪肝を甘く見ず、まずは自分の状態を正しく知ること。根拠に基づいた自分にぴったりの「腸肝軸ケア」を見つけ、実践的な健康管理を進めていきましょう。

※腸管バリアの状態を把握する検査については、既存記事『「腸管バリア(リーキーガット)検査」で腸の状態を知り、自分にあったケアを!』で詳しく解説しています。

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