「リーキーガット症候群(腸漏れ)」では、環境汚染物質であるマイクロプラスチックが腸内に沈着することが動物実験で示され、さらに、骨粗しょう症や認知症などの加齢関連疾患のバイオマーカーとの相関性も明らかになってきました。2025年には、特定のプロバイオティクス摂取が亢進した腸管透過性を改善するという科学的な裏付けも。いま世界中で研究が加速するリーキーガットの概略から、関連する病気一覧、腸活と一緒に実践したい10の予防対策まで、最新の知見に基づき解説します。
リーキーガット症候群(腸漏れ)とは?
リーキーガット症候群・腸漏れ(Leaky Gut Syndrome、以下リーキーガット)は腸管壁侵漏症候群(ちょうかんへきしんろうしょうこうぐん)とも呼ばれ、腸の粘膜バリアが壊れることで、様々な異物が腸管内から身体の中へ漏れてしまう状態を指します。通常、腸の内壁にはタイトジャンクション(以降、TJ)という、腸管の上皮細胞とその隣の上皮細胞とを接着させるような構造があるため、異物はこの粘膜バリアを通過できません。

しかし、TJを緩めることが分かっている小麦タンパク質(グルテン)や飲酒、高脂肪食などが原因となってこの構造が崩れると、腸の透過性が高まり、血液中に漏れ出した異物が全身に及んで様々な炎症や免疫異常を引き起こすのです。

また、添加物の多い食事や過度のストレス、ライフスタイルの乱れも腸内環境の悪化をもたらし、腸内細菌のなかで悪玉菌の増加に伴い生じた腐敗ガスが上皮細胞を傷付ける結果、粘膜バリアが壊れてリーキーガットを引き起こします。
より詳しく、腸管バリアについて知りたい方は、既存記事『腸管バリアのしくみと機能。食事と腸内細菌が大きく関与!』を参考にしてください。
2025年、注目の研究報告3つ
昨今、リーキーガットに関する研究は世界的に加速しています。たとえば、プロバイオティクスの摂取に関する科学的根拠に基づいた推奨の動きや、加齢関連疾患との関連性を支持する研究報告など。さらに、世界的に注目されている「マイクロプラスチック」との関係といった多角的な視点からも、リーキーガットの実態が徐々に明らかになりつつあります。

プロバイオティクスを摂ると亢進した腸管透過性が改善する!
まず、2025年1月に発表された、腸内細菌Lactiplantibacillus plantarum 22 A-3 (略称LP22A3)に関する研究報告について。LP22A3はナス科の漬物から発見された植物由来の乳酸菌(いわゆるプロバイオティクス)で、すでに有効性が実証されている菌株のひとつです。実験では、意図的にリーキーガットを誘発させたマウスにLP22A3を経口投与したところ、亢進していた腸管の透過性が改善したことが報告されました。
このとき、小腸では「抗炎症性サイトカイン」(IL-10など)が誘導され、結腸では「炎症誘発性サイトカイン」(IL-1βやTNF-αなど)の発現が有意に抑制されていたことも確認されています。さらに、免疫応答を調節する因子であるFoxp3(forkhead box P3)の発現が、小腸と結腸の両方で増えていたことから、制御性T細胞(Treg;regulatory T cells)の活性化が示唆されました。
制御性T細胞は過剰な免疫反応を抑える役割を担い、Foxp3はその調節に関わる重要な因子です。つまり、LP22A3の経口摂取によって、免疫が自身を誤って攻撃してしまう過剰な免疫応答を抑えられる可能性があります。
なお、これらの作用は腸内細菌が産生する代謝物によるものではなく、LP22A3そのものの成分による作用であることが、生菌と死菌の両方を用いた研究で示されました。今後、LP22A3がヒトにおいてどのような生化学的メカニズムで作用するのかも解明されれば、プロバイオティクス摂取の有用性がさらに確立されていくことでしょう。
加齢関連疾患とリーキーガットのバイオマーカーは相関する
2024年12月、加齢関連疾患とリーキーガットとの関連性について、既存の文献を整理した論文が発表されました。
骨粗しょう症や認知症を始めとする多くの加齢関連疾患は、加齢に伴って生じる慢性でレベルの低い全身性炎症(これをインフラメイジングと呼ぶ)に関与していると考えられています。一方、リーキーガットは、加齢関連疾患を含む様々な病気で見られ、加齢に伴う腸と似た構造的変化が見られることも事実です。
リーキーガットは炎症性腸疾患 (以降IBD)や過敏性腸症候群 (以降IBS)、腸管免疫応答の延長線上にある自己免疫疾患などに関与することが知られています。ただし、インフラメイジングとの明確な関連性については、まだ解明されていません。
その反面、健康な人と比較し、骨粗しょう症の発症リスクがIBDで約1.3倍、IBSで約2倍と高いことや、認知機能の低下はIBDで実行機能や作業記憶において有意差があり、全体的な認知症の発症リスクも高いことが研究で明らかになっています。
また、加齢に伴う腸内では、腸管上皮のターンオーバー※やタイトジャンクション(TJ)を構成するタンパク質の発現における変化、腸管神経線維の密度減少などもよく見られる特徴です。これらの変化で生じる腸管バリアの劣化や腸管透過性の亢進、そして炎症は、リーキーガットの特徴とよく一致します。
最近ではアカゲザルを用いた研究により、リーキーガットのバイオマーカーである腸管脂肪酸結合タンパク質※やLPS(リポ多糖類)結合タンパク質※などが、加齢に伴う数々のバイオマーカー※と相関することも示されました。
こうした研究結果もあって、加齢関連疾患そのものがリーキーガットの表現型のひとつである可能性が指摘され始めています。
※腸管上皮のターンオーバー(腸管上皮組織の再構築):腸管上皮幹細胞の働きによって、損傷した腸管粘膜を修復かつ再生し、バリア機能や吸収機能を取り戻すこと。
※腸管脂肪酸結合タンパク質(I-FABP):小腸粘膜の上皮細胞に存在するタンパク質で、細胞内への脂質の輸送に関わる。腸粘膜の損傷で血液中に放出されるため、小腸障害のバイオマーカーとして期待されている。
※LPS結合タンパク質(Lipopolysaccharide Binding Protein;LBP):炎症シグナルを細胞内に誘導するタンパク質の一種。腸内細菌由来のリポ多糖(LPS)が血中に侵入した際、炎症の成立に関わるバイオマーカーとして期待されている。
※加齢に伴うバイオマーカー:現状では、腸管透過性亢進を防ぐサイトカイン(IL-22、IL-17)の発現減少や、炎症性サイトカイン(IL-6、TNF-α、IL-1β)の上昇などを指標としている。

リーキーガットで「マイクロプラスチック」が腸に沈着
いま、世界中で環境への影響に加え、ヒトへの健康被害も懸念されているマイクロプラスチック(以下、MP)とリーキーガットの関連性についても臨床研究が進められています。MPとは、プラスチック製の廃棄物が海洋に流出して生じた、直径5ミリメートル(mm)以下の小さなプラスチック粒子です。
世界で初めてMPが発見されたのは1972年、北大西洋の海水表面で発見され、研究結果は国際科学誌「Science(サイエンス)」に掲載されました。その後、海洋汚染に関する研究が進展する中、2004年にはリチャード・トンプソンによって「マイクロプラスチック」と命名されます。さらに、2010年から2020年までの論文投稿数は、前の10年間と比べて約20倍に増加しました。
MPの毒性については不明な部分が多いものの、最近の研究では、経口摂取されたMPが体内に入り込むと健康被害を引き起こす可能性が示唆されています。ここに関与しているのが、リーキーガットと高脂肪食です。
2023年に国内で発表された研究では、代表的なMPのポリスチレン粒子を水に混ぜてマウスへ経口摂取させたところ、普通食と高脂肪食では血糖値や脂肪肝などの代謝障害について明らかな差が見られました。
結果は、高脂肪食を与えたマウスの群が普通食を与えた群に比べ、血糖値と脂肪肝が悪化。加えて、小腸では前者の群で粘膜が萎縮(いしゅく)し、腸管粘膜バリアを構成するムチン層※も薄くなっていることが示され、そこにMPが沈着していたのです。
これらの背景には、高脂肪食によって誘発されたリーキーガットの存在が大きいと考えられています。現代の日本では、食の欧米化によって高脂肪食を摂取する機会が増え、小腸粘膜にMPが沈着した状態で日常生活を送っている人もいるかもしれません。
今後、MPが生体に及ぼす影響のさらなる解明が期待される一方で、私たち一人ひとりが腸の健康を守るための食習慣を見直すことも必要でしょう。
※腸管バリアやムチンについては、既存記事 『腸管バリアのしくみと機能。食事と腸内細菌が大きく関与!』で詳しく解説していますので参考にしてください。
リーキーガットの関与が疑われる病気一覧
腸内細菌叢(腸内フローラ)の乱れ(dysbiosis、ディスバイオーシス)は、リーキーガットを介して消化器系疾患だけでなく、様々な病気と関連することが明らかになっています。
たとえば、糖尿病や肥満、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)といった代謝性疾患に加え、アトピー性皮膚炎や喘息などの自己免疫疾患もその一例です。さらに、脳腸相関の観点からは、うつ病やASD/ADHDといった精神疾患、アルツハイマー病などの神経変性疾患との関連も示唆されています。
今後、前述したインフラメイジングとの関係が明確になれば、加齢関連疾患も新たに加わる可能性があるでしょう。

※自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠陥多動性障害(ADHD)については、既存記事『不器用は「大人の発達障害」かも?自閉症スペクトラム症と腸内細菌の関連性』で詳しく解説していますので参考にしてください。
※機能性ディスペプシア(FD)については、既存記事『胃痛の原因は内臓の知覚過敏かも?「機能性ディスペプシア(FD)」の特徴と検査』で詳しく解説していますので参考にしてください。
リーキーガットは医療機関を受診した方がいい?
不調や不安を感じている人は我慢せずに、内視鏡検査などが可能な専門の医療機関を受診することが大切です。ただし、現時点で腸管バリア機能の状態を調べる「リーキーガット検査」は保険適用外のため、受けるには自由診療を提供している医療機関を選ぶ必要があります。
あわせて、治療が必要となった場合に備え、乳酸菌サプリメントの提案を受けられるかどうかや、「腸内環境リセット療法(腸内洗浄)」などの提供状況について、事前に確認しておくと安心です。
より詳しい検査の内容や費用、受診の注意点などを知りたい方は、既存記事 『「腸管バリア(リーキーガット)検査」で腸の状態を知り、自分にあったケアを!』を参考にしてください。
腸活とセットで取り組むリーキーガット予防
リーキーガットは様々な因子によって発症することが知られているものの、「これだけを実践すれば予防できる」といった、確実な予防対策は明らかになっていません。そのため、日頃から腸を守る生活習慣を意識し、継続して取り組むことが大切です。こうした習慣の多くは、近年、広く認知されてきた“腸活”とも重なる点が多く見られます。
たとえば、発酵性食物繊維の摂取は、腸内細菌によって大腸で発酵されることで短鎖脂肪酸を産生し、これが腸上皮細胞のエネルギー源となって腸管バリア機能を強化。さらに、消化管ホルモンGLPの分泌促進や、大腸粘膜からの粘液分泌も促進、粘膜血流の増加など、多くのメリット※も期待できます。
また、必須微量元素である亜鉛や、抗酸化作用をもつポリフェノールは、腸管TJバリアの強化と保護につながるため、積極的に摂取したい栄養素です。
※短鎖脂肪酸の腸に対する有益な機能は、既存記事『発酵性食物繊維の短鎖脂肪酸が腸活の鍵!食品や効果的な摂り方』で詳しく解説しています。

一方で、高脂肪食は、過剰な脂質とそれに伴う胆汁酸の消化管内への流入増加によって、小腸のTJを構成するタンパク質※の発現量が低下し、バリア機能の低下を招く可能性があります。
さらに、アルコールは腸上皮細胞を直接障害するほか、TJの破壊を通じて粘膜の透過性を高めます。加えて、アルコール代謝により発生する活性酸素(ROS)は、酸化ストレスを介して細胞障害を引き起こすというリスクも。
食品添加物(乳化剤、防腐剤、人工甘味料、香料、着色料など)については、TJの透過性亢進や腸内細菌叢の構成変化、粘液産生の減少、炎症の増加などを引き起こすことが動物実験で報告されています。ただし、すべての食品添加物が微量でも有害であるというわけではありません。極力、加工度合の高い「超加工食品」の摂取を控えるようにしましょう。
※小腸のTJを構成するタンパク質:Occlduin、Claudin-1、Claudin-3、JAM-1

リーキーガットは現在のところ、治療や診断に用いるガイドラインが定まっていない一方で、研究は日々進展し、新たな知見が次々と報告されています。科学的根拠に基づいた“腸活”と予防習慣を日常に取り入れ、ベストな腸内環境を目指しましょう。