2026.09.30/最終更新日 2026.09.30

更年期と胃腸の不調との深い関係 「エストロボローム」など3つの原因と対処法

ホルモン

更年期世代で起こる「便秘や下痢」「お腹の張り」など胃腸の不調は、女性ホルモンの変化だけでなく、ストレスや生活習慣、腸内環境などさまざまな要因が絡み合って現れます。この記事では、代表的な2種類の女性ホルモンの働きから、更年期症状と間違えやすい病気、胃腸の不調に関係し得る3つの原因、そして近年注目を集める「エストロボローム」についてまとめました。

さらに、更年期障害を疑うときのチェックリストや、相談したいときの窓口・診療科を知ることで、不安定な更年期を無理なく乗り越え、健やかで我慢しないセカンドライフを築いていきましょう。

更年期と閉経の定義

更年期とは、閉経前の5年間と閉経後の5年間を合わせた計10年間を指します。日本人の平均的な閉経年齢は50.5歳のため、一般的には45〜55歳頃が目安です。ただし、閉経の時期には個人差が見られます。

閉経は、妊娠や病気など別の原因がなく、最後の月経から12か月以上月経がないことを確認して判断します。この時期、女性ホルモンの一種「エストロゲン」の急激な減少によって起こる心身の不調が「更年期症状」。そして、ほかの病気による症状を除いたうえで、日常生活に支障をきたす状態が「更年期障害」です。

閉経と同様に、症状の程度や続く期間にも個人差があり、更年期に該当するすべての人に更年期症状が現れるわけではありません。

女性ホルモン2つの主な働き

女性ホルモンとは、おもに卵巣から分泌される「エストロゲン」と「プロゲステロン」の2種類を指します。これらは月経周期や妊娠などに関わるだけでなく、女性の心身のさまざまな働きに影響しています。

なかでもエストロゲンは、子宮内膜を増殖させて妊娠の準備を進めるほか、自律神経の働きや骨量の維持、脂質代謝、皮膚のハリや潤いなど、全身の健康に幅広く関わっています。

一方のプロゲステロンは、排卵後に分泌量が増え、妊娠しやすいように子宮内膜の状態を整えたり、乳腺の発達を促したりするホルモンです。また、基礎体温を上昇させる作用があり、月経周期に伴う眠気や食欲、むくみ、気分などの変化にも、エストロゲンとともに関わっていると考えられています。

これら女性ホルモンの分泌量は、女性のライフステージに応じて大きく変化します。特にエストロゲンは、思春期になると分泌量が増え、性成熟期には月経周期に伴って変動します。更年期には分泌量が大きく揺らぎながら低下し、閉経後は低い状態になります。こうした女性ホルモンの変化は、それぞれのライフステージに特有の心身の変化や健康課題とも深く関係しています。

多岐にわたる更年期の症状

更年期症状は100種類近くあるとも言われ、その多くは原因や理由がはっきりしない不定愁訴(ふていしゅうそ)です。主な症状は、「血管運動神経症状」「精神症状」「泌尿生殖器症状※」「その他」に大別されます。

なかでも日本女性は、倦怠感(けんたいかん)や肩こり、物忘れの頻度がいわゆる“ホットフラッシュ”よりも高いことが報告されています。また、一人の女性が同時に多くの不調を抱えるケースも少なくありません。

【更年期症状の例】

血管運動神経症状

ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ・発汗)・動悸・冷え
精神症状 うつ・不安・イライラ・意欲低下(無気力)・不眠
泌尿生殖器症状※ 尿もれ・頻尿・性交痛・子宮脱※
その他 頭痛・肩こり・腰痛・関節痛・倦怠感(だるさや重苦しいなど)・疲労感・めまい・耳鳴り・乾燥・かゆみ

※エストロゲン低下に伴う泌尿生殖器症状は、最近ではGSC(genitourinary syndrome of menopause、閉経関連尿路性器症候群)と呼ばれています。
※子宮脱:筋肉や靭帯などの組織が緩んでくることにより、骨盤内の臓器の位置が本来よりも下がることを「骨盤臓器脱」といい、「子宮脱」は子宮の位置が下がってくること。

近年の課題となっているのが、妊娠・出産の機会減少に伴う月経回数の増加が健康に与える影響や、働き盛りの時期に訪れる更年期症状の影響です。加えて、平均寿命の延伸による老年期の長期化などにも対応していくため、社会全体で健康課題に応じた理解と対策が欠かせません。

特に更年期は、うつ病の好発時期でもあるほか、仕事への影響から“更年期ロス”と呼ばれる労働面での損失も問題視されています。

症状の現れ方やQOL(クオリティ・オブ・ライフ)への影響には大きな個人差があり、心身の変化だけでなく家庭や職場といった社会的要因も重さに影響します。自身の心身の変化を感じたら、放っておかずに向き合って適切に対処していくことが大切です。

更年期の症状と間違いやすい病気や原因

更年期の不調は他の病気が原因のこともあるため、すべての不調を更年期症状と決めつけないように注意が必要です。実際に、似たような不調を呈する病気は数多くあります。

例えば、「指のこわばり」は関節リウマチや変形性関節症、「めまい」はメニエール病や貧血などが隠れている可能性も。

また、病気だけでなく、高血圧症の治療でつかう薬(分類:カルシウム拮抗薬)の副作用により、顔面紅潮(顔が赤くなる現象)や動悸が現れている場合もあります。そのほか、骨粗しょう症の治療薬(分類:SERM)の副作用によって、ほてりや足の痙攣などが見られることも。一方、痛みやしびれの治療薬による副作用で、吐き気や便秘、食欲不振といった胃腸の不調が引き起こされているケースも珍しくありません。

更年期に起こる不調に対しては自己判断せず、使用している薬の情報も医師に共有しながら、適切に対応していくことが大切です。

胃腸の不調と関連し得る3つの原因

更年期症状の原因は、ホルモンの変化による要因をはじめ、置かれている状況などの社会的・環境的要因、心理的・性格的要因が複雑に絡み合って生じると考えられています。ここでは、更年期が胃腸に対して与える影響を大きく3つの視点で分けて見ていきましょう。

エストロゲン低下による消化管機能への影響

更年期に胃腸の不調が起こる背景の一つとして、女性ホルモン、とくにエストロゲンの急激な減少が考えられています。その理由は、エストロゲンが生殖器だけでなく、脳や骨、脂肪、筋肉、皮膚、免疫系など全身のさまざまな組織に作用し、多様な機能に関わっているからです。

胃腸においても、エストロゲンは消化管運動や粘膜バリア機能、炎症反応などに深く関与することが報告されています。そのため、閉経によるエストロゲンの減少は腸管運動や内臓知覚などに影響を与え、胃腸の不調を引き起こす一因となる可能性がゼロではありません。

また、研究では、閉経への移行期において腸管バリア機能の変化を示唆する知見も報告されています。バリア機能が乱れると腸管粘膜の透過性が亢進し、有害物質などが血液中へ移行しやすくなり、全身の免疫反応や炎症へ影響を与える可能性も。こうした変化が、胃腸の不調にどの程度影響を及ぼすのかについては今後のさらなる研究報告が待たれるところではあるものの、胃腸の不調に関する可能性の一つと考えられています。

ストレスによる自律神経への影響

更年期における女性には、その世代特有の心理社会的要因がいくつも存在します。働いている人であれば、職場の人間関係や仕事上の責任の負担など。ほかにも、子どもの自立や親の介護、将来への不安、加齢に伴う女性性の喪失感など、ストレスの種類は計り知れません。

近年では、脳が腸と双方向で影響し合う「脳腸相関」※の重要性も広く認識されるようになってきました。脳でストレスを察知すると、腸に向けて情報伝達の信号が送られ、腸に不調が生じてしまう可能性があります。

また、女性のからだのなかには月経周期をうまくコントロールするため、脳と卵巣をつなぐ一連のネットワーク「視床下部―下垂体―卵巣系」が存在しています。視床下部は下垂体に対してホルモンを分泌するよう指示を出す司令塔で、下垂体は副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)や性腺刺激ホルモン(LH、FSH)などを分泌する器官です。どちらも脳内に存在し、とくに視床下部は自律神経機能の調節にも重要な役割を担っています。

このネットワークを介し、視床下部が神経細胞を経由して卵巣へ作用すると卵胞が成熟します。反対に、卵巣で分泌されたエストロゲンは脳へフィードバックを行うことで、卵巣が過度に働き過ぎないよう調節するという双方向の関係が成り立っています。

更年期におけるエストロゲンの大きな減少は、このネットワークのフィードバック部分に変化を生じさせるため、自律神経の働きにも影響を及ぼす可能性が否定できません。さらに、自律神経は胃腸の運動や分泌などを調節していることから、これらの変化が更年期にみられる胃腸の不調に関与する可能性があると考えられます。

ストレスに対して「若いときよりも耐えられなくなった」と感じる場合はとくに、その影響が胃腸にまで及んでしまう前に、早めの適切な対処を心がけましょう。

※脳腸相関については、既存記事『ブレインフォグの原因「腸内細菌の乱れ」と脳腸相関とは?』を参考にしてください。

腸内細菌叢とエストロボロームの変化による影響

更年期には、腸内環境も大きく変わります。近年の研究により、閉経前後では腸内微生物の多様性が低下し、ビフィズス菌やラクトバチルスなどのいわゆる善玉菌が減る一方で、エンテロバクターなどの有害菌が増えるといった、その構成に顕著な違いが現れることが分かってきました。

そして数十年前から、腸内細菌叢(さいきんそう)がエストロゲンの代謝において中心的な役割を果たしていることが示されています。なかでも注目されているのが、「エストロボローム」と呼ばれる、エストロゲンを代謝できる腸内細菌遺伝子の集合体の関与です。

これは、肝臓で一度代謝されたエストロゲンが胆汁に混ざって腸管へ送り込まれたあと、腸内細菌が持つ酵素などによって再び代謝され、腸肝循環※を介して血液中に戻り、エストロゲンの受容体が存在する体内のあちこちの組織で再び機能する流れを指します。

つまり、「産生」ではなく「代謝」の視点から、体内でのエストロゲンの恒常性維持を示す機構のひとつです。

また、エストロゲンなどの女性ホルモンだけでなく、アンドロゲンなどの男性ホルモンや、腸から胆汁中に排泄される他のホルモンも同じようにこのエストロボロームの関与によって体内でリサイクルされます。

※腸肝循環(ちょうかんじゅんかん):消化管から吸収された物質が門脈を通り肝臓へ入ったのち、胆汁に含まれて胆管を通り腸管内で分泌され、再び腸管から吸収されて肝臓に戻るサイクル。

エストロボロームは、女性のライフステージによって変化すると考えられています。その背景として挙げられるのが、加齢とともに変化する腸内細菌叢の多様性です。一般には、腸内細菌叢の多様性は40歳前後で頭打ちになり、その後は加齢によって個々に固有の状態へと変化していくと言われています。

とくに90歳代や100歳代といった長寿の人では、有益な細菌といわれる「バクテロイデス(Bacteroidota)門※」の占有率が高いことが知られています。この「バクテロイデス門」のほか、「ファーミキューテス(Bacillota)門」はエストロボロームにおいて重要な構成要素である腸内微生物の酵素「β(ベータ)-グルクロニダーゼ」の遺伝子をもつことが研究で明らかにされているのです。

まとめると、腸内細菌叢は、腸肝循環を介したエストロボロームという機構で、体内のエストロゲン濃度を調節しています。そして、腸内細菌叢の多様性の低下はこのエストロボロームの機構に影響を与え、結果として体内で作用するエストロゲンの作用と、ひいては胃腸の機能にも影響を及ぼす可能性があるということです。

ただし、現時点では「エストロボロームと更年期の症状や血中ホルモン値との関連」について、まだ十分に解明されていません。これまでの研究は小規模なものが多く、更年期と腸内細菌叢の関連を確かなものにするには、今後のさらなる大規模な研究報告が待たれるところです。

※「門」などの細菌の分類やヒト腸内細菌の特徴については、既存記事『その肥満、腸内細菌のせいかも?サイエンスから導く効果的な6つの取り組み』で解説しています。ここでは、2021年に改訂された国際原核生物命名規約(ICNP)に従い、「旧名称(新名称)」で記載しています。

原因を踏まえての対処法

ここまで3つの原因を紹介しましたが、「自分のエストロゲン量を測る必要があるのでは?」と感じた人もいるかもしれません。しかし、更年期の不調に対して、ホルモン検査は必ずしも必須ではありません。

産婦人科診療ガイドラインでも、女性ホルモン(エストラジオールや卵胞刺激ホルモン)の血中濃度は閉経の約2年後まで大きく変動するため、閉経前後の時期における測定は必ずしも有用ではないとされています。

そのため、日々の生活習慣や食事からアプローチすることが大切です。たとえば、地中海食のような食事内容は、エストロゲン代謝産物のバランスを改善する効果が期待できます。また、運動と組み合わせた減量(ダイエット)は、ホルモンの調節や腸内細菌叢の多様性を向上させることにも寄与します。そして、自律神経の乱れを招かないためにも、ストレスを溜めないよう上手に発散し、適度な睡眠を維持することも心がけましょう。

地中海食に代表される「腸内環境を整える食事」については、既存記事『腸内環境を整える食事、食材の選び方と効果的な組み合わせは?』で解説しています。また、ストレスの発散については、いわゆる“幸せホルモン”との密な関係が考えられるため、既存記事『「幸せホルモン(幸福物質)4つ」ドーパミン・セロトニン・オキシトシン・βエンドルフィンとは?』も参考にしてください。

更年期障害を疑うときのチェックリスト

厚生労働省の運営する公式サイト「スマート・ライフ・プロジェクト~女性の健康推進室ヘルスケアラボ~」では、年代を選び、10項目の症状を4段階で回答する「更年期障害チェック」を公開しています。 

10項目の症状は、たとえば顔のほてりや発汗、イライラ、頭痛、めまい、睡眠の問題や吐き気などです。こうした症状に加え、症状があるときの食事内容や便の状態、続く期間についても記録しておくと診察時にも役立ちます。

このセルフチェックはあくまでも自身の状態を整理する手段で、診断を確定するものではありません。しかし、心身の変化や社会的要因が絡む更年期症状により、本人が日常生活に困難を感じていれば治療対象となります。「そこまでひどくない」と感じる場合でも、日々の状態を記録しながら、必要に応じて医療機関への受診を検討してみましょう。

更年期の症状を相談できる窓口や診療科

更年期に胃もたれや便通異常など胃腸の不調がある場合、必ずしもはじめから婦人科を受診しなければいけないわけではありません。内視鏡検査などを備えた消化器科でまず大きな病気が隠れていないかを確かめ、必要に応じて婦人科を紹介してもらうのも手段のひとつです。

ただし、胃腸の他にも頭痛や肩こりなど、更年期症状は非常に多彩なため、あちこちの医療機関を巡る「ドクターショッピング」には注意しましょう。

また、毎年3月1日から8日は「女性の健康週間」として厚生労働省が定めており、さまざまなシーンで健康課題への啓発活動が行われています。

公私ともに責任ある立場にいることも多い更年期世代の女性にとって、自分らしく健やかに過ごせることはQOLや“幸福度”を左右すると言っても過言ではありません。「更年期はそのうち終わる」と我慢せずに、胃腸を含めた自身の不調に丁寧に向き合い、早めに医療機関へ相談して適切なケアにつながることが何よりも大切です。

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